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シェリーは、スペイン南部のアンダルシア州カディス県ヘレス市で主に生産されている酒精強化ワイン(フォーティファイド・ワイン)だ。そのシェリーを使ったカクテル・コンペティション「ティオ・ペペ・チャレンジ2020」の開催を前に、シェリーについての理解を深めるマスタークラスがホテル・ニューオータニ(東京都千代田区)にて開催された。
コンペティションの名前にもなっているシェリー「ティオ・ペペ」のメーカー「ゴンザレス・ビアス社」は、2016年のインターナショナル・ワイン・チャレンジアワードにて、ベスト・フォーティファイド・ワインメーカーとベスト・スパニッシュ・ワインメーカーを受賞している。
今回、セミナーの講師を務めたのは、ゴンザレス・ビアス社のマスター・ブレンダーであるアントニオ・フローレス氏だ。セミナーの冒頭では、「なかなか日本に来てもらえない人物」として紹介されていた。
シェリーの醸造責任者をしていた父の姿を見て育ったというフローレス氏。力強くもシェリー愛にあふれた講義と共に紹介された、7種のシェリーを紹介したい。
シェリーの味わいを決める3つのキーワード
シェリーは、使われるぶどう品種が決まっていること、特別な熟成法、製造方法を特徴とする。まずはその3つのキーワードを簡単にまとめよう。
原料は全て白ぶどう品種
シェリーの原料となるぶどう品種は3種類で、いずれも白ぶどう品種だ。透明感のない、濃い色合いのシェリーもあるが、それは熟成に由来する。
●シェリーの原料1:パロミノ・フィノ
パロミノ・フィノとは、シェリーの原料として認可されているぶどう品種の1つ。ぶどう果汁の糖度の指標である潜在アルコール度数は11.1ボーメ。潜在アルコール度数とは、果汁に含まれる糖が全てアルコールになったときのアルコール度数のことで、数値が大きいほど糖度が高いということになる。
●シェリーの原料2:ペドロ・ヒメネス
ペドロ・ヒメネスは、主に甘口のシェリーの原料として認可されているぶどう品種の1つ。潜在アルコール度数は12.8ボーメだ。
水分量の40%を失わせる干しぶどう状態になったものを収穫し、さらに最低でも10日間は天日干しさせることで、糖度を高めている。プレスした果汁の色は濃く、糖分が凝縮している。
上記2品種は、白い炭酸カルシウムを豊富に含んだアルバリサ土壌で主に栽培される。残りの1品種モスカテルは、沿岸部のアレナスという土壌で栽培されている。
生物学的熟成と酸化的熟成
シェリーのベースとなる白ワインは、発酵によって自然な状態でアルコール度数が11%~12%程度になる。発酵が終わると、ソレラ・システムで熟成過程に入る前にアルコール添加され、酒精強化(アルコールを加えてアルコール度数を上げること)される。酒精強化は、熟成のタイプを決めるために行われる。
高いアルコール下ではフロール(産膜酵母)が死滅するが、これによりフロールの下で空気と接触せずに熟成される生物学的熟成と、空気に触れながら熟成する酸化熟成の2つの熟成がある。
●生物学的熟成
生物学的熟成とは、酒精強化の際に、アルコール度数を15.5%に抑えて、酵母が生きたままの状態で樽熟成させること。生きた酵母により、フロールの膜が液面の上部を覆うので、ワインは空気に触れずに酸化が抑えられた状態で熟成される。
フロールは、呼吸しながらワインの中の成分を栄養にして生きているが、同時にフロール独特のイーストっぽい香りをワインに与える。フロールは、ワインの表面を覆ってワインが空気と接触するのを防ぐため、もともとの白ワインの色が保たれる。
シェリーのタイプ:フィノ、マンサニーリャ
●酸化的熟成
酸化的熟成とは、酒精強化の際にアルコール度数を18%にまで上げ、酵母が無くなった状態で樽熟成させること。ワインは上部が空気に触れた状態で、ゆっくりと熟成していく。色が琥珀色に変わり、どんどん香り豊かに、力強くなっていく。
シェリーのタイプ:オロロソ
ソレラ・システム
ソレラ・システムとは、シェリーをつくる伝統的な方法の1つ。一番新しいワインが最上段になるようにワインの樽を積み重ね、一番下にある古い樽からボトリングしていく。減った分は下から2段目の樽から継ぎ足し、その目減り分をさらに上の樽から継ぎ足す……という作業のこと。
こうすることで、年式の異なるワインがブレンドされていく。長年熟成されたワインと新しいワインが混ざり合うことで、長い年月を経ても安定した品質と伝統的な味わいを保てるというメリットがある。スティルワインとは異なり、ヴィンテージを記載しないシェリーならではの製造過程だ。
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ゴンザレス・ビアス社の7種のシェリー
今回のセミナーで提供された7種のシェリーから、つくり方の違いでどんな変化が起こるのかを見ていこう。テイスティングノートは、フローレス氏が語ったもの。
ティオ・ペペ フィノ
品種:パロミノ100%
熟成:生物学的熟成4~5年
残糖:1L当たり1g未満
アルコール度数:15%
提供温度:4~6℃
ペアリング:アペリティフとしておすすめ。シーフード、寿司、揚げ物やサラダにも合う。カクテルにも使いやすい。
生物学的熟成のおかげで酸化していないため、透き通った色が保たれている。酵母が糖分を食い尽くした「最もドライなワイン」と言われる。ゴンザレス・ビアス社でも最も有名なワインであり、世界110カ国以上に輸出されている。
《テイスティングノート》
ドライフルーツや海、パンの香り。フレッシュで少し塩っぽさと苦味がある。このグラスの中には、太陽、塩、雨、風が全て入っている。それこそが私たちのティオ・ペペだ!
