コラム

ファンがクラファンでサポートも! 家族経営の小さなワイナリー、カンティーナ・リエゾー ~長野県 ワインツーリズム 体験レポ③

長野県北東部にあり、人口7000人にも満たない村ながら、6軒のワイナリーがある信州高山村(正式名称:長野県上高井郡高山村)。ワイン用ぶどう産地としての自然条件に恵まれており、フランスのシャンパーニュ地方やブルゴーニュの南部地方に似ていると言われている。

そんな信州高山村のワイン産地としての、また観光地としての魅力をアピールするため、メディア向けに開催されたのが、長野県長野地域振興局主催の「“農観連携”ワインツーリズム」だ。

今回は、メディアツアーで訪れたワイナリーの中から、栽培・醸造責任者の湯本康之氏からうかがった内容を中心に、カンティーナ・リエゾー(Cantina Riezo)について紹介する。

カンティーナ・リエゾーとは

カンティーナ・リエゾーは、前回紹介した信州たかやまワイナリーとは対照的な、夫婦で営むアットホームなワイナリーだ。自分たちを「ワイン農家」と呼び、ぶどうの栽培から醸造まで手作業にこだわっている。

左から、栽培・醸造責任者の湯本康之氏と妻の湯本理絵氏

カンティーナ・リエゾーの成り立ち

もともと、サンクゼール(長野県飯綱町)で働いていたという湯本夫妻。そこでワインづくりの経験を積んだ康之氏は、自分らしいワインづくりを目指し、妻と共にイタリアへ半年間のワイン修行に向かうことに。

修行に訪れた地で、小さい農家が立派とは言えない蔵でワインをつくっているのに感銘を受けたことから、農家がワインをつくる「ワイン農家」というスタイルでのワインづくりを目指すようになった。

そんな彼らが、信州高山村でワイン用ぶどうの栽培を始めたのは、2007年のこと。今ではワイン用ぶどうの名産地として知られている信州高山村だが、当時は周囲の農家から心配されることも多かったという。もともと親戚の畑があったという縁でやってきた信州高山村だが、この地で質の高いワイン用ぶどうを栽培できる自信は十分にあったそうだ。

2011年には、サンクゼールに委託醸造してもらったワインを販売。ワインへの反応に手応えを感じて、ワイナリーの建設を目指すことになった。

カンティーナ・リエゾーの畑は0.7ha。善光寺平を見下ろす、標高620mほどのところに広がっている。ぶどうの収穫量は6tほどで、年間5000本ぐらいのワインを製造している。

通常であれば酒類製造免許(酒造免許)を取得するには6000Lほど、ボトル(750ml)にして8000本程度の製造量が必要だ。カンティーナ・リエゾーが小規模ながらも酒造免許を取得できているのは、信州高山村が2011年にワイン特区に指定されているから。ワイン特区では、2600本程度から酒造免許の取得が認められている。「だからこそ、こんな小さな村に6軒ものワイナリーがあるのです」と、康之氏は語る。

その後、クラウドファンディングで資金を得て、2015年にワイナリーを設立。高山村のワイナリー第1号となった。クラウドファンディングでは、予想よりも速いスピードで目標額に到達したという。それは、これまでつくってきたワインで得た、ファンからの信頼と期待のおかげだろう。

カンティーナ・リエゾーのワインづくり

カンティーナ・リエゾーが手掛けている白ワイン用品種は、シャルドネのみとなる。残りは赤ワイン用品種で、メルローが最も多く、ピノ・ノワールが続く。他には、イタリアで修業したカンティーナ・リエゾーらしく、バルベーラ、ドルチェット、サンジョベーゼなどのイタリア系品種を5品種ほど手掛けている。主力となっているのは、信州高山村の代表品種であるシャルドネと長野県の代表品種であるメルローだ。

バスケットコートよりも小さい蔵のようなワイナリーは、断熱材は羊毛、屋根は本瓦、壁は焼き杉を使用している。この中で、手作業と信州高山村でしかできないワインを意識したワインづくりが行われている。

ワイン用ぶどうを搾って果汁を取り出す圧搾機も、木製のバスケットプレスだ。

これは、シャンパーニュ地方では伝統的に使われているもので、上から圧力をかけてぶどうの果汁を取り出す。自動制御は付いておらず、どの程度搾るのかを人の手で加減する繊細な抽出を行っている。

