コラム

マスター・オブ・ワインの大橋健一氏を魅了する、最新のカリフォルニアワイン産業

カリフォルニアワイン協会(CWI)は2020年10月27日、「カリフォルニアワイン・グランドテイスティング2020」に際し、マスター・オブ・ワイン(MW)の大橋健一氏による特別セミナー「今、知っておきたい最新のカリフォルニアワイン産業」を開催した。

大橋MVがアップデートを重ねた、カリフォルニアワインの最先端

大橋氏は、酒類専門店・山仁の代表取締役社長であり、ワイン業界で最も権威のある、マスター・オブ・ワインの称号を日本在住の日本人で唯一取得している人物だ。

日本航空(JAL)の「JALワインアドバイザー」や、イギリスのウィリアム・リード・ビジネス・メディアが主催する世界最高峰のワイン・コンペティション「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」の審査員を務めるなど、世界のワイン業界の最前線で活躍するワインのスペシャリストである。

マスター・オブ・ワインの大橋健一氏

セミナーの冒頭で大橋氏は、開催に至るまでの経緯を話した。

今回のセミナー開催に先立ち、2020年2月に大橋氏は、最新のカリフォルニアワイン産業を現地で視察した。数年ぶりのカリフォルニアで、ワイン産業の目覚ましい進化と発展に驚きを隠せなかったという大橋氏は、以降、カリフォルニアワイン産業の動向に大きな関心を寄せる。

新型コロナウイルス感染症の影響でセミナー開催が延期されてからも、大橋氏は現地とのやり取りを続け、最前線のカリフォルニアワイン産業を学び、レポートをアップデートし続けたという。

厳重な感染対策の下で開催された今回のセミナーについて、酒類販売店などのワインのプロや一般の参加者に向けて、「最新のカリフォルニアワインのアグレッシブでクリエーティブな魅力を体感し、カリフォルニアワインをビジネスや飲み会に取り入れる参考にしてほしい」と話した。

酒類マーケット回復の2つのカギとは?

大橋氏はまず、2020年の日本の酒類市場全体について解説した。新型コロナウイルス感染症の影響は酒類業界にも経済的なインパクトを与え、酒類全体の販売金額は9月時点で前年比65%、10月時点ではやや回復して前年比72%となった。

また、東京のオントレード(パブや居酒屋などでの消費)市場では、およそ10%が閉店している。オントレード市場がこうした厳しい状況を打破するには、客単価を上げるか、新規顧客の発掘が重要だと大橋氏は指摘する。

日本市場におけるアメリカワイン

続いて、日本市場でのアメリカワインの現状について解説。大橋氏は、アメリカワインとは、その多くがカリフォルニアワインだと前提した上で、2018年の輸入ワイン販売金額において前年比100%超となったのは、アメリカとポルトガルのみだと話す。

2019年は各国とも上り調子となるが、アメリカはさらに前年比10%の伸長を見せ、オーストラリアを抜いて第5位となる。

これを受けて大橋氏は、アメリカワインがイタリアワインに次いでオントレードに強いマーケットであると解説。実際に、アメリカワインの売り上げの40%はオントレードワインで、これはフランスワインの30%よりも高い。

その理由について大橋氏は、1本当たりの単価が高い「オーパスワン」や「ケンゾー エステイト」などの高級ワインが、金額ベースで飲食店での販売金額を後押ししていると推測した。

大橋氏は、セミナーに参加した酒販店などのワインのプロに向け、アメリカワインの導入が、オントレードでの客単価向上につながると強調した。

カリフォルニアワインの特徴「フルーティー&リッチ」

一方で、一般消費者にはまだまだなじみの薄いカリフォルニアワインは、その魅力をシンプルに伝えるプレゼンテーションが重要だと、大橋氏は話す。

カリフォルニアワインのシンプルなメッセージとして、大橋氏はまず、「フルーティー&リッチ」というキーワードを取り上げた。

大橋氏によると、プロの場合はクールクライメイト(冷涼な産地でつくられるワイン)でエレガントなスタイルを追求するため、フルーティーで度数が高すぎるワインはネガティブに評価されるという。

しかし、一般の消費者にとって、フルーティー&リッチは、ポジィティブな要素になり得る。大橋氏は、カリフォルニアワインを販売する場合、このフルーティー&リッチをシンプルに発信してほしいと話す。

さらに、各カウンティやAVAごとの特徴を分かりやすく発信することも重要だと、大橋氏は続ける。

例えば、「サンタ・リタ・ヒルズは、フランスでいうとバーガンディ(ブルゴーニュ)」「サンタ・バーバラは、ローヌ・バレー」といったように、地域や気候と結び付けてワインの特徴を整理し、シンプルなメッセージとしてカリフォルニアワインの魅力を発信する必要がある。

今回のセミナーで学んだことを、カリフォルニアワインのセールスのヒントにしてほしいと、大橋氏はセミナーの導入を締めくくった。

今知っておくべき、アメリカのワインジャーナリスト

セミナーでは、現在、アメリカワインの最先端を発信するジャーナリストについても言及した。

大橋氏が発信力のあるジャーナリストとしてその名を挙げたのは、『ワイン・アンド・スピリッツ・マガジン』のコラムニストなどで活躍するイレイン・チューカン・ブラウン氏、「ロバート・パーカー・ドット・コム」の編集長であり、マスター・オブ・ワインのリサ・ペロッティ・ブラウン氏、カベルネのトップコンサルタントであるトーマス・リバース・ブラウン氏などだ。こうしたワイン業界のトップを走るジャーナリストたちを追い掛けながら、ワインについて知ることを楽しんでほしい、と提案していた。

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About the author /  原田さつき
原田さつき

広告制作会社でコピーライターとしてワイン・ビールの販売促進に携わったのち、フリーランスに。WEBメディア・取材記事・機関紙など、幅広く活動。得意分野は酒・食・ペット。