コラム

20周年を迎えた「グランポレール」の新たな挑戦 ~サッポロビール「グランポレール20周年ブランド戦略説明会・試飲会」レポート

高品質のワインを安定的に供給し続け、ワインファンから厚い信頼を得ている、日本ワインブランド「グランポレール」。2023年には20周年を迎え、新ヴィンテージからリニューアルが行われる。

同年6月6日の新ヴィンテージ発売に先駆け、サッポロビールは同年5月29日、グランポレール ワインバー トーキョー銀座コリドー街店(東京都中央区銀座)で、「グランポレール20周年ブランド戦略説明会・試飲会」を開催した。

左から、マーケティング本部ワイン&スピリッツ事業部マーケティング統括部長の柿内望氏、グランポレール チーフワインメーカーの工藤雅義氏、マーケティング本部ワイン&スピリッツ事業部長の佐々木悟大氏

今回は、ブランド戦略説明会で語られた、「グランポレール」のこれまでとこれからについてまとめる。

「グランポレール」とは

“偉大な北極星”を意味する「グランポレール」を、サッポロビールが世に送り出したのは2003年のこと。「北海道、長野、山梨、岡山の4つの産地の特長、品種の特徴、つくり手の思いを込めて、20年間ワインづくりに取り組んできた」と柿内氏は説明する。

「グランポレール」の歴史

「グランポレール」の誕生は2003年だが、実はサッポロビールのワインづくりの歴史は、1976年から始まっている。

サッポロビールの創業100周年を記念して、ワイン事業がスタート。山梨県甲州市勝沼町に、サッポロワイン勝沼ワイナリーが誕生した。その1年前の1975年には、初の自社畑となる長野古里ぶどう園(長野県長野市竹富)を開園させている。1984年には、サッポロワイン岡山ワイナリー(岡山県赤磐市)がオープン。同時期より、北海道余市郡余市町でケルナーの栽培に着手している。

こうしてワインづくりの経験を重ね、2003年に販売開始となったのが「グランポレール」だ。その後、第2の自社畑である安曇野池田ヴィンヤード(長野県北安曇郡池田町)を2009年に、サッポロビールで最大の面積を誇る北海道北斗ヴィンヤード(北海道北斗市三ツ石)を2018年に開園させている。2012年には、「グランポレール」専用のワイナリーとして、また消費者とつくり手をつなぐ拠点として、グランポレール勝沼ワイナリーがリニューアルオープンした。

「グランポレール」の産地

「グランポレール」の産地について説明してくれたのは、チーフワインメーカーの工藤氏だ。

グランポレール チーフワインメーカーの工藤雅義氏

チーフワインメーカー、工藤雅義氏の経歴

1985年、サッポロワイン(現・サッポロビール)に入社し、岡山ワイナリーでワイン製造のキャリアをスタート。1992~1994年に、カリフォルニア大学デービス校でワイン醸造学を専攻し、フードサイエンスの修士号を取得している。2004年に勝沼ワイナリーに異動し、2005年よりチーフワインメーカーに就任した。

「カリフォルニアでワインづくりを勉強してきたと言うと、樽をがっつり使ったり、新しい技術を使ったりする傾向があると思われる」という工藤氏だが、自身のワインづくりのモットーは、“ぶどうがなりたいワインをつくること”だという。「どうやったらぶどうをおいしいワインにできるか、品種の特徴や産地の個性をワインにできるかを考え、自分のエゴは挟まないようにワインをつくっています」と語っていた。

長野古里ぶどう園

1975年に長野市郊外に開園した、サッポロビールで最も古いぶどう園。フランス系の品種を中心に栽培している。もともとはビールのホップを栽培していた畑だったという。

本来はワイン用ぶどうの栽培に不向きな肥沃な土地だったが、栽培を通じて肥沃度を下げ、今はワイン栽培にちょうど良い肥沃度になっている。千曲川の支流である浅川に隣接しており、日本では珍しい貴腐ぶどう(リースリング)ができる環境だ。

開園当初は、日本でよく見る棚式でぶどうは栽培されていたが、現在は欧米で主流の垣根式に変更している。ただし、貴腐ワインとなるリースリングだけは、現在も棚栽培とのこと。

面積:3.0ha
栽培品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネ、リースリングなど

余市弘津ヴィンヤード

1990年に北海道余市郡余市町登町に開園した、契約農家である弘津氏が手掛けているぶどう園。気温が低いので、冷涼な場所で栽培できるドイツやオーストリア系の品種が中心となる。新しい挑戦として、2006年よりブルゴーニュ系のピノ・ノワールの栽培にも着手。独特の香りを持つ、チャーミングなワインが生み出されている。