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デル・デューク アモンティリャード
品種:パロミノ100%
熟成:30年熟成(8年生物学的熟成、22年酸化的熟成)
残糖:1L当たり5g
アルコール度数:21.5%
提供温度:室温
ペアリング:熟成したチーズ
フィノの熟成途中でフロールが無くなったものを、そのまま酸化的熟成させたもの。刺激的な香りやアンバーの色調は、酵母の影響によるものだ。
《テイスティングノート》
ドライフルーツやバニラ、ヘーゼルナッツの香りが口の中一杯に広がる。後味が非常に長く、ドライでパワフルな味わい。アロマティックで骨格がしっかりとしていて凝縮感と複雑さを感じる。
【関連記事】アモンティリャードとは
アルフォンソ オロロソ
品種:パロミノ100%
熟成:8年酸化的熟成
残糖:1L当たり3.5g
アルコール度数:18%
提供温度:10~12℃
ペアリング:チーズ、赤肉やシチュー
豊かな香りとコクがあり、深みのあるシェリー。ティオ・ペペとの色みや味わいの違いに驚かされる。
《テイスティングノート》
ヘーゼルナッツやクルミのアロマ。非常にセコ(セミドライ)。残糖は少ないが、少し甘みを感じるシェリーだ。
【関連記事】オロロソとは
レオノール パロ・コルタド
品種:パロミノ100%
熟成:ソレラ・システムで12年酸化的熟成
残糖:1L当たり4.5g
アルコール度数:20%
提供温度:10~12℃
ペアリング:赤肉やシチュー
伝統的なつくり方であるソレラ・システムでつくられたワイン。パロ・コルタドはシェリー酒の中でも希少な種類だ。
《テイスティングノート》
樽の香りは強くないが、味わいはパワフル。
クリスティーナ ミディアム
品種:パロミノ87%、ペドロ・ヒメネス13%
熟成:8年酸化的熟成
残糖:1L当たり50g
アルコール度数:18%
提供温度:10~12℃
ペアリング:チーズ、フォアグラ、パテ、甘いデザート
ミディアムとは、辛口のアモンティリャードにペドロ・ヒメネスをブレンドしたもの。ペドロ・ヒメネスのブレンドの割合は多くはないが、残糖が一気に上がっている。心地よい甘さで、フローレス氏の表現する「官能的」という言葉がぴったりの味わい。
《テイスティングノート》
非常に強い香りがあり、ワインの涙も非常に濃い。ドライフルーツのアロマや、さらに強いイチジクやデーツの香りもある。口に入れると滑らかで官能的。
ソレラ1847 クリーム
品種:パロミノ75%、ペドロ・ヒメネス25%
熟成:8年酸化的熟成
残糖:1L当たり118g
アルコール度数:18%
提供温度:10~12℃
ペアリング:チーズ、チョコレートデザート、チーズケーキ
クリームとは、オロロソにペドロ・ヒメネスを加えたもの。ペドロ・ヒメネスの割合が増え、さらに甘さが増したものの、他の味わいもしっかりと感じられるシェリーだ。
《テイスティングノート》
強いドライフルーツや若い干しぶどうの香り。口に含むと非常に繊細でデリシャス。デザートに合わせるとすばらしい。
ノエ ペドロ・ヒメネス
品種:ペドロ・ヒメネス100%
熟成:30年酸化的熟成
残糖:1L当たり400g
アルコール度数:15.5%
提供温度:少し冷えた温度
ペアリング:デザートワインとして
濃い黒檀色で透明感はない。「ソレラ1847 クリーム」を口にした時には、これが甘さの限界と思われたが、その予想をはるかに超えてきた。しかし、嫌な甘さではない。カクテルの材料としてだけではなく、フローレス氏が言うようにこれ自体で楽しめるシェリーだ。
《テイスティングノート》
ワインの涙もとても濃い。干しぶどう、デーツ、イチジク、コーヒー、チョコレート、スパイスの香り。味わいはとても甘く、フレッシュで魅惑的だ。これ自体がデザート。夜の漆黒さと甘さがあるワインだ!