コラム

カリフォルニアで大注目のマイナー品種5選――その魅力とは?

   

カリフォルニアワイン協会日本事務所は、カリフォルニアワインの魅力をわかりやすく伝える特別講座「カリフォルニアワインの今を知る」を全4回にわたって開催した。本記事では、同講座の第3回目で語られた内容をご紹介する。

第3回目のテーマは「マイナーだけど今大注目の品種」。カリフォルニアでマイナー品種が注目されている事情や、実際に同地で注目を集めている5つのマイナー品種の特徴について、講師の松木リエさんが解説した。

当然のことだが、カリフォルニアは世界中で栽培されているような品種が主だ。例えば、主要な白ぶどう品種には、シャルドネ、ピノグリージョ、ソーヴィニヨンブランなどがある。モスカート(マスカット)やリースリングの栽培も増えている。

一方、黒ぶどう品種としては、カベルネソーヴィニヨン、ピノノワール、ジンファンデルなどが栽培されている。

これほど多くの国際品種が栽培されている中で、一体なぜ今、カリフォルニアでマイナー品種が熱い注目を浴びているのだろうか? 5つのマイナー品種については、それぞれを代表する銘柄の試飲会も開かれたので、それらの銘柄についても紹介する。

カリフォルニアでマイナー品種が熱いわけ

カリフォルニアワインは近年、高品質というイメージが定着しつつあり、日本でも人気が高まっている。2017年〜18年の日本におけるスティルワイン輸入量の推移を見てみると、他のワイン産出国からの輸入量が軒並み下がっている中で、アメリカワインは若干ではあるが数字を伸ばしている。

日本におけるスティルワイン輸入量の推移(WANDS調べ、2019年4月)

1位:チリ(前年比91.6%)
2位:フランス(前年比91.9%)
3位:イタリア(前年比89.2%)
4位:スペイン(前年比89.5%)
5位:オーストラリア(前年比99.7%)
6位:アメリカ(前年比101.2%)
7位:南アフリカ(前年比92.8%)

アメリカはかつてワインのニューワールドの一つとされていたが、このようなデータから分かるように今や定番国の一つに変わってきている。そんな現在のアメリカでは、新しい時代が到来しつつある。

その新しい時代を垣間見せるのがマイナー品種だ。カリフォルニアはアメリカ産ワインの約85~90%を生産しているのだが、同地では現在マイナー品種の栽培と、それを原材料とするワインの生産が進んでいる。講師の松木リエさんによると、その理由としては地球温暖化による気候の変動や新たなつくり手の参入が挙げられるという。

カリフォルニアは本来、ぶどうの栽培に適した気候をしている。同地の海岸線は約1300kmもの長さなのだが、この海岸沿いの地域はアラスカから流れる冷たい海流の影響で、海から冷たい風が吹き寄せる。カリフォルニアでは、この海から来る風の影響を受けているぶどう栽培地が多い。

地球温暖化による近年の気候変動は、カリフォルニアにも変化をもたらしている。そのため、温暖な気候に適した品種の栽培が同地でも関心を寄せられるようになってきている。実際、カリフォルニアで注目されているマイナー品種のほとんどがスペインやイタリアの品種だ。

新たなつくり手の参入も、マイナー品種の注目が増した理由の一つ。ワインのつくり手と言えば、以前は、先祖代々受け継いだワイナリーを続ける人ばかりだった。しかし、最近ではワインのおいしさに魅了され、ソムリエやアーティストなどから転向する人も増えている。松木リエさんによると、マイナー品種を手掛けているつくり手の多くは、他業界から参入してきた新世代のチャレンジャーたちだという。

それでは、カリフォルニアで栽培されているマイナー品種は、実際にはどんなものがあるのだろうか。今回は、その中で主要なものとして、アルバリーニョ、ゲヴェルツトラミネール、ネッビオーロ、マルベック、プティ・ヴェルドの5つをご紹介する。

ミネラル感のある塩味で海産物と好相性なアルバリーニョ

カリフォルニアで注目を浴びるマイナー品種の一つであるアルバリーニョは湿気や病気に強く、6割がスペインのリアスバイシャスで生産され、他にポルトガルの北部で生産されるヴィーニョ・ヴェルデ(日本語訳:緑のワイン)がある。

アルバリーニョは6割がスペイン、残りの多くがポルトガルでつくられている。いずれにおいても海沿いで栽培されており、実は日本でも新潟ワインコーストで栽培されている。湿気や病気に強いという特徴がある。

