コラム

家族経営で品質を守る巨大ワインコーポレーション「ジャクソン・ファミリー・ワインズ」 ~カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー

   

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて開催した。

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今回はそのバーチャルツアーから、アメリカのカリフォルニア州を中心にオレゴン州やフランス、イタリア、チリ、オーストラリアなどに多数のワイナリーを持つ、ジャクソン・ファミリー・ワインズ(Jackson Family Wines)についての内容を紹介する。

ジャクソン・ファミリー・ワインズ

今回のバーチャルツアーには、ジャクソン・ファミリー・ワインズのナショナル・ディレクター・オブ・ワイン・エデュケーションを務める、マスター・ソムリエのトーマス・プライス氏がガイドとして登場した。

ナショナル・ディレクター・オブ・ワイン・エデュケーションのトーマス・プライス氏

ジャクソン・ファミリー・ワインズは、ソノマのケンダル・ジャクソンやハートフォード・ファミリー・ワイナリー、ナパ・バレーのフリーマーク・アビーなどを手掛ける巨大ワインコーポレーションだ。メンドシーノやサンタ・バーバラなど、カリフォルニア州だけでも数多くの有名ワイナリーを手掛けており、世界中でワイナリーを含めた55ほどのブランドを展開している。

約1時間のバーチャルツアーでは、ジャクソン・ファミリー・ワインズの歴史と2つのブランドについて解説された。

ジャクソン・ファミリー・ワインズの歴史

世界中にワイナリーを持つ大規模なワインメーカーでありながら、家族経営であることを重視しているジャクソン・ファミリー・ワインズ。海外でつくられたワインの輸入元になるのではなく、創業者ジェス・ジャクソン氏の2人目の妻であり、現在の経営者であるバーバラ・バンキ氏が中心となって、世界中のワイナリーのかじを取っている。

ジャクソン・ファミリー・ワインズを立ち上げたのは、サンフランシスコで弁護士として活動していたジェス・ジャクソン氏だ。

50代での引退を決めていた彼は、引退後はワイン用ぶどうの栽培をしたいと考えており、1974年にカリフォルニア州北部のレイク・カウンティにあるナシとクルミの果樹園だった土地を購入した。

当時のアメリカでは、モデストのような暖かい所で生産されたぶどうを使ってブレンドしたワインがはやっていたのだが、ジェス氏が植えたのは、当時はまだそれほど人気がなかったシャルドネだった。

1982年には弁護士を引退。もともとはフェッツアーやE.&J. ガロなどのワイン生産者にワイン用ぶどうを売るだけのつもりでいたが、市場にはワイン用ぶどうがあふれており、誰も彼のぶどうを買おうとはしなかったという。

ワイン1万5000ケース相当量のシャルドネを抱えた彼は、若手のワインメーカーだったジェド・スティール氏とリック・フォーマン氏を迎えて、妻の旧姓であるケンダルと彼自身の姓であるジャクソンを組み合わせた名称のワイナリー、ケンダル・ジャクソンをスタートさせた。

ワイナリーの初ヴィンテージとしては多い1万5000ケースのワインをつくったものの、販売方法も知らず、販売店ネットワークのつてもなかった。そんなジェス氏が頼ったのは、今ではイタリアワインをはじめ、世界中のワインの輸入販売を手掛けるワインボウ・グループの創立者であるレオナルド・ロカシオ氏だった。当時のロカシオ氏は、まだワインを取り扱う弱小業者にすぎなかった。

当時、シャルドネはアメリカでのワイン消費の主流ではなかったため、一度は断られたが、ジェス氏はワイン63ケースをニューヨークに持参して、売れるかどうか試させてほしいと持ち掛けた。その結果、彼のワインは、マンハッタンのグランド・セントラル駅構内にある「グランド・セントラル・オイスター・バー」で、グラスワインとして採用されることとなった。

最初の成功を収めた後、ジャクソン・ファミリー・ワインズは、イタリアのトスカーナ、フランスのボルドー、南アフリカ、オーストラリアなど、世界中に多数のヴィンヤードとワイナリー、ブランドを所有するまでに成長した。

また、ジャクソン・ファミリー・ワインズは、ワインづくりにおいて持続可能な取り組みを実践するリーディングカンパニーとして、太陽光発電の活用や使用水量の抑制などを推進しており、2020年にはイギリスの飲料業界メディアThe Drinks Businessにより「Green Company of the Year」に選ばれている。

ワインカンパニーでは珍しく、ジャクソン・ファミリー・ワインズにはサステナビリティに特化した部門があり、ジェス氏の娘であるケイティ・ジャクソン氏が情熱を傾けて率いているという。

ハートフォード・コートのワイン

ジャクソン・ファミリー・ワインズが所有するワイナリーの1つである、ハートフォード・ファミリー・ワイナリー。畑の所有者は、ジェス氏の長女であるジェニファー氏と夫のドン・ハートフォード氏だ。ハートフォード氏は、ジャクソン・ファミリー・ワインズの役員の1人でもある。

