コラム

元ワインメーカーが語る「ウルグアイワイン」の魅力とは ~モトックス主催ウルグアイワインセミナー

   

モトックスは2024年1月末から、同社として24カ国目となるウルグアイワインの取り扱いを開始した。同年2月8日には、メディア向けにセミナーを開催。ウルグアイワインの解説と共に、4生産者11アイテムの中から6アイテムの試飲も行われた。

講師を務めたのは、元ワインメーカーという経歴を持ち、現在はモトックスのバイヤーとして、南半球と日本を担当している内藤大氏だ。日本ソムリエ協会の教本に掲載されている国でありながら、なかなか日本では巡り合うことのない、南米の隠れた銘醸地ウルグアイ。そのウルグアイのワインについて語られたセミナーの内容から、今回はウルグアイワインの基礎知識と内藤氏が心引かれた理由について紹介する。

講師を務めたバイヤーの内藤大氏

【セミナー講師:内藤大氏】
内藤氏は、2011年にモトックスに入社。営業を担当していたが、ワインづくりに興味を持ったため退社し、勝沼醸造(山梨県)やオーストラリアなどでワインづくりの経験を積んだ。2020年にはモトックスに再入社。ドイツのワイン展示会「プロワイン(ProWein)」でウルグアイワインと出会い、質の高さや可能性に興奮し、取り扱いを決めたという。

ウルグアイワインとは

アルゼンチンとブラジルに挟まれたウルグアイは、日本の半分ほどの国土に約350万人が住んでいる。1人当たりのGDPは南米1位であり、“南米のスイス”といわれるほど豊かな国だ。日本のチェーン店でも提供されているウルグアイビーフが有名で、肉をよく食べる国民性だ。

まずは、ウルグアイのワイン産地としての特徴を見ていこう。

ウルグアイのワイン法

17世紀から続く歴史あるワイン産地だが、チリやアルゼンチンのようなワインの原産地呼称制度はない。1993年からは、品質によって2つのカテゴリーに分類されている。

●VCP(Vino de Calidad Preferente)
優良品質ワイン。最低アルコールが10.5%以上となっており、他の国よりも低く設定されている。

●VC(Vino Comun)
テーブルワイン。紙パックやデミジョンボトル(大容量の瓶)などで販売されていることが多い。

ウルグアイの注目品種

ウルグアイワインで注目を集めているのは、黒ぶどう品種ならタナ(=アリアゲ)、白ぶどう品種ならアルバリーニョだ。

マスター・オブ・ワイン(MW:最高峰のワイン資格)のティム・アトキン氏によるウルグアイワイン・レポートでも、タナとアルバリーニョが高い評価を受けている。

タナ

1870年代に、パスカル・アリアゲ氏によって持ち込まれた品種。栽培面積は全体(5000ha)の27%を占めており、実は世界で最もタナを栽培している国がウルグアイだ。チリのカベルネ・ソーヴィニヨンが「チリカベ」と呼ばれているように、ウルグアイのタナも「ウルタナ」と呼ばれることがあるとのこと。

タナは、タンニンがその名の由来ともいわれるほど、色が濃くてタンニンのしっかりした品種だ。一方でウルグアイのタナは、柔らかくてスムーズな若飲みタイプが多い。ウルグアイは降雨量が多く、その影響でタンニンが抑えられるからだ。

アルバリーニョ

タナに比べて歴史は浅いが、世界的に存在感を増している品種だ。アルバリーニョの代表産地は、スペインのリアス・バイシャス(ガリシア地方)だが、ウルグアイにはガリシア地方からの移民も多い。ガリシア地方にルーツを持つボウサ家がオーナーを務めるボデガ・ボウサが、2001年に栽培をスタートした。

赤ワインの消費が多いウルグアイでは、白ワインはスパークリングワインの代わりとして飲まれており、消費量はそれほど多くはない。しかし、世界的に白ワインが売れていることから、ウルグアイでも力を入れている。栽培面積は南部に位置するマルドナドなど、海岸部のエリアを中心に急増しており、現在では国内で4番目に栽培されている品種となった。

