コラム

2020年ボージョレ・ヌーボーの出来は? アルベール・ビショー×メルシャンによるプレゼンテーション

新型コロナウイルス感染症の拡大により、今までとは生活が一変した2020年。今年も11月の第三木曜日(11月19日)に、ボージョレ・ヌーボーが解禁される。

ボージョレ・ヌーボーとは、フランスのワイン銘醸地ブルゴーニュの南部に位置するボージョレ地区で、その年に採れたぶどうでつくられる新酒のこと。ぶどうの収穫後、アルコール発酵をしたらすぐに瓶詰めされ、解禁日に向けて世界各地に出荷される。

メルシャンは2020年10月13日、解禁に先立ち、ウェビナーによるボージョレ・ヌーボーのプレゼンテーションを開催。中継で参加したブルゴーニュの名門ワイナリー、アルベール・ビショーと共に、「特別な年のヌーヴォー」について語った。その内容を知れば、きっと今年のボージョレ・ヌーボーをさらに楽しめるに違いない。

ブルゴーニュの名門、アルベール・ビショーとは

アルベール・ビショーは、1831年に創立されたブルゴーニュ名門の家族ワイナリー。イギリスのロンドンで開催される、世界最大規模のワイン・コンペティション「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」にて、ワインメーカー・オブ・ザ・イヤーを3度受賞している世界唯一のワイナリーだ。

ボージョレ・ヌーボーの評価も高く、唯一の公式コンクールである「トロフィー・リヨン」では、2010年に大金賞を受賞している。

今回はアルベール・ビショーが所有するボージョレ地区のドメーヌ・ド・ロシュグレから、代表取締役社長のアルベリック・ビショー氏、テクニカル・ディレクター兼チーフ・ワインメーカーのアラン・セルヴォー氏、アシスタント・テクニカル・ディレクターのマチュー・マンジュノ氏の3人がウェビナーに登場した。

6代目当主となるアルベリック・ビショー氏

テクニカル・ディレクター兼チーフ・ワインメーカーのアラン・セルヴォー氏

アシスタント・テクニカル・ディレクターのマチュー・マンジュノ氏

40年以上続く、メルシャンとの関係

メルシャンとアルベール・ビショーとの関係は、実に40年以上にもなる。両社は単に、インポーターとワインメーカーという関係だけではない。メルシャンは、アルベール・ビショーのボージョレ・ヌーボーを安全、確実に日本の消費者に届けるためのサポートをしている。メルシャンの社員と一緒に4~5月頃から醸造技術や品質について、パッケージなどの製造関係、シッピング(出荷)スケジュールなど、最適なタイミングで作業ができるよう、ディスカッションを重ねながら進めたそうだ。特に、今年はコロナ禍の緊張感ある製造現場でのメルシャンのサポートが、大きな力になったそうだ。

メルシャンの代表取締役社長である長林道生氏は、今回のプレゼンテーションで「これからも一緒になって取り組んでいきたい」と語っていた。

アルベール・ビショーのコロナ対策

2020年は世界中で日常が一変した年となった。アルベール・ビショーでも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、3月下旬から4月上旬まで2週間ワイナリーを閉鎖しなくてはならなかった。そんな中で、アルベール・ビショーでは、一緒に働くチーム全員が安全な状態で働ける環境づくりを大切にしながら、「今年もお客様のもとに届けたい」という思いでワインをつくってきた。

具体的には、コロナ対策の安全委員会を立ち上げて、一方通行や収容人数、消毒などの細かいルールを決めて動いたそうだ。休校により子どもの面倒を見なくてはならない在宅勤務中の社員もおり、社員のスケジュール調整や収穫時の人手を集めるのに苦労したという。

アルベリック・ビショー氏は、「今回大きなトラブルがなく、無事にぶどうの収穫とワインづくりを終えられたことをうれしく思う」と語った。

2020年は「太陽のワイン」

例年とは違う条件下でのワインづくりとなった2020年だが、気候には恵まれたという。テクニカル・ディレクター兼チーフ・ワインメーカーのアラン・セルヴォー氏は、今年のワインを「太陽のワイン」と表現している。

冬は、温度が穏やかで、ぶどう栽培に大きなリスクとなる霜の影響はなかった。発芽は通常よりも早い3月で、5月に開花した。8月22日に収穫がスタートし、9月15日前後には醸造を完了。スケジュールに余裕がある状態でワインをつくれたそうだ。

夏は特に乾燥して暑くなったこともあり、凝縮感のあるぶどうができたが、収穫前に凝縮し過ぎて水分が外に出てしまった。さらに、日焼けによって収穫量が2割ほど落ちたという。

アルベリック・ビショー氏は、「コロナの中で大変なこともたくさんあったが、素晴らしい気候に恵まれ、期待以上のワインができたのではないか」と手応えを語った。

2020年のボージョレ・ヌーボーをテイスティング

消費者がボージョレ・ヌーボーを楽しむには11月19日まで待たなくてはならないが、つくり手なら飲むことができる。今回のプレゼンテーションでは、アルベール・ビショーの3人が出来立てのボージョレ・ヌーボーをテイスティングした。

テイスティングしたのは、「ボージョレ・ヌーヴォー ピンク」(左)、「ボージョレ・ヌーヴォー」(中央)、「ボージョレ・ヌーヴォー 酸化防止剤無添加」(右)の3種類だ。テイスティングコメントは、マチュー・マンジュノ氏によるもの。

ボージョレ・ヌーヴォー ピンク

当日にボトリングをしたばかりの1本。赤が多いボージョレ・ヌーボーで貴重なピンクだ。低温でマセラシオン(醸し、果汁と果皮を漬け込むこと)をしていることで、華やかな色味と香りが楽しめる。