ワインにしたとき、ミネラル感のある塩味を伴うのがアルバリーニョの特徴だ。そのため、海産物とは相性がいい。松木リエさんいわく、「海の幸に合わせるぶどう品種は何か」と世界のソムリエに聞くと、ギリシャのサントリーニ島でつくられているアシルティコとともに、アルバリーニョの名が挙げられるとのことだ。

素材そのものの味を楽しむ習慣や健康志向の定着などにより、近年では海外でも生の魚を食べるケースが増えてきた。そのような食事に合わせて飲むワインとして、アルバリーニョは世界中のソムリエや消費者からの人気が高まっているという。そのため、この品種の栽培に挑戦するつくり手が今後増えることが見込まれている。

アルバリーニョを使用したワインには、辛口でライトからミディアムボディものが多い。これを舌の上に載せると、りんごや洋ナシ、グレープフルーツなどの果実の香りが口の中に漂う。暖かい気候でつくられたアルバリーニョの場合、スイカズラのような白い花の甘やかなニュアンスが出てくる。

今回の講義では、アルバリーニョのテイスティングワインとして、「ファーディナンド アルバリーニョ 2016」を試飲した。

ファーディナンド アルバリーニョ

VN: 2016
品種:アルバリーニョ
アルコール度数:13%
AVA:ボーデン・ランチ ローダイ
参考価格(税別):3900円
輸入元:布袋ワインズ

ファーディナンド アルバリーニョは、全房搾汁された果汁をフレンチオークの古樽で、野生酵母を使って8ヵ月ほど発酵/熟成させたワインだ。強い酸をまろやかにするためにマロラクティック発酵(MLF)を施している。

生産量は年間900ケースと少なく、すでに2016年のヴィンテージは売り切れ。2017年のヴィンテージならまだ購入可能だ。

生産者のエヴァン・フレイジャー氏は、モダン・カリフォルニアの旗手として知られている人物だ。同氏のワイナリーでは、スペイン品種のスペシャリストとして知られる栽培家、マーカス・ボキッシュ氏が手掛けたぶどうを使用している。

松木リエ講師はファーディナンド アルバリーニョ 2016について、次のように語ってくれた。

「以前友人のお店で飲んで、すごくおいしいと感じたため、どうしてもテイスティングに入れたかった1本。香りが豊かで、花の蜜などの甘い印象があり、成熟度の高さが分かる。樽の香りは前面に出ておらず、野生酵母による複雑さが感じられる。アタックはスムーズだが、果実味がぐっと広がり、ボリュームがあってリッチ。フルーツフレーバーの余韻の中に、しょっぱさやうま味が感じられる。MLFを施しているので、口の中にクリーミーさが広がる。マンゴーや桃を入れたパスタやサラダなど、フルーツを活かした冷製の食事と合わせるのがお勧め」

なお、ファーディナンド アルバリーニョがつくられるセントラル・コーストのローダイは、世界でもっとも肥沃な農地の一つ。日当たりの良い内陸の渓谷は、ぶどうだけではなく、何百もの農作物に最適な環境を生み出している。

この地域は、ゴールドラッシュ期に植えられたぶどうの古木が今も残っている。7つの小区域があり、ローダイルールと呼ばれる独自のサステナブルな取り組みを行っている。

白ぶどうよりも甘くなりやすいゲヴュルツトラミネール

ゲヴュルツトラミネールはピノ・グリや甲州と同じグリ品種であり、主にフランスのアルザスで栽培されている。成熟するにつれて、皮が薄っすらと赤くなってくる。白ぶどうよりも熱を吸収しやすいので、甘くなりやすい。甘くなればなるほど、酸味は低下していき、アルコール分は高くなる。

これは白ワイン用の品種だが、皮に薄っすらと色が着いているため、ポリフェノールの影響でスパイシー感や渋味が出る。ジンジャーやくるみのようなニュアンスがあり、熟成すると蜂蜜のような味わいも現れる。涼しいところで栽培されると、酸度の落ちやすいこの品種でもしっかりとした酸が残る。これは高品質の証拠だ。

ライチの香りに代表される強いアロマが特徴。また、ブドウやメロン、白い桃のようなフルーツのほか、白いバラの花の香りがする。

ゲヴュルツトラミネールの試飲では、「フィリップス・ヒル・エステイト ゲヴュルツトラミネール アンダーソンヴァレー 2017」が提供された。

フィリップス・ヒル・エステイト ゲヴュルツトラミネール アンダーソンヴァレー

VN: 2017
品種:ゲヴュルツトラミネール
アルコール度数:13.2%
AVA:アンダーソンヴァレー
参考価格(税別):3450円
輸入元:モトックス株式会社