ハートフォード・コート シースケープ・ヴィンヤード シャルドネ 2016

ソノマ・コーストに近い小さな町オクシデンタルの西側に位置するシースケープ・ヴィンヤード。このヴィンヤードで栽培されたぶどうのみを使用したシングル・ヴィンヤードのワインだ。海との間を遮る山がなく、とても冷涼な気候で、ヴィンヤードも小さいため、生産できる量は限られてしまう。このワインも毎年325ケースしか生産されていないが、ハートフォード氏とワインメーカーのジェフ・スチュワート氏は、「つくる価値があるユニークなワイン」と考えているという。

【プライス氏のテイスティング・コメント】
樽は感じられるが、果実が持つ青リンゴや若干のトロピカルフルーツのニュアンスを上回ってはいない。非常にゴージャスなワインだ。

久しぶりに口にしたが、非常に驚かされた。この6カ月間で味わった私たちのシャルドネの中でお気に入りの1本だ。パワーとエレガントの融合がハートフォード・コートの特徴だ。

このシャルドネはシトラスや海由来の風味があり、料理との相性も非常に良い。シンプルなシーフード料理、チキンのレモンクリームソース添えのような軽いタンパク質の料理と合わせやすいワインだ。

HARTFORD COURT SEASCAPE CHARDONNAY, SONOMA COAST 2016
アルコール度数:14.1%
品種:シャルドネ100%
熟成:フレンチオーク樽100%(新樽率30%)で1年以上
参考小売価格:1万6000円(税別)

ハートフォード・コート ファー・コースト・ヴィンヤード ピノ・ノワール 2016

ファー・コースト・ヴィンヤードは、ソノマ・カウンティ北西部の町アナポリスの南側に位置する。セコイアの森に囲まれており、尾根の頂上にあるヴィンヤードだ。ソノマ・コーストらしいゴールドリッジ土壌もあれば、海に近く、過去に隆起してできた地形なので、砕けた岩石もある。天然酵母で発酵し、フレンチオークの樽で17カ月熟成させている。

【プライス氏のテイスティング・コメント】
新樽の使用率は高いが、アロマや味わいにそれほどの樽感は感じられず、フレッシュで成熟した果実の香りが楽しめる。

ハートフォード・コートのワインらしいパワーと精密さが融合しており、ワインメーカーのスチュワート氏による良い仕事が感じられる。

HARTFORD COURT FAR COAST PINOT NOIR, SONOMA COAST 2016
アルコール度数:14.8%
品種:ピノ・ノワール100%
熟成:フレンチオーク樽(新樽率37%)で17カ月熟成
参考小売価格:1万6000円(税別)

フリーマーク・アビーのワイン

フリーマーク・アビーは、1886年にジョセフィン・ティクソン氏によって設立されたワイナリー。カリフォルニアワインの歴史とともに歩んできた、伝統あるワイナリーだ。「カリフォルニアで最初の女性ワイナリーオーナー」というのは、当時では大きな挑戦であったという。カリフォルニアワインが世界的に注目を集めるきっかけとなった1976年のパリ・テイスティングで、フリーマーク・アビーは赤ワインと白ワイン両方を出品し、白では6位、赤では10位となった。

その後、数々の所有者の手に渡り、2006年からジャクソン・ファミリー・ワインズの一員となったフリーマーク・アビー。施設の改良などは行われたが、ヴィンヤードなどは変わらず、フリーマーク・アビーのワインづくりは継承されている。フリーマーク・アビーで長年にわたりワインメーカーを務めていたテッド・エドワーズ氏は、2020年にワインづくりの主導権を後進に譲ったが、現在も名誉ワインメーカーとして引き続きワインづくりをサポートしている。

以下に挙げる2本のワインは、ナパ・バレーにあるラザフォードに位置する2つのヴィンヤードのぶどうをそれぞれ使用している。両ヴィンヤードはあまり離れておらず、土壌にも大きな違いはない。いずれも、収穫後にステンレスタンクで5日間の低温浸漬、10~28日間のスキンコンタクト、新樽を60%使用した熟成を行うなど、製造工程には共通する点が多いが、両方ともカベルネ・ソーヴィニヨン主体のワインでありながら、全く異なる味わいが楽しめる。

フリーマーク・アビー カベルネ・ソーヴィニヨン ボッシェ 2015

フリーマーク・アビーの傑作ヴィンヤードとも呼べるボッシェのワイン。

【プライス氏のテイスティング・コメント】
ラザフォードのカベルネ・ソーヴィニヨンには、パウダー状の細かく繊細でエレガントなタンニンが感じられる。ボッシェのワインには複雑な香りがあり、ミントやユーカリ、ダークチョコレートなどの香りに続き、ブラックベリーや黒すぐり(カシス)、ブラックチェリー系の香りがくる。テクスチャーはフレッシュ。

30年熟成させることも可能なワインだ。シカモア・ヴィンヤードのカベルネ・ソーヴィニヨンと比べて、より直線的な味わいが感じられる。

FREEMARK ABBEY CABERNET BOSCHE CABERNET SAUVIGNON 2015
アルコール度数:14.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン92%、メルロー8%
参考小売価格:2万7700円(税別)

