コラム

メドックの比類なきテロワールを田中叡歩ソムリエが解説! AOC・3つの格付け・段丘・土壌・品種を知ろう ~「メドックワイン マスタークラス 2023」レポート①

メドックワイン委員会は2023年9月26日、ホテル日航大阪(大阪市中央区)で、メドックの比類なきテロワールと多様性を改めて発見するマスタークラスを開催した。

当日は、2020ヴィンテージの水平テイスティングや、各ワイナリーが選んだヴィンテージの垂直テイスティングを含めた盛りだくさんの内容となった。今回はその中から、メドックがなぜ“比類なきテロワール”なのかを解説した前半部分を紹介する。

講師を務めたのは、ホテルニューオータニ大阪のフランス料理店「SAKURA」でソムリエとして活躍する田中叡歩(あきほ)氏だ。

メドックワインとは

メドックは、フランス・ボルドー地方のジロンド川左岸にあるワイン産地だ。年間8000万本を販売しており、輸出金額はボルドーの赤ワインの約40%を占めている。

その栽培面積は、ボルドーのぶどう畑の15%に当たる1万6200haだ。ブランド数は1000、シャトー数は600を数える。ボルドーのシャトーと聞くと、城のような豪華な建物の大規模なつくり手というイメージがあるかもしれないが、小規模な生産者もたくさんおり、生産者が所有する畑の面積は、0.5~200ha以上までと幅広い。

ワインの価格帯も幅広く、多様なテロワール、栽培方法、醸造方法が多彩な味わいを生んでいる。

8つのAOC

「メドックワイン委員会資料」より

メドック地区には、北のメドックと南のオー・メドックという2つの地域名AOC(Appellation d’Origine Controlee、原産地管理呼称)と6つの村名AOCが存在している。

▼8つのAOCとそれぞれの年間生産割合
2つの地域名AOC:メドック(35%)、オー・メドック(29%)
6つの村名AOC:リストラック(2%)、ムーリス(4%)、マルゴー(9%)、サン・ジュリアン(6%)、ポイヤック(7%)、サン・テステフ(8%)

メドックでは、91%の生産者が何らかの環境認証(HVE3、有機、バイオダイナミック、テラ・ビティス、AREA)を取得または取得中。オー・メドックは97%、リストラックは98%、マルゴーは91%、ポイヤックは99%、サン・テステフは86%、ムーリスは91%となる。ボルドーの全ぶどう園では75%になるため、比較しても高いことが分かる。

「比較的規模の大きな産地でこれだけの数字を出しているのは、極めて異例なこと」と、田中氏は説明していた。

6つの村名AOC

それぞれの村ごとに土壌や気候条件に違いがあり、ワインに特徴を与えている。簡単に分けると、内陸に位置するリストラックとムーリス、そして川沿いに位置するマルゴー、サン・ジュリアン、ポイヤック、サン・テステフがある。

西部の内陸に位置するリストラックとムーリスは、比較されることの多いAOCだ。ピレネー山脈の砂利に覆われた石灰質の台地がまたがっている。メドックで最も古くメルロー向きの土壌だが、グラン・プジョー(Grand Poujeaux)の東の台地などムーリスの一部は、ガロンヌ川の砂利質の土壌が広がり、カベルネ・ソーヴィニヨン向きの土壌となっている。

ムーリスはよりストラクチャーがあり、力強さと繊細さが共存する、熟成の可能性を持つワインが多い。メルロー主体のリストラックは、より丸みがあり、ジューシーで飲みやすいワインが特徴だ。

川沿いに位置するマルゴー、サン・ジュリアン、ポイヤック、サン・テステフは、“4つの偉大な村”とも呼ばれている。ジロンド川によって気候が保護され、砂利質の土壌が広がっている。砂利は日中の熱を蓄えて夜に放出する効果があり、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に非常に適した土壌だ。力強く、偉大な熟成能力を持つワインを生み出す。

4つの中で最も広大なマルゴーは、東と西ではテロワールが大きく異なっている。格付けシャトーが多いポイヤックとサン・ジュリアンには、かなり均質なテロワールが広がっている。より特徴的なテロワールを持つのがサン・テステフで、右岸のポムロールで見られる青い粘土質の下層がところどころに見られる。

3つの格付け

メドックに限らず、ボルドーというと「格付け」を思い浮かべる人も多いだろう。メドックには大きく分けて3つの格付けがあるが、格付けに含まれていないシャトーも数多くあり、さらには協同組合も多く存在している。

グラン・クリュ・クラッセ

1855年に制定された、メドックで最も有名な格付けだ。ナポレオン3世の要請で制定され、多少の変更はありながら、現在まで続いている。

制定されているのは、5つの1級シャトー(うち1つはグラーヴ地区のAOCペサック・レオニャン)から5級までの61シャトー。年間売上金額 5億5000万ユーロと規模が大きく、生産量の80%が輸出されている。

