コラム

国内ワイン事業は対前年102%、消費が停滞する中で実を結んだ2つの戦略 ~事業方針から見えたサントリーの思い

サントリーワインインターナショナルは2020年1月21日、「2020年事業方針説明会」を開催した。国内市場でのワイン消費が停滞する中、同社は2019年度の売上高が販売数量ベースで対前年比102%という結果を出している。

2019年の振り返りから、サントリーのワイン事業が好調な理由を見てみよう。

国内ワイン市場が停滞する中での売り上げ増

サントリーの国内ワイン事業は、主軸となるサントリーワインインターナショナルを中心に、世界のファインワインを取り扱うファインズ、イタリア食材やワインを取り扱うモンテ物産、1890年創業のワインメーカーである岩の原葡萄園の4社からなっている。

4社を合わせた2019年の国内ワイン事業の売上高は456億円。対前年比102%となり、2015年(売上高407億円)から、4年連続の売上増を達成している。

一方で、国内のワイン市場全体は停滞気味だ。2019年の国内のワイン市場を、サントリーは対前年比99%(輸入ワイン98%、国産ワイン100%)であると推計。2019年2月に日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)発効による関税撤廃があったが、国内のワイン市場は2年連続で前年を下回るという結果となった。

そんな中で、売上増を果たしたサントリー。実を結んだ2つのキーワードは、「国産カジュアルワインの基盤ブランド強化」と「欧州産ワイン強化」だ。

国産カジュアルワインの基盤ブランド強化

この10年間、常に売上高が前年を超えているのが、国産カジュアルワインだ。

2019年度は主力商品を中心に新製品やリニューアルを手掛け、販売数量が対前年比104%となった。2009年度の2.7倍となる420万ケースを販売している。

自由な発想での商品開発が武器

主力ブランドの1つである「酸化防止剤無添加のおいしいワイン。」は、高ポリフェノールやカロリーオフなどの健康志向を売りにした製品のほか、ストロングタイプや氷と楽しむ製品など幅広いラインアップが特徴だ。市場調査会社のインテージが行った調査によると、国産ワインだけではなく国内に流通している輸入ワインを含めた全てのワインの中で販売容量No.1を獲得した。

デリカメゾンについては、ワインに慣れていない層やワインを気軽に楽しみたい層に向けて、7%の低アルコールワインや、果実味とコクのある味わいを強化したリニューアル製品を販売している。2020年3月にはフルーツ果汁入りの新商品が発売される予定だ。

また、2018年までは安価でおいしいチリワインがフランス産やイタリア産などを圧倒していたが、2019年の日欧EPA発効以降は、国産ワインも含めて複数産地のワインを飲む人が増えてきた。

そこに目を付けたサントリーは、輸入ワインと国産ワインのいいところを掛け合わせ、両方の価値を持つ、新しい国内醸造ワインを誕生させた。

それが「5(ファイブ)セレクトレゼルブ」だ。チリ、スペイン、イタリア、アルゼンチン、オーストラリアの良質なぶどうでつくったワインを日本でブレンドする。「穏やかな渋味や酸味があり、甘すぎないワイン」を目指して開発したという。

国内醸造ワインはペットボトルが多く、ラベルには日本語で多くの情報が掲載されているが、「5セレクトレゼルブ」はペットボトルではなく瓶を採用し、ラベルデザインもシンプルにすることで“ワインらしさ”を演出した。国産ワインユーザーだけではなく輸入ワインユーザーの獲得も狙うことで、本年度は10万ケースの販売を目指す。

幅広いラインアップを展開する国産カジュアルワインについて、サントリーワインインターナショナル代表取締役社長の宮下敏氏は、「ユーザーのニーズに合わせた自由な商品開発ができるというのが武器になる」と語る。

欧州産ワイン強化で対前年比110%

販売数量は対前年99%となった輸入ワインだが、欧州産ワインに限定すると販売数量は対前年110%と伸長している。2019年2月の日欧EPA発効による関税撤廃を受けて、「フレシネ」や「マドンナ」などの欧州産ワインを値下げしたことや、流通各社の協力を得てすぐに対応したことが結果につながった。

欧州産のスティルワイン市場は、599円以下の価格帯は前年比103%、600円~1199円では104%、1200円以上のクラスは95%だった。欧州産スパークリングワインについては対前年比116%とシェアを伸ばした。

価格にしてはおいしいという理由でチリワインが人気を得てきたが、ユーザーが成熟して「違うものを飲みたい」と思い始めてきたのと、日欧EPA発効による関税撤廃のタイミングがあったことにより、欧州産ワインが伸長したのだろうとサントリーは分析している。

次に目指すのはオーガニックワイン市場の拡大

サントリーが次に目指しているのが、オーガニックワイン市場の拡大だ。世界のオーガニックワイン市場は右肩上がりに成長を続けている。アルコール飲料に特化した市場分析会社であるIWSRは、2018年から2022年にかけて世界のオーガニック市場は1.5倍に成長すると推計している。

サントリーのWeb調査でも、20代~50代の女性を中心にオーガニックワインの飲用志向が高いという結果が出ている。一方で「どれを選んだらいいのか分からない」「知らないブランドではおいしいのか不安」という声も出ていた。

そこで、既に取り扱っているおなじみのブランドでオーガニックワインの取り扱いをスタート。2020年2月4日に「タヴェルネッロ」(料飲店向け)、同年3月3日には「フレシネ」、同年4月14日には「マドンナ」「レゾルム ド カンブラス」から、それぞれオーガニックワインが発売される。これらの“いつも飲んでいるあのブランドのオーガニック”で、オーガニックワイン市場の拡大を目指す。

サントリーでは、欧州産オーガニックワインに大きな期待をかけており、2020年度のオーガニックワイン販売目標を、対前年3倍以上の8万ケースとしている。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