フリーマーク・アビー カベルネ・ソーヴィニヨン シカモア・ヴィンヤード 2015

【プライス氏のテイスティング・コメント】
ボッシェとのドラマチックな違いを楽しめる1本。シカモア・ヴィンヤードは、ボッシェと比べて果実味が先行して感じられ、それから他のアロマが感じられる。ボッシェと比べると、より丸みがあり芳醇さがある1本だ。

こちらも熟成が可能だが、ボッシェほど長くはない。

FREEMARK ABBEY CABERNET SAUVIGNON SYCAMORE VINEYARD 2015
アルコール度数:14.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン88.2%、プティ・ヴェルド4.4%、カベルネ・フラン4.2%、メルロー3.2%
参考小売価格:2万7700円(税別)

ジャクソン・ファミリー・ワインズでのランチも

今回のバーチャルツアーとウェビナーとの違いは、コンラッド東京のシェフが再現したワイナリーの料理を味わいながら、ワインとのペアリングを楽しめる点だ。

レシピはケンダル・ジャクソンのシェフが担当

この日のランチは、ケンダル・ジャクソンのシェフによる料理と、「エステーツ・コレクション」のワインが提供された。バーチャルツアーに引き続き、ランチ中もプライス氏がワインの解説をしてくれたので、併せて紹介したい。

「エステーツ・コレクション」とは

エステーツ・コレクションとは、ケンダル・ジャクソンがここ数年手掛けているプロジェクト。26年間、ケンダル・ジャクソンでワインメーカーを務めているワインマスターのランディ・ウロム氏が、1万エーカーあるカリフォルニア州内の自社ヴィンヤードの中から、厳選したぶどうを使用したハイグレードシリーズだ。

エステーツ・コレクション キャメロット・ハイランズ シャルドネ 2018

スターターのグリーンサラダと合わせたのが、2018年の「エステーツ・コレクション キャメロット・ハイランズ シャルドネ」だ。

サンタ・バーバラ・カウンティのサンタ・マリア・バレーにあるヴィンヤードで収穫されたぶどうを使用している。観光地として栄えているナパ・バレーとは異なり、酪農や果樹栽培が盛んな農業地域で、カリフォルニア州では珍しく、山脈は南北ではなく東西に走っており、海からの冷たい風は山脈に沿って分散することなく内陸に吹き込んでいく。

日中の気温は32℃ぐらいまで上がるが、午後1時からは風が吹き始めて次第に25℃前後まで下がり、夜までに13~15℃前後まで下がる。昼夜の寒暖差が大きい気候が、世界的なシャルドネやピノ・ノワールを生み出している。

ヨーロッパ以外のシャルドネとしては珍しく樹齢40年の樹が植えられており、全てつぎ木されたものではないという。プライス氏は、「エキゾチックなクオリティがあり、海由来の風味が若干あるものの、サンダルウッドや中華料理で使う香辛料といった独特の味わいを鼻や口の中で感じる。暖かいエリアだが、前述したように午後になると涼しくなる。それがこの美しいシャルドネを生み出しているのだ」と解説している。

ウロム氏も、ここでつくられるシャルドネが一番のお気に入りだという。生産量は4000ケースほど。

フレンチオーク樽を100%使用し、新樽率は39%。トロピカルさがありアルコール分が高いことから、ハートフォード・コートのシャルドネほど、フードペアリングは万能ではないとプライス氏は説明している。ハワイアンピザ、マンゴーチャツネ、サルサなど、トロピカルな風味と合うメニューとのペアリングがおすすめだとのこと。

エステーツ・コレクション ホークアイ・マウンテン カベルネ・ソーヴィニヨン 2017

メインは、時間をかけてローストした牛ヒレ肉。合わせたワインは、2017年の「エステーツ・コレクション ホークアイ・マウンテン カベルネ・ソーヴィニヨン」だ。

ジャクソン・ファミリー・ワインズのカベルネ・ソーヴィニヨンで特筆すべき点として、プライス氏は「テロワールを感じられるワインであること」を挙げた。

このワインには、ソノマ・カウンティのアレキサンダー・バレーの中でも標高の高い場所にある単一畑のぶどうを使用している。マヤカマス山の尾根にあり、標高900~2400フィート(約274~732m)に位置する。急こう配のため機械が入れられず、農業をするには挑戦的な場所でもある。異なる土壌が15もあり、そのほとんどが火山性だ。5000エーカーの土地のうち、900エーカーでぶどうを栽培している。熊などの野生動物がいるような自然の中で栽培されている点も、他の畑と異なる特徴だ。

プライス氏は、「セイボリー、ハーブ、ダークチョコレート、黒果実、そして、若干の青い果実味を感じるワイン。牛肉との相性が良く、豊かな酸味があり、アルコール分は非常にうまくコントロールされている。ちょうどいい熟成を迎えているところだ」と解説している。

巨大なワインカンパニーだが、家族経営にこだわり、テロワールを表現し続けてきたジャクソン・ファミリー・ワインズ。生産地ごとの味わいの違いを、確かめてみてはいかがだろうか。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