余市湾を望む高台に位置するが、標高はそれほど高くない。余市は北海道最大の産地であり、良質なワイン用ぶどうの産地として注目を集めている。

面積:8.4ha
栽培品種:ピノ・ノワール、ツヴァイゲルトレーベ、ケルナー、バッカスなど

安曇野池田ヴィンヤード

2009年に長野県北安曇郡池田町に開園したぶどう園。2023年時点では、サッポロビールの自社畑の中で最大の栽培面積を持つ。フランス系の品種を中心に手掛けている。

標高が平均580mと高く、風通しが良くて、昼夜の寒暖差が大きい。石ころが多い傾斜地で、日本では珍しいほど水はけが良く、痩せた土地でもある。こうした自然条件から、酸を残したまま高い糖度を保ち、十分なポリフェノールを持つ、しっかりとタンニンが合成された理想的なワイン用ぶどうが生まれる。

ぶどう園では、標高が高く、気温が低いところにピノ・ノワールやシャルドネのブルゴーニュ系品種を、標高が低くて気温が比較的高いところにボルドー系を植えている。乾燥しているところはカベルネ・ソーヴィニヨン、ウェットなところはメルローなど、土の渇きも品種を決める重要なポイントだ。「最も良く出来るのはカベルネ・ソーヴィニヨンだが、年数が経ってきてメルローの質も上がってきた」と、工藤氏はコメントしている。

面積:12.4ha
栽培品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど

北海道北斗ヴィンヤード

元々はトラピスト修道院の牧草地だった場所に、2018年に開園した新しいぶどう園。同じ北海道の余市弘津ヴィンヤードと比べると比較的気温が高く、これまで北海道では難しかった品種に挑戦ができるという。北海道では珍しい、甲州の栽培にも挑戦している。

土壌は痩せており、かなりの傾斜地であるため、水はけが良い。もともと雨は多くないが、水はけが良いので土が乾きやすい。南東向きの斜面の畑は、日当たりも良好だ。高級ワイン用ぶどうの生育に最適な気候・土壌の諸条件が揃っている。

面積:25.4ha(うち、栽培面積は9.1ha)
栽培品種:メルロー、シラー、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴェルツトラミナー、甲州など

「グランポレール」が注目する産地・北海道

「グランポレール」が注目している産地が北海道だ。最大の面積を持つ自社畑、そして長年、「グランポレール」を支えてきた契約畑が存在している。

気候変動の影響もあり、良質なぶどうを求めて、ワイン産地は年々北上している。北海道は、山梨県、長野県に続く3番目のワイン産地だが、前年からのワイナリー数の増加率は全国1位となっている。2011年には余市町が北海道で初めてワイン特区として認定され、ワイナリーの参入が加速しつつある状況だ。

代表品種としてはケルナーやツヴァイゲルトレーベが有名だが、最近ではピノ・ノワールの進化に情熱を傾けるつくり手も増えてきているという。「グランポレール」でも北海道北斗ヴィンヤードに大きな可能性を感じており、説明会では「道南をワインの銘醸地として押し上げていきたい」と語られていた。

リニューアルした「グランポレール」

20周年を迎え、2023年6月6日に発売された新ヴィンテージでは、これからも飛躍を目指すために、3つのリニューアルが実施されたという。

新コンセプト“想いをつなぐ日本ワイン”

2018年から使用されていた、“日本ワインの、美しい星になる”からコンセプトを一新。新コンセプトとなったのが、“想いをつなぐ日本ワイン”だ。「つくり手の思いを一方的に伝えるだけではなく、お客様に共感していただける『グランポレール』にしていきたい」との思いが込められているそうだ。

2023年は、さまざまな情報発信や新商品の発売を通して、前年比4割増の売り上げを目指している。

思いをつなぐ取り組みとして行われているのが、デジタルやリアルなイベントを通じた、熱狂的なファンづくりだ。ブランドサイトや20周年記念ページを通して、「グランポレール」を知ってもらうだけではなく、今後はメーカーズイベントやワイナリーでの収穫体験などのリアルイベントを増やして、消費者と交流をしながら、若手とベテランのつくり手の思いを発信していきたいとのこと。

「誰にも負けない情熱を集結させて、今後も成長していければ」との熱い言葉が、柿内氏からは語られていた。

ポートフォリオ

ブランドの情報発信を強化する一環として新しくなったのが、ポートフォリオだ。商品の特性ごとに3つのシリーズに分け、選びやすい商品提案をしている。

「シングルヴィンヤード」シリーズ
自社畑と指定畑の単一畑でつくられた、「グランポレール」最高峰のライン。ヴィンテージやテロワールの違いを感じてもらえるワインづくりをしており、価格帯は4000~1万円ほど。