クリュ・ブルジョワ

ブルジョワとは、ボルドーに住み、彼らのぶどうからつくられたワインについて、税金の免除という特権を享受していた人々のこと。彼らは、最良の土地を取得していった。

2020年には新たな格付けが制定。明確な仕様書を遵守するなどの諸条件を満たした14のクリュ・ブルジョワ・エクセプショネル、56のクリュ・ブルジョワ・シュペリウール、179のクリュ・ブルジョワが制定されている。

クリュ・アルティザン

クリュ・アルティザンは、150年以上前から存在する呼称で、職人(樽職人、蹄鉄工など)が手掛けていたぶどう畑が起源となっている。2017年の最新格付けでは36が認定され、5年間有効となる(2023年時点では30)。栽培、醸造、熟成、包装、販売など、生産と販売チェーンの全体をシャトーが管理しなければならない。

格付け以外のワイン

格付け以外のワインに含まれるのは、セカンドワイン、ブランド名ワイン、メドックの全生産者のキュヴェ、そしてネゴシアン(卸売り業者)のブランド名ワインだ。

メドックでは、ファーストワインとセカンドワインを含めて1000以上のブランドが発売されているが、何らかの格付けに属しているのは350以下であり、格付け以外のワインのボリュームが非常に多い。ここには、格付けから解放されることを選んだ生産者や、1世紀以上の歴史を持つ協同組合に属しているシャトーなどが含まれている。

メドックのテロワール

今回の講義では、テロワールとしてメドックの気候と段丘、土壌について解説があった。

メドックの気候

メドックは、北緯45度に位置する。暑くて湿気があり、日照に恵まれて風通しが良いというバランスの取れた気候だ。ボルドーの平均と比べると、日照と気温、成熟の速さは平均を上回り、降水量は平均以下となる。

特徴的なのは、メドックはビスケー湾北部の半島に位置するため、水に囲まれた影響で温度調整が行われること。このため、年間を通して安定した気候に恵まれている。

段丘の形成

メドックを唯一無二のワイン産地にしているのが、数世紀にわたって形成された段丘だ。右岸のポムロールやサンテミリオンにはない左岸の特徴であり、右岸に対して40m以上も土地が下がっている。

長い時間をかけてピレネー山脈から砂利が川によって運ばれ、なだらかな頂を形作っている。この頂が、数世紀にわたって浸食と堆積を繰り返し、出来上がったのが現在の連続した段丘だ。

「メドックワイン委員会資料」より


こうして生み出された5段階の段丘が、ミクロクリマを生み出し、AOCごとのワインの特徴につながっている。

メドックの土壌

メドックの土壌は、大きく3つに分けることができる。

●東部(川沿い)
ガロンヌ川とドルドーニュ川の増水により形成された砂利質土壌。石ころだらけで痩せていて、水はけが良い。砂利が日中の熱を蓄えて、夜に放出する熱い土壌だ。カベルネ・ソーヴィニヨンに適しており、川沿いにグラン・クリュ・クラッセの認定シャトーが集中している。

●西部と北部(リストラックからサン・テステフまで)
粘土・石灰質土壌や粘土・砂質土壌。石と強固な土とが組み合わさった土壌だ。

●西部(リストラック)と北部
メドックで最も古い段丘で、ピレネー山脈から運ばれて堆積した石英と小さな白い砂利の土壌。砂質・粘土質と混ざり合っていることもある。

ぶどう品種とブレンド

メドックの主要品種は、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローだ。内陸から河口に近づくにつれて土壌が変化し、メルローからカベルネ・ソーヴィニヨン中心になっていく。

メドック全体で生産量を見るとメルローの方がわずかに多いが、ファーストワインのブレンドでは、カベルネ・ソーヴィニヨンが王様的存在だ。

カベルネ・ソーヴィニヨンは、美しい紫がかった外観で、カシス、ブラックベリー、ピーマン、スパイス、動物のアロマやタンニンが特徴。ブレンドすることで、ワインにストラクチャーと繊細さ、熟成能力をもたらす。

メルローは最も早熟な品種で、深みのある色、プルーンや森の下生え、トーストのアロマが特徴。滑らかでしっかりしたアルコールを生み出す。ブレンドすることで、ワインにまろやかさを与える。

カベルネ・ソーヴィニヨンは、ガロンヌ川沿いの砂利質土壌に多い。メルローは、メドック西部の粘土・石灰質のより冷涼な土壌と、ピレネー山脈の砂利質の土壌に多く植えられている。

古くからあるが、古い産地ではない

「メドックワイン委員会資料」より

講師の田中氏は、メドックについて「古くからあるが決して古い産地ではなく、新しいことに挑戦して変化している産地だ」と総括している。

メドックは古くからのつくり手が多いが、多くの若い意欲的な栽培者、技術管理者、あるいはエノログが着任している。メドックのドメーヌは家族経営が多く、大規模でも小規模でも、その情熱が世代から世代へと伝えられ、産地の若返りが行われている。マスタークラスでは、「新たな世代は上の世代から誇りを持って引き継ぎ、ワインにその足跡を残している」と説明があった。

次回以降の記事では、最新の2000ヴィンテージとシャトーが選んだ1ヴィンテージと共に、それぞれのAOCを紹介する。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