発酵時の温度も機械で管理するのではなく、信州高山村の気温の変化に合わせている。気温や雪解けなどのタイミングを見て、いつ作業を進めるかをその都度判断しているのだ。他の場所では再現できない、信州高山村でしかできないワインづくりだが、機械に任せない分、経験と技術力が必要になる。

ワインの構成もその年のぶどうの出来から、品種単体のワインにするのか、ブレンドをするのか、ロゼにするのか、スパークリングにするのかを決めているそうだ。

ワインの樽には夫妻の3人の子どもが描いたイラストが

カンティーナ・リエゾーのワインは、信州高山村でしか、湯本夫妻にしか、そのヴィンテージにしかつくれない味わいだと言えるだろう。

康之氏が語るワイン産地・信州高山村

「最近はワイン目的で訪れてくれる人も増え、私たちが畑を始めた頃に比べると、ワインの認知度が上がったと感じています」と語る康之氏。実際に15年間、ワイン用ぶどうの栽培をした経験から、信州高山村のワイン産地としての特徴を語ってくれた。

リンゴの産地として知られていた信州高山村だが、当時はワイン用ぶどうの存在自体を知らない村民も多かったという。現在は、村内の栽培可能なエリアでワイン用ぶどうが栽培されている。ワイン用ぶどうは樹齢が10年を超えたあたりから良い状態になるが、カンティーナ・リエゾーのぶどうは樹齢15年目を迎えた。「信州高山村の他のワイン用ぶどうにも、10年を超えた樹齢のものが多くあります。そのことも、村の大きな財産です。新しい産地はここ数年で植えたものが多いので、大きなアドバンテージだと言えるでしょう」と康之氏は語る。

また、「信州高山村のワイン用ぶどうは、全国各地のワイナリーに出荷されています。品質の高さが知られている、いわゆるブランド品です。ワイン用ぶどうの中では、日本で一番価格の高い産地だと言えるでしょう」と、ワイン産地としての信州高山村の実力に自信をのぞかせている。

カンティーナ・リエゾーが目指すアグリツーリズモ

カンティーナ・リエゾーでは2022年11月14日より、観光客とワインのつくり手とワインの愛好家との交流の場をつくるべく、クラウドファンディングを実施している。

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このクラウドファンディングで目指している、アグリツーリズモの内容を紹介する。いずれも完全予約制となる。順調にいけば、2023年5月中旬ごろに本格オープンの予定だ。

アグリツーリズモとは

アグリツーリズモとは、農場や農村で休暇を楽しむというものだ。農業(アグリクルトゥーラ)と観光(ツーリズモ)を組み合わせた言葉となる。一般的には、グリーンツーリズムやアグリツーリズムと呼ばれている。カンティーナ・リエゾーが目指しているのは、ワイン修行をしたイタリアで体験し、感銘を受けた“農村に宿泊し、田舎体験をする旅”を提供すること。そのため、イタリア語のアグリツーリズモを採用している。

支援を募集しているクラウドファンディングでは、次のように目指すべきアグリツーリズモの姿が語られている。

私たちが目指すのはイタリアのアグリツーリズモのようなファームステイです。従来のようないわゆる『観光農園型』ではなく、飾らない素朴な農村・農家のありのままの姿を感じて滞在していただき、私たちがかつてヨーロッパで体験し感銘を受けたサービスをここ高山村で実現するプロジェクトです。

アグリツーリズモで信州高山村に足を運んでもらい、その魅力を体験して知ってもらうことがワインの販売につながると期待しているそうだ。

ワインのテイスティングができるショップ

まず、アグリツーリズモで目指しているのは、既存のワイン醸造所に併設されたテイスティングと飲食ができるショップを造設すること。併せて、駐車場も整備するつもりだという。

信州高山村を訪れたワイン好きの人々をおもてなしする場所、また自分たちのワインの魅力を十分に伝える場所を目指しているそうだ。

日帰りのファームステイ

ショップのオープンに合わせて計画されているのが、日帰りのファームステイだ。次の2種類のコースを予定している。

①畑と醸造施設の見学&テイスティング(所要時間:約1時間)
②畑と醸造施設の見学&地元食材を使用したランチとのペアリング(所要時間:約2時間)