ボージョレ・ヌーヴォー

とても美しい、深い色に仕上がった、華やかな香りがするきれいなワインだ。11月の解禁時期には、瓶の中で熟成し、もっと凝縮感のあるパワフルなワインになっているだろう。

日本側の「スタンダードなボージョレ・ヌーボーのボトル」という紹介に対して、アルベリック・ビショー氏が「ハイ・スタンダードだ」と訂正を入れる場面もあり、品質への自信の高さがうかがえた。

ボージョレ・ヌーヴォー 酸化防止剤無添加

酸化防止剤を使わない製法には、アロマが薄れてしまうというリスクがあるが、ぶどうの出来が良かったことで、非常にいいワインになった。

このワインについては、3人が次々に話し始め、思い入れの深い1本であることが伝わってきた。

アルベリック・ビショー氏は、今年のボージョレ・ヌーボーについて「例外なく凝縮感があり、酸が出ている」と総評。マチュー・マンジュノ氏も、「今年はいいヴィンテージなので、飲まないと後悔するだろう」と語っている。

メルシャンのボージョレ・ヌーボーへの思い

メルシャンがボージョレ・ヌーボーの販売を開始したのは、1982年のこと。「今年のぶどうを最も早く楽しめるワイン」として高い人気を得た。フレッシュでフルーティ、軽やかで飲みやすい味わいが特徴だ。

今回のプレゼンテーションでは、メルシャンの代表取締役社長である長林道生氏とマーケティング部輸入グループの澁田翔平氏からも、ボージョレ・ヌーボーへの思いが語られた。

代表取締役社長の長林道生氏(左)とマーケティング部輸入グループの澁田翔平氏(右)

コロナ禍での日本のワイン市場

新型コロナの影響で、業務用ワインが大きな打撃を受けた。一方で販売量を伸ばした家庭用のワインも、現在は落ち着きつつある。

ワイン市場トータルで見ると、2020年1月~9月の累計販売数量は、メルシャン推計で前年比90%にとどまっている。一方でメルシャンは、オーガニックワインやカジュアルスパークリングワイン、ノンアルコールワインが伸びていることもあり、98%となった。

「ワインのリーディングカンパニーとして、ワイン業界全体を盛り上げ、コロナ禍で苦しむサプライチェーンや生産者などワイン業界の人々の課題に寄り添いたいと考えている」と長林氏は語った。

ブームが落ち着いたからこそ味わえる、本当のボージョレ・ヌーボー

過去に何度かブームが起きたボージョレ・ヌーボーだが、ここ数年の輸入数量は減少傾向にある。

メルシャンの2020年の輸入数量は、業務用で市場が縮小したことが影響し、速報値では前年比75%となったそうだ。 また、今年は物流費が高騰しているが、値上げによってさらに市場が小さくなるのを避けるため、メルシャンは販売価格の値上げを10月1日に上がった酒税分だけにとどめた。

今年は、例年のようにお店やイベントに大人数で集まって、ボージョレ・ヌーボーの解禁を祝うことは難しいが、家や小規模な集まりで「今年のぶどうの出来をいち早く楽しむ」「ぶどうの出来を祝う」という、ボージョレ・ヌーボーの本来の意味を感じられる年になるのではないか、と澁田氏は語っている。

ワインユーザー拡大への期待も

ボージョレ・ヌーボーは、ワインを普段飲まない人の飲用率が高いことがインテージ社の調査によって明らかになっている。そのため、ボージョレ・ヌーボーがワインユーザーの拡大につながるのではないかと、メルシャンは期待を寄せている。

また、ボジョレーワイン委員会のデータ「2019年ボージョレ・ヌーヴォー輸出国別容量構成比」によると、ボージョレ・ヌーボーの輸出量の半数を日本が占めており、日本市場がボージョレ地区の生産者を支えているとも言える。今後、日本の消費者に、クリュ・ボージョレなどボージョレ・ヌーボー以外にも興味を持ってもらうことが、現地の生産者の支援になるとメルシャンは考えているそうだ。

「#ボージョレを飲もう」キャンペーン

メルシャンでは、ボージョレ・ヌーボー解禁に合わせて、ボージョレ産ワインの魅力を伝えることを目的としたキャンペーンを実施する。

アルベール・ビショーの公式Instagramアカウント(@domainesalbertbichot)をフォローした上で、ハッシュタグ「#ボージョレを飲もう」を付けて、自宅や飲食店でボージョレを楽しんでいる写真などを投稿するという内容だ(2020年12月31日23時59分投稿分まで)。

ボージョレ産のワインであれば、ヌーボーでなくても、アルベール・ビショーやメルシャンが取り扱っているものでなくてもOKだ。

投稿者の中から抽選で10人に、アルベール・ビショーの「ドメーヌ・ド・ロシュグレ ムーラン・ア・ヴァン 2016」が1本プレゼントされる。ボージョレ地区の中でも厳選された地区でつくられたワインだけが名乗れるクリュ・ボージョレのもので、凝縮感・複雑さを楽しむことができる1本だ。

長林氏は「アルベール・ビショーのような生産者は、ワインを通じて人がつながる場や機会を提供したいという思いを持って生産している。2020年はこれまでの生活が一変した大変な1年となったが、生産者の思いと共に多くの日本のお客様に楽しんでほしい」と、特別な年となった2020年のボージョレ・ヌーボーへの思いを語っていた。

困難な状況の中、今年も素晴らしいワインを届けてくれた生産者の方々に思いをはせながら、今年のボージョレ・ヌーボーを味わってみてはいかがだろうか。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