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メルシャンは2024年3月19日、「メルシャン2024年ワイン事業戦略説明会」を実施した。当日は2024年の事業戦略として、チリの最大手ワイナリー、ヴィーニャ・コンチャ・イ・トロ(コンチャ・イ・トロ)とタッグを組んだ新プロジェクト「パシフィック・リンク・プロジェクト」について説明があった。
今回は、説明会の内容をもとに、プロジェクトの詳細を報告する。
「パシフィック・リンク・プロジェクト」とは
説明会では、メルシャン代表取締役社長の長林道生氏(同年3月28日に退任)より、パシフィック・リンク・プロジェクトの詳細について語られた。
コンチャ・イ・トロとの取引は、1978年からスタート。両社の協働は、既に50年近くにも及んでいるという。
「高い品質を目指しながら、お客様視点でのイノベーションを起こし、事業を成長させてきた。両社に共通するこのワインづくりの信念、あるいは長い歴史で培った絆があったからこそ、実現できているプロジェクト」と熱く語られた、プロジェクトの詳細を見ていこう。
イノベーションのためのプロジェクト
パシフィック・リンク・プロジェクトは、日本のシャトー・メルシャンとチリのコンチャ・イ・トロが協働してワインをつくるというプロジェクトだ。
2023年の秋に、コンチャ・イ・トロのワインメーカーであるマックス・ワインラブ氏が日本を訪れ、パシフィック・リンク・プロジェクトの第1弾となるワインの仕込みを行った。そして2024年3月には、シャトー・メルシャンのチームがチリを訪れ、今秋に発売となるワインの仕込みを行ってきたという。
日本とチリは地球の反対側に位置しており、年に2回仕込みができるという点も、このプロジェクトの面白さだ。気候条件が全く異なる環境でワインづくりをしてきた両社が、それぞれの環境で培ってきた知見を、異なる環境で生かしていく。この取り組みは、1年限りのものではなく、毎年必ずイノベーションを起こそうという合意の下で継続される。
世界市場を視野に約1.4倍の輸出額を目指す
シャトー・メルシャンのビジョン「日本を世界の銘醸地に」につながる取り組みでもあり、海外市場の拡大を視野に入れたプロジェクトでもある。世界140カ国に輸出のネットワークを持つコンチャ・イ・トロと手を組み、国によってはコンチャ・イ・トロがシャトー・メルシャンのディストリビューターになっていくという。
プロジェクトの第1弾となる「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス 2023」は、同年4月2日に国内で発売。今春には、シンガポールへの輸出もスタートする。同プロジェクトを発端に、シャトー・メルシャンが手掛ける日本ワインの輸出額を昨年の約1.4倍に拡大したい考えだ。
プロジェクトの一環で植樹も
シャトー・メルシャンの椀子ヴィンヤード(長野県上田市)では、遊休荒廃地を垣根仕立て・草生栽培のぶどう畑にする取り組みを行っている。これによって里山が再生し、生物の多様性が戻ってきていることが評価され、2023年10月に環境省の自然共生サイトに正式認定された。
コンチャ・イ・トロもまた、環境やサステナブルに真摯に向き合うワインメーカーだ。環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる、国際的な民間認証制度の「Bコーポレーション(B Corporation)」に認定されている。「2040年までに温室効果ガス排出ゼロ」は、コンチャ・イ・トロが掲げる目標の1つだ。4000haの原生林を保護し、CO2がどれだけ吸収されるかを検証して、いかにオフセットしていくかを実行している。
今回のプロジェクトでは、互いのワインメーカーが日本とチリを行き来する。そのため、どれだけのCO2を飛行機が出すのかを計算し、1人当たり2本のキラヤ(チリ原産の樹)を植樹した。このプロジェクトで生み出されるCO2を考え、毎年植樹していくそうだ。
4つのコンセプト
グローバル・パシフィック・プロジェクトでは、「イノベーティブ」「サステナビリティ」「グローバル」「ラグジュアリー」という4つのコンセプトを掲げている。