イベントの実施

年に数回ほど、外部からシェフを招いたパーティーを実施予定だ。造設予定のテラス席から、善光寺平や北アルプスを眺めながらワインのつくり手との特別な時間を楽しめる。

宿泊型アグリツーリズモを目標に

最終的には、アグリツーリズモの宿(農家民宿)を目指しているという。

カンティーナ・リエゾーのワイン

信州高山村のワインの魅力は、ブランド品とも呼べる高品質なぶどうでつくられたワインが、お手頃な価格で味わえること。カンティーナ・リエゾーのワインも、日常を彩りたい時に、無理のない価格で楽しむことができる。

カンティーナ・リエゾーでは、毎年ぶどうの出来を見て、醸造するワインを決めている。ここでは一例として、2022年11月25日時点で発売中の3本のワインを紹介する。

ラベルには、3人の子どものイラストが描かれている

チャオ チャオ ロッソ 2021 メルロー&カベルネフラン

価格3300円(税込)

ドライクランベリーやプルーンなどの果実の味わいだけではなく、しょうゆのような塩味のニュアンスもあり、食事によく合うエレガントなワイン。家庭料理に合わせやすいのがうれしい1本だ。メルロー(58%)に、メルローと相性の良いカベルネ・フラン(42%)をブレンドしている。

中心にしっかりとした黒さの見えるガーネットの色合い。口に含むとしっとりとした質感があり、果実味がアルコールのボリュームと共に広がり次第にドライなタンニンと若さを感じる酸がワインに抑揚を与えています。余韻は比較的スッキリしていますが果実の旨味があり何か食べたくなる味わいです。

チャオ チャオ ロッソ 2020 メルロー

価格2970円(税込)

長野県の代表品種であるメルローを100%使用した赤ワイン。果実の実力が感じられる。カンティーナ・リエゾーのワインを飲んだことがなく、どれを選んだらいいのか分からない、という人におすすめしたい1本。ハムやローストビーフ、パルメザンチーズなどの軽い料理や、鶏のすき焼き、しゃぶしゃぶなど質感の柔らかい料理に合わせやすいとのこと。

透明感のあるガーネットの色合いに、控えめながらプラムやクランベリーなどの果実、スパイシーな香辛料、乳酸飲料の様なクリーミーな香りがあり、瑞々しい口当たりと共にフレッシュフルーツのような爽やかな果実味と酸、カンティーナ リエゾーらしい旨味のある余韻が広がります。また、若いワインながらタンニンもシルキーな物腰の柔らかいワインです。

チャオ チャオ ロッソ 2021 ウヴァッジョ

価格3300円(税込)

メルロー(76%)、バルベーラ(14%)、アリアニコ(10%)をブレンドしている。メディアツアーでは夕食と共に提供され、ジビエ料理との相性の良さに参加者から「おいしい!」との声が上がっていた。みりん干しや西京焼きなどしっかりと下味が付いた料理、オムレツやカルボナーラなど卵を使った料理、ジビエ料理などと相性が良い。

鮮やかなミディアムパープルの色合いで、開けたてはクリーミーな香りが印象的に漂いますがすぐにカシス、ワイルドベリー、ブルーベリーなどベリー系の果実、少しインクやバルサミコのようなニュアンスも感じられます。口に含むと黒果実が中心ながら酸味のあるフレッシュな果実味が感じられ、余韻にはドライなタンニンとクリスピーなニュアンス、クローヴのようなスパイスが感じられます。高い酸が全体を構成しておりフレッシュな果実味と共に様々なニュアンスをお楽しみいただけます。

※各ワインの説明は、全てカンティーナ・リエゾーのHPより引用。

湯本夫妻が信州高山村の自然環境と寄り添いながら、等身大のワインづくりをしている、カンティーナ・リエゾー。ご夫婦の人柄や現地の風景を見ると、余計に愛着が増しておいしく感じられるもの。「アグリツーリズモが実現した際には、ぜひ再び訪れたい!」と感じられる、癒やしのワイナリーだった。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