「キャラクター」シリーズ
産地×品種×生産者の個性が際立つシリーズだ。2000~3000円ほどの価格帯で、少しプレミアムな気分を味わいたい時に楽しめる。

「ブレンド」シリーズ
1000円台のリーズナブルなシリーズ。これから日本ワインを楽しみたいと思っている消費者が、日本ワインの魅力をカジュアルに楽しめる。

リニューアル3:ラベルデザイン

今まで北極星がトレードマークだったデザインが、「シングルヴィンヤード」シリーズでは、ヴィンヤードの光景をモチーフとしたラベルに変更された。例えば、「グランポレール 北斗 シャルドネ<初収穫>」のラベルに描かれているのは、津軽海峡の澄んだ青い海と函館湾から一望できる北斗の山々だ。

ボトルの裏には、これまでと変わらず「つくり手のメッセージ」を掲載。さらに2次元コードを配置し、より詳しい情報に簡単にアクセスできるようになった。

新ヴィンテージ4本をテイスティング

試飲会では、新ヴィンテージから4本のワインをテイスティングした。

グランポレール 北斗 シャルドネ<初収穫>2022

2018年に新たに開園した、北海道北斗ヴィンヤードの記念すべきファーストヴィンテージ。500本だけの数量限定生産のため、一部エリアに限っての販売となる。

かんきつの豊かな香り。安曇野のシャルドネはパイナップルのような香りが強く出るが、北斗はレモンのような香りが出ているのが特徴だという。北海道らしい豊かな酸味もあり、香りと相まってボリューム感のあるワインだ。

工藤氏は、「北海道のシャルドネはこうなるのか、と驚かされたワインです」と語る。また、柿内氏も「ファーストヴィンテージにありがちな物足りなさは、このワインにはない」と自信をのぞかせている。

品種:シャルドネ100%
産地:北海道北斗ヴィンヤード
アルコール度数:13%

グランポレール 安曇野池田ソーヴィニヨン・ブラン<薫るヴェール>2022

つくり手が“薫り”に徹底的にこだわって生まれた、「薫るヴェール」。ヴェールとは、フランス語で緑を意味する。

ソーヴィニヨン・ブラン特有のグレープフルーツのニュアンスに、カシスの芽やディルの爽やかで華やかなアロマがある。豊かな酸味を生かしたつくり方をしているとのこと。魚介類やサラダ、揚げ物と、さまざまな食事に合わせやすいほろ苦さと、余韻に残る塩気が特徴的な1本。爽やかな香りと引き締まった印象があり、これからの季節にぴったりなワインだ。

品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
産地:安曇野池田ヴィンヤード
アルコール度数:13%

グランポレール 余市ピノ・ノワール 2019

契約栽培農家の余市弘津ヴィンヤードで、手間を惜しまずに栽培されたピノ・ノワールを使用した、チャーミングかつ奥行きのある1本。

かなり淡い色合いだが、見た目の印象とは異なり、口に入れた時の存在感、赤ワインとしての主張がしっかりとある不思議なワイン。ドライラズベリーにスミレ、紅茶も感じるチャーミングな香りが、余市産ぶどうの特徴とのこと。

品種:ピノ・ノワール 100%
産地:余市弘津ヴィンヤード
アルコール度数:13%

グランポレール メリタージュ 2018

安曇野池田ヴィンヤードのカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを、ベストバランスでブレンドしたトップキュヴェ。

安曇野池田ヴィンヤードで最も自信があるというカベルネ・ソーヴィニヨンに、メルローをブレンド。カベルネ・ソーヴィニヨンでストラクチャーをつくり、メルローで奥行きを生み出すというコンセプトは変えずに、その年のぶどうの出来に応じて、ブレンド比率を変えてベストバランスを追い求めている。使用するワインは、熟成が終わった後にワインメーカーがテイスティングし、最も良い樽だと認定したものだ。

醸造に関わったグランポレール勝沼ワイナリーのワインメーカー・多田淳氏は、「小粒で濃縮感のあるぶどうが出来るので、シンプルにぶどうの個性を発揮させた」とコメントしている。

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン・ブラン55.5%、メルロー 44.5%
産地:安曇野池田ヴィンヤード
アルコール度数:13%

試飲会では、他にも数種類のワインを試飲できた。どれも食事との相性が良く、プライベートな時間から仲間とワイワイ過ごす時間まで、さまざまなシーンを彩ってくれる、素直に「おいしい」と言えるワインばかりだった。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