この4つのキーワードのうち、説明会で何度も登場したのは、「イノベーション」だ。プロジェクトを継続していく中で、お互いの知見を生かしたワインづくりを通して、イノベーションを起こし続けていきたいと語られた。
また、「ラグジュアリー」は、プロジェクトが目標として掲げる国内外の富裕層へのアプローチだ。主戦場となっている低価格からの脱却、そしてワインの飲用層の拡大を進めたいとしている。
そのために、国内外の市場で日本ワインを魅力化し、日本市場におけるチリワインのプレミアム化を図るという。
「パシフィック・リンク・プロジェクト」の意義
人口の減少や消費者のお酒に対する価値観の多様化などにより、酒類市場を取り巻く環境は大きく変化している。そうした状況において、メルシャンではワイン事業の「高付加価値化」が重要だとする。
ワイン市場の課題は飲み手の減少
2023年のワイン市場は、数量ベースで前年比約97%と減少している。飲酒人口も減っている中で、日本ワインを含む国内製造ワイン市場は前年比約93%、輸入ワイン市場も前年比約98%となっており、特にワインの飲用人口の減少や他カテゴリーへの流出という現象が続いていると考えられている。
ワインの同質化が起きている
日本のワイン市場は、価格競争によって同質化やコモディティ化(類似品の登場で一般的な商品になること)が起きている。こうした状況において、特に若い世代を中心とした新しい飲用層が広がっていないことが、「業界最大の課題」だとメルシャンでは見ているという。
「高付加価値化」で狙う新しい層
ワイン市場が厳しい変化の中にある一方で、2024年の国内景気は穏やかに回復している。さらに、海外からの日本文化への関心が高まり、日本ワインにも注目が集まってきている。訪日外国人の観光客が新型コロナウイルス感染症の流行以前の数字に戻りつつある今、メルシャンが重視するキーワードは「高付加価値化」だ。
現在の日本のワイン市場とは逆の流れのようだが、ワインの高付加価値化による国内市場の活性化、また日本ワインの海外市場での価値向上がこれから重要になると考えているそうだ。
ぶどう栽培へのこだわり、あるいは多様な味わいづくり、チャレンジングなワインづくりを通した、つくり手の熱い思いや素晴らしい醸造技術などの「高品質」、そして自然保全や地域経済の活性化、持続可能なワインづくりなどの「CSV」といった付加価値を高めて新しい層に届けていくつもりだという。
知識や経験、歴史などの深い情報をもとに愛情を注いでくれている従来のワインファンを大切にしながらも、増えつつある「感性的にワインを選ぶ」「自分の価値観やライフスタイルに合うものを選ぶ」という若い消費者へのアプローチとして、パシフィック・ワイン・プロジェクトは期待されている。
新プロモーション「JEWELS of The New World」
パシフィック・リンク・プロジェクトと共に発表されたのが、コンチャ・イ・トロのアジアにおける富裕層や新たな飲用層に向けたマーケティング戦略「JEWELS of The New World(ジュエルズ・オブ・ザ・ニューワールド)」だ。
生産地のこだわりや土壌、樽、熟成情報などワインの専門的な説明には興味を示さない消費者に対して、このワインがなぜ生まれたのか、どのように楽しんでもらいたいのか、何がコンセプトなのか、といったポイントからアプローチを目指す。
チリやアルゼンチンのテロワールから生まれるコンチャ・イ・トロのワインを、台地から生まれる美しい宝石になぞらえて、消費者とのコミュニケーションを図るとしている。
なお、「JEWELS of The New World」のラインアップは下記となる(画像左から)。
ジェイド(翡翠):シャトー・メルシャン「岩出甲州 Amicis(アミシス)」
オパール:コンチャ・イ・トロ「テルーニョ」シリーズ
ラピスラズリ:コンチャ・イ・トロ「アメリア」シリーズ
トパーズ:トリヴェント「エオロ マルベック」
ロードクロサイト:コンチャ・イ・トロ「カルミン・デ・ペウモ」
次回は、パシフィック・リンク・プロジェクトの第1弾「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス 2023」の誕生ストーリーとその味わいについて紹介する。