メンドシーノ郡は、カリフォルニアのつくり手の半数以上が存在しているノース・コーストの北部にある。そして、同ワインのアペレーションは、その中で最も涼しい地域の一つであるアンダーソンヴァレーにある。海に近いことも相まって、常に海からの影響を受けている非常に冷涼な地域だ。アンダーソンヴァレー自体は、若干標高の高いところにあるが、試飲したワインのぶどうは比較的標高が低い谷床にある南西向きの傾斜地(標高182m)の畑に植えられた樹からつくられている。この樹の樹齢は約20年になるという。同ワインに使われるぶどうは50%を全房プレスし、ステンレスタンクで6ヵ月熟成させている。

松木リエ講師は、このワインについて次のようにコメントしている。

「ライチやパイナップルなど、溢れんばかりのフルーツの香りと白い桃の香り、蜂蜜ジンジャーのようなスパイスのニュアンスが感じられる。

酸味がミディアムからミディアムプラスほどあり、ゲヴュルツトラミネールでは珍しく溌剌とした酸味が残っているワインだ。ぶどうの甘みを高くしながら、酸味をこれほど維持できているのが素晴らしい。

クリーンなのに味わいに厚みがあり、香りの豊かさと酸味が余韻を引っ張ってくれる。香りが強く、スパイシーさが感じられ、アルコールからくるトロっとした甘やかさがある。果物のフレーバーがあるので、残糖はないが甘いという印象が感じられる。

ほんのりとした甘さやスパイシーさのあるアジア料理にも合う。あまり堅苦しく考えず、家にあるものを取り混ぜて作った料理合わせても、自然にマッチしてくれるはずだ」

酸味強くフルボディのワインを生み出すネッビオーロ

ネッビオーロは、高級ワインを作り出す品種として知られている。栽培の難易度が高く、環境を選ぶため、そのほとんどはイタリア、中でも北イタリアのピエモンテなど、限られた産地でしか栽培されていない。イタリア以外では、メキシコとオーストラリア、アメリカで作られている。

ネッビオーロを使うと、強い酸味を備えたフルボディのワインに仕上がる。プラムなどの赤い果実や花、土の香りが特徴。皮が薄く、発酵時間が長いので、強い渋味が出る。だが、樽で熟成させれば、キノコのようなニュアンスをまとい、エレガントな仕上がりになる。

ネッビオーロについては、「アイドル・ワイルド・ワインズ ネッビオーロ フォックスヒル・ヴィンヤード 2013」を試飲した。

アイドル・ワイルド・ワインズ ネッビオーロ フォックスヒル・ヴィンヤード

VN:2013
品種:ネッビオーロ
アルコール度数:14.1%
AVA:メンドシーノ
参考価格(税別):6400円
輸入元:モトックス株式会社

このワインは、冷涼な気候であるメンドシーノで栽培されたネッビオーロでつくられたものだ。メンドシーノの中でも少し内陸の方にある若干標高の高い北向きの畑で栽培されたものを使用している。2013年は干ばつの始まる年で、乾燥した暑さの影響がワインからも感じられる。ステンレスタンクで天然酵母を使って発酵された後、ステンレス・オーク樽で10ヵ月熟成されている。

松木リエ講師のテイスティングコメントは以下の通り。

「ポプリにしたバラの花のニュアンス、クローブやリコリスなどの少し甘みあるスパイシーさ、樽に由来する炒ったコーヒー豆のような複雑さがあって、いろんな香りが感じられる。

渋味はあるものの、熟成によって角が取れている。熟成感が十分きれいに出ているので、デカンタージュさせる必要はない。ドライフルーツのようなニュアンスの中で渋味が際立っていて、酸味やエレガントさも出ている。アルコールの強さのない引き締まった印象を感じさせる。

グラスでゆっくりと飲みたくなる1本。食事と合わせるのであれば、鶏肉のトマト煮込みなどのジューシーな料理と合わせるとバランスが取れる」

アルゼンチンの代表選手たるぶどう品種マルベック

マルベックは元々、ボルドーで主要品種として栽培されていたが、1800年代後半にフィロキセラなどの病気が流行した影響でカベルネソーヴィニヨンなどに取って代わられた。その後、アルゼンチンで盛んに栽培されるようになり、同国を代表するぶどう品種となった。今では、カリフォルニアでの栽培も進んでいる。

しっかりしたボディと適度の酸味を持っているのが魅力だ。濃厚な色合いが特徴的で、ブラックチェリーやクローブなどの甘い風味が感じられる。酸味だけでなく渋味も強過ぎないので、メルローと同様、エントリーワインとしての地位を確立している。

