コラム

マリファナ合法化も影響? プロが語るアメリカワインの歴史と今 ~ ギルドソム「カリフォルニアワインセミナー」

2019年7月2日、アメリカの非営利団体「ギルドソム」が、カリフォルニアワインセミナーを開催した。ギルドソムは、ワインに関する教育などを中心に活動する、ソムリエなどのワインのプロによる団体だ。

講義を担当したのは、ソムリエであり、同団体シニアスタッフライターのケリー・ホワイト氏。通訳なしの英語による3時間の講義だったが、会場は満席となった。受講生には国際大会で優勝経験もある有名ソムリエの姿もあり、注目度の高さがうかがえた。

講座では、生産地や生産者の他に、アメリカワインの歴史についても語られた。今回は、“歴史オタク”を自称するケリー氏ならではの視点で語られた、アメリカワインの歴史をピックアップして紹介する。

なお、アメリカワインの歴史は、カリフォルニアワイン協会日本事務所が主催した特別講座「カリフォルニアワインの今を知る」を紹介した記事で詳しく記載している。

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スペインの修道士が始めたアメリカのワインづくり

アメリカ大陸が発見された後、ヨーロッパからやって来た移民たちが東海岸でワインづくりをスタート。しかし、定着には至らなかった。

その後、1700年代後半に西海岸でワインづくりを始めたのは、スペインの修道士たちだ。当時、スペインの植民地だったメキシコからカリフォルニアへ北上しながらカトリックの伝道所(ミッション)を建設した彼らは、聖餐用のワインをつくるために、ぶどうの樹を植えていった。

カリフォルニアのワインづくりが転機を迎えたのは、1821年のこと。この年、メキシコがスペインから独立し、カリフォルニアは一時メキシコ領となった。メキシコ政府がまず行ったのは、宗教用に開拓したぶどう畑を農民や現地の住民たちへ開放することだった。

現在はワインの銘醸地として知られるナパ・ヴァレーだが、当時は少数のネイティブアメリカンが住んでいるだけだった。メキシコ政府は、こうした土地への移住を促進する。1838~1839年にナパ・ヴァレーで最初の商業用ぶどう畑を開拓したジョージ・ヨーントも、メキシコ政府の働き掛けから移住を決めた人物だ。

ゴールドラッシュと禁酒法時代

その後、1846~1848年のアメリカ=メキシコ戦争を経て、カリフォルニアはアメリカ領となる。

カリフォルニア州、そしてワイン産業の大きな転機となったのが、1848年に金鉱が発見されたことで始まったゴールドラッシュだ。

当時は経済的な理由で、ヨーロッパからアメリカへの移住が増えていた時期でもあった。多くの移民がヨーロッパからアメリカ東海岸、そして西海岸を目指して海を渡り、カリフォルニア州の人口も大きく増えた。中国からの移民も、ワインや人を輸送する鉄道建設などの労働者として活躍したという。ヨーロッパからの移民がカリフォルニアにやって来るには、時間もお金もかかる。しかも、必ずしも金が見つかるとは限らない。そこで、故郷でなじみのある仕事、ワインづくりを行う人々が出てくるようになった。

しかし、移民たちの手によって始まったワイン産業は、1920年の禁酒法施行で、大きく後退することとなる。自家用のワインづくりのほか、一部のワイナリーで聖餐用のワインづくりは許可されたが、商業用のワインは製造、販売、輸送が禁止され、ほとんどのワイナリーが姿を消す事態に陥った。

アメリカの食卓からワインが消える

1933年に禁酒法が廃止されてからも、アメリカのワイン文化が復活するまでには時間がかかった。禁酒法は廃止されたものの、大恐慌の真っただ中ということもあり、ワイナリーにはぶどうの樹を植えなおす資金がなかった。加えて、禁酒法の時代に、ギャングの手によってカクテル文化が発展していた。

食事の文化も、ファストフードや缶詰、電子レンジで調理できる食事へと変化。人々はキッチンよりもテレビの前で過ごすようになり、アメリカの食卓からワインが消えた。

ワイン文化の復活、世界最大の消費国へ

1960年になると、有名な料理研究家のジュリア・チャイルドの影響で、料理をする主婦が増えた。また、この頃から一般家庭もヨーロッパへ旅行するようになり、人々は現地からワインを含めた飲食文化をアメリカに持ち帰るようになった。

また、ヒッピーたちの存在もワインの復活に影響を与えている。自分の手で物をつくり出す仕事をしたいと考えた彼らは、都市を離れて田舎に向かったのだ。そして、ナパ・ヴァレーに到着し、ワインづくりに関わるようになる。

さらに1976年には、カリフォルニアワインがフランスワインよりも高い評価を受けた「パリスの審判」が起こる。これによって世界的にカリフォルニアワインが知られるようになり、カリフォルニアでのワインづくりが“クレイジーな夢”ではなくなった。

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そして現在、アメリカは世界最大のワイン消費国となっている。

マリファナ合法化が与えた影響

2018年1月、嗜好や娯楽目的のマリファナ(大麻)の売買と所持がカリフォルニア州で合法化された。その結果、若い人のワイン消費量が低下したのだが、実はこのマリファナ合法化は、それ以上にワイン産業に大きな影響を与えている。

非合法だった時からマリファナは栽培されており、労働者には現金で賃金が支払われていた。非合法のマリファナ畑は不法移民にとっては良い条件の職場だったため、労働者を取られたワインメーカーたちは労働力の確保に苦労していた。

しかし合法化以降、マリファナメーカーは、労働者に適切な賃金や福祉を提供する必要が出てきた。その結果、労働者がワイン産業に戻ってくるように。一方で、ワイン業界で働いていた人の中から、もっと稼げるということでマリファナ産業に転向する人もおり、マリファナ合法化は、カリフォルニア州でのワインづくりにさまざまな影響を与えている。

1700年代から現代まで、その時代の“人”にフォーカスして語られた歴史の数々は、カリフォルニアワインへの愛着を深めてくれる内容だった。

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