コラム

“SO2無添加” “メルロー100%”の意欲的なワインを手掛ける「ヴィニョーブル・シオザール」 ~ボルドーワイン委員会ウェビナー

ボルドーワイン委員会(CIVB)は2020年12月2日、ウェビナー「ボルドーの赤ワイン~正統派だけじゃない、モダンで型にはまらないスタイルも~」を開催した。

ウェビナーでは、3人の若手生産者が、これまでの伝統にとらわれない新しいスタイルのキュヴェをライブテイスティングで披露した。今回は、アントル・ドゥ・メール地区のヴィニョーブル・シオザールについて紹介する。

双子の兄弟がタッグを組む、ヴィニョーブル・シオザール

ヴィニョーブル・シオザールは、ローラン氏とダヴィッド氏の双子のシオザール兄弟が経営するワイナリー。ウェビナーには、オーナー兼ワインメーカーのダヴィッド氏がゲストスピーカーとして登場した。

ゲストスピーカーとして登場したダヴィッド・シオザール氏(写真左)

シオザール家は、6世代続く歴史あるつくり手だ。シャトー・ジャン=ラルクを所有することでも知られる。

現在、9つのAOCで6種の黒ぶどうと、4種の白ぶどうを生産している。2017年には、環境価値重視認定(HVE)のレベル3を取得した。

SO2無添加のワイン「イプサム(IPSUM)」

ウェビナーでダヴィッド氏が紹介してくれたのは、“SO2無添加”“メルロー100%”という意欲的なワイン「ヴィニョーブル・シオザール イプサム メルロー」だ。

SO2無添加とは?

アルコール発酵時に生成されるSO2は、どんなワインにも元々含まれるもので、ここで取り上げるSO2無添加ワインとは、「亜硫酸塩を人為的に添加していないワイン」を指す。ダヴィッド氏は、人為的にSO2を添加しないワインは「砂糖を加えないジャムのようなもの」と表現した。

SO2無添加のワインは、入念な管理の下で生産される。収穫の際は、ぶどうを衛生的に収穫するために徹底的な管理を実施し、蔵に運んだ後も、細心の注意を払って高い衛生状態を保つ必要がある。手間がかかる上にリスクの高いSO2無添加ワインに取り組む理由として、ダヴィッド氏は「品種本来の個性を最大限に引き出すために必要な工程だ」と語った。

ちなみに「イプサム」シリーズは、メルローのほかに、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、カルメネール、プチ・ヴェルドをそれぞれ単一品種で仕上げた計5種類を展開している。

高い衛生管理が必要なSO2無添加ワイン

ダヴィッド氏によると、SO2無添加ワインの場合、ぶどうは蔵に近い畑から収穫して運搬距離を短縮し、衛生状態を保ったまま加工する。また、生産に使用する管やステンレスタンクも、定期的な清掃を徹底することで、常に清潔な状態を維持しているという。

他にも、SO2無添加ワインを管理する重要なポイントとして挙げられたのが、ワインの自己防御能力を引き出す工夫だ。例えば、「イプサム」の生産では、通常よりも早くアルコール発酵をスタートさせ、マロラクティック発酵へとスムーズに流れるように温度を丁寧に管理している。

こうした管理体制や生産時の工夫は、「イプサム」が誕生した2013年以来、トライ&エラーを繰り返しながら、経験値を高めていくことで培ってきたものだと、ダヴィッド氏は解説する。

モダンなボトルラベルと、呼びやすいネーミング

「イプサム」のボトルは、いわゆる“ボルドースタイル”ではなく、モダンでシンプルなラベルデザインが特徴的だ。

ラベルデザインについてダヴィッド氏は、シャトーのイメージをまとった伝統ワインの路線とは異なる、シンプルで目につきやすいデザインを追求したと語る。また、ラテン語で「自分自身」「自発的」を意味する「IPSUM」というネーミングについては、ラベルデザインと併せて、シンプルで口にしやすく、覚えやすい響きから名付けたことを明かした。

摘みたての果実をかじったようなみずみずしさ

ボトリング直前にCO2を放出させているため、空気に触れさせると果実の香りがクリアに引き立つ。口に含むと、摘みたての果実をそのままかじったような、はつらつとした味わいや豊かな風味が広がり、タンニンは非常にしなやか。後味のみずみずしさは、「イプサム」に使用されるメルローが、ドルドーニュ川に面したサン・テミリオン地区の石灰のミネラル分を含んでいることに由来している。

ダヴィッド氏はこのワインを、「喉の渇きを癒やす味わい」と表現。「軽く冷やして飲むと果実感やみずみずしさを素直に楽しんでいただけます」とした。また、高級ワインの産地として知られるポムロールで、メルロー単体のワインがつくられていることに触れ、メルローが単一品種ワインの魅力を引き出しやすい品種であることにも言及した。

ペアリングについては、「和食とも相性が良いワイン。焼き鳥や鉄板焼きに合わせて楽しんでいただくのがおすすめです」と話した。

SO2無添加の製法で、メルロー本来のはつらつとした味わいを引き出した「イプサム」は、ボルドーの若手生産者による意欲的なチャレンジを体験できる1本だ。

ヴィニョーブル・シオザール イプサム メルロー

品種:メルロー100%
AOC:ボルドー
ヴィンテージ:2019
認定:Terra Vitis、HVE認証取得
栽培面積:3ha
年間生産量:2万本
醸造:温度調節機能付きのステンレスタンクで伝統的な醸造。浸漬は5日間。アルコール発酵は20℃で10日間。SO2無添加。
熟成の可能性:1~2年

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About the author /  原田さつき
原田さつき

広告制作会社でコピーライターとしてワイン・ビールの販売促進に携わったのち、フリーランスに。WEBメディア・取材記事・機関紙など、幅広く活動。得意分野は酒・食・ペット。