マルベックの試飲は「スコット・セラーズ レジオ・マルベック2013」。

スコット・セラーズ レジオ・マルベック

VN:2013
品種:マルベック
アルコール度数:13%
AVA:ローダイ
参考価格(税別):2500円
輸入元:株式会社リエゾン

レジオ・マルベックを生み出したスコット・セラーズは、5代にわたってワインを作っているスコット家のワイナリーだ。レジオは、イタリア語で“高貴さ”を意味している。

スコット・セラーズの発端は、1883年にサルバトーレ・ドミニク・スコットが、祖国イタリアのイスキア島の自宅でワインづくりを始めたことだ。アメリカでのワインづくりは、2代目のドミニクが1903年にニューヨークのブルックリンで開始。その後、現在の当主である5代目のアンソニー・サードが、カリフォルニアのローダイに拠点を移した。

レジオ・マルベックは、アメリカンオークを70%、フレンチオークを30%使用し、10~12ヵ月ほど熟成してある。ミディアムフルのスタイルだが、温度によって飲み口やアロマの開き方など、いろいろな表情を楽しめるワインだ。

松木リエ講師のコメントは次の通り。

「マルベックらしいプラムやチェリーリキュールのような濃縮感がありながら、ハーベイシャス、時には茎(青野菜)のようなともいえる爽やかさが感じられるワイン。「青臭さ」のあるワインは、海外では良品として受け入れられる傾向がある。

果物の状態が甘やかなところを見ると、決して若摘みではないはず。それでもこの爽やかさが残っているということから、海から来る風の影響や栽培の時に風通しを良くする努力などが感じられる。また、茎も入れた全房発酵をした場合にも、「青野菜のような」風味は特徴として残る。

口いっぱいに甘やかなフレーバーが広がり、柔らかな酸味とともに感じられる。決して酸味が低いわけではないが、それを補うジューシーさがある。果実味と口当たりの良さが楽しめる。

肉汁の滴るステーキをはじめ、炭火を使ったバーベキューにぴったりな1本だ」

日本でも栽培されるマイナー品種のプティ・ヴェルド

ボルドー品種のプティ・ヴェルドは、少しブレンドすることで、ワインのバランスを良くしてくれる品種だ。プティ・ヴェルド主体でワインがつくられることは珍しく、オールマイティなスパイス的な使い方をされることが多い。

日本でも一部生産者が栽培に成功し、伊勢志摩サミットでも提供されたことがある。しかし、収穫時期がかなり遅いため、日本では秋の台風で全滅しやすく、コンスタントに生産するのは難しい。一方で、秋に雨が降らないカリフォルニアは栽培に適している。

強い酸味とタンニンが特徴。セージのようなハーブのニュアンスがある。プティ・ヴェルドについては、「ハースト・ランチ・ワイナリー ランドルフ・レッド・ワイン 2015」を試飲した。

ハースト・ランチ・ワイナリー ランドルフ・レッド・ワイン

VN:2015
品種:プティ・ヴェルド70%、プティット・シラー20%、テンプラリーニョ10%
アルコール度数:13.4%
AVA:パソ・ロブレス
参考価格(税別):5000円
輸入元:株式会社TYクリエイション

ハースト・ランチ・ワイナリーのあるパソ・ロブレスは、セントラル・コーストにあるアペレーションだ。セントラル・コーストはサンフランシスコとロサンゼルスのほぼ中間にあり、冷たい海と温かい内陸の空気の影響を受ける土地で、温暖な気候に適したローヌ系品種が栽培されている。

そこでつくられるランドルフ・レッド・ワインは、毎年ぶどう品種を変えてブレンドしており、プティ・ヴェルドが主体ではない年もある。熟成にはフレンチオークの新樽を40%、ニュートラル・オークを40%、フレンチオークの1年使用樽を20%使用している。

松木リエ講師のテイスティングコメントは次のとおりだ。

「熟成に樽を使っているため、バニラのニュアンスがあるが、それほど前面には出ていない。ブラックチェリーやカシスのような果実味が全体的に出ており、ぶどうのポテンシャルの高さが感じられる。渋味は突出せず、果実味で覆われながらまろやかに口の中に広がっていく。ジューシーながら、酸味は高め。ステーキやロストビーフなどとの相性が抜群だ」

カリフォルニアは今、その素晴らしい気候の中でさまざまなマイナー品種が栽培されており、多様性に満ち溢れている。マイナー品種の栽培は今後、新時代の旗手たちによって盛んに進められるようになるに違いない。マイナー品種を生かし、新時代の息吹を感じさせるワインが次々に誕生することを心待ちにしたい。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