ウルグアイの気候

大西洋気候に分布されるウルグアイは、高温多湿の気候となる。「ワイン産地としての条件が、日本と非常に似ている」と、内藤氏は強調している。

ウルグアイは南緯30〜35度に分布しており、日本でいうと大阪から鹿児島に当てはまる。気温を見ると、夏の平均気温は18~27℃で日本よりやや涼しく、冬は7~14℃と少し温暖だ。四季はあるが、日本に比べて少し暖かい。

年間降水量は1000~1400ミリほどあり、山梨県の勝沼(1000ミリ)や東京都(1400ミリ)ほどである。平均湿度も75%と高く、日本の勝沼などと同様に生育期や収穫期に雨がたくさん降る。日本のようにレインプロテクションや傘かけによる雨対策はしていないが、雨や日差し対策としてリーフコントロールに力を入れているという。ウルグアイでは、こうした日本と似た環境で、試行錯誤しながらワインづくりに取り組んできた。

ウルグアイの産地

ウルグアイは17県で構成されているが、そのうちワインがつくられているのは15県だ。今回のセミナーでは、3つのエリアが紹介された。

エリア1:メトロポリタン
太平洋に注ぐ、ラ・プラタ川河口の地域。メトロポリタンには生産の6割を占める「カネロネス」と、首都であり、第2のワイン産地である「モンテビデオ」がある。モンテビデオは、ウルグアイで最も古い産地でもある。

エリア2:オセアニカ
大西洋沿いのエリアであり、第3の産地である「マルドナド」がある。マルドナドは、アルバリーニョの産地として知られており、ティム・アトキンMWの評価も高い。平地が多くて斜面が少ないウルグアイの中で、唯一標高差があるエリアだ。現在、最も注目を集めている産地で、新しくできるワイン畑の多くがマルドナドにある。

エリア3:リベラ
ブラジルの国境線沿いの地域。降水量は1400ミリほどあり、ウルグアイで最も多い。

なぜ今、ウルグアイワインなのか

セミナーでは、なぜ内藤氏がウルグアイワインに興味を持ったのかについても語られた。理由の1つは、主要なワイン生産国の輸入推移が高止まりしているのに対して、ワイン新興国は上昇傾向にあることだという。また、それ以外にも2つの理由を挙げている。

トレンドを押さえたワインづくり

内藤氏は、ウルグアイの生産者について「世界のワインを飲んでいるように感じられた」と説明している。これは、ウルグアイの生産者がトレンドを抑え、失敗を恐れないワインづくりをしているからである。

ポルトガルのニーポート(Niepoort)が始めた取り組みに、「ナット・クール(ナック・クール)」がある。これは、「ナチュラルにクールでファンキー」「低アルコール」「飲みやすい」などのルールのもと、消費者にワインをより身近に感じてもらおうというものだ。今回、モトックスが取り扱いをスタートさせたプロジェクト・ナッカル(Proyecto Nakkal Wines)も、この取り組みに賛同している。

また、ウルグアイは最低アルコールが10.5%以上と、他の国よりも低く設定されており、最近の世界のトレンド「低アルコールワイン」の優良な産地でもある。

さらに、ボージョレ・ヌーボーなどで行われている醸造方法で、チャーミングな味わいになるマセラシオン・カルボニック(炭酸ガス浸漬法)を、真逆のイメージを持つタナで行っている。こうしたルールにとらわれず、失敗を恐れないワインづくりが、ウルグアイワインの魅力だという。

温暖多湿気候の産地のワイン

本来であれば、雨の多い産地はぶどう栽培には適さない。しかし、ウルグアイはそこを個性にしているという。

50年ぶりに灌漑(かんがい)設備を使ったほどの干ばつに見舞われた2023年は、収量は減ったものの、糖度の高いぶどうが収穫できた。世界的にみるとぶどうの質が上がったと考えられるが、ウルグアイの生産者やティム・アトキンMWは、ウルグアイのワインの個性が失われてしまったのではないかと、手放しには喜んでいないとのこと。

決してワインづくりに適した条件に恵まれているわけではないが、新しい挑戦を恐れずに進化し続けているワイン産地ウルグアイ。日本や世界でワインづくりを経験した内藤氏は、「日本のワイン産業の発展にも一役買える可能性がある産地。ぜひ飲んでほしい」としている。

次回以降の記事では、モトックスが取り扱いを開始した4つの生産者を、そのワインと共に紹介する。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