コラム

“カリフォルニアワイン産業の父”の精神を受け継ぐ「ブエナ・ヴィスタ・ワイナリー」 ~カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー

   

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。

ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。

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今回はそのバーチャルツアーから、ブエナ・ヴィスタ・ワイナリー(Buena Vista Winery)の内容を紹介する。

ブエナ・ヴィスタ・ワイナリー

ブエナ・ヴィスタ・ワイナリーは、ハンガリー人のアゴストン・ハラスティ伯爵が1857年に設立したワイナリーだ。当時はまだ、ぶどう産地として有名ではなかったソノマの地に根を下ろしたブエナ・ヴィスタ・ワイナリーは、カリフォルニアで最も古いプレミアムワイナリーといわれる。

2011年からはフランス・ブルゴーニュの大手ネゴシアンであるボワセ家が所有し、ジャン・シャルル・ボワセ氏がオーナーを務めている。

今回のバーチャルツアーでは、2人のガイドとオーナーのボワセ氏が登場した。

ワイナリーのツアーからスタート

1人目のガイドとして登場したのは、オーナーの手によってこの世に生き返ったという、創業当時を知る「伯爵」だ。

創業当時を知るという「伯爵」

バーチャルツアーはワイナリーの庭から始まり、歴史ある建物の中へ。ちょうど日が沈む頃で、ワイナリーの名前のとおり、ブエナ・ヴィスタ(スペイン語で「絶景」の意味)を楽しめるワイナリーであることがうかがえた。

入ってすぐ右手に見えたのは、実際にワイン醸造で使用している発酵用の木樽だ。2012年に新調されたとのこと。

左手に入っていくと、ボワセ氏によってデザインされた「バブル・ラウンジ」がある。スパークリングワインを楽しむためのラグジュアリーな空間だ。

そして、3階のワインツールミュージアムへ。途中の階段や廊下には、ボワセ氏のコレクションであるデカンターやコルク抜き、ハラスティ伯爵の生誕200周年を記念して贈られた宣言書などが飾られている。

ワインツールミュージアムとして使われている広い部屋は、伯爵の息子が最初にワインをつくった場所で、かつてはシャンパンセラーとして使われていた場所だという。

ハラスティ伯爵への敬意

ツアーの途中には、オーナーのボワセ氏がテンション高く登場した。

オーナーのジャン・シャルル・ボワセ氏

「40年前にカリフォルニアに恋に落ちたんだ。ブルゴーニュからブエナ・ヴィスタ・ワイナリーを訪れてね」と、ワイナリーとの出会いが語られた。

1857年にブエナ・ヴィスタ・ワイナリーを立ち上げたアゴストン・ハラスティ伯爵は、近代的なワイン産業をつくり上げた人物だ。カベルネ・ソーヴィニヨン、ジンファンデル、シャルドネ、ピノ・ノワールといった品種をカリフォルニアにもたらした人物で、その功績からハラスティ伯爵は“カリフォルニアワイン産業の父”と呼ばれている。

「私は伯爵の夢やビジョンに恋に落ちた。『全ては可能なのだ』という考えにもね」とボワセ氏は語った。そして、「日本で素晴らしいソムリエとして活動しているあなたたちも、全ては可能だということを体現している」との熱いメッセージが、参加者に向けて送られた。

ブエナ・ヴィスタ・ワイナリーのワイン

続いて登場したガイドは、ワインメーカーのブライアン・マロニー氏。ゴールドラッシュ時代からソノマの地に根付いている、6代目のワインメーカーだ。2011年ヴィンテージから、ブエナ・ヴィスタ・ワイナリーに参加している。

ワインメーカーのブライアン・マロニー氏

ブエナ・ヴィスタ カーネロス シャルドネ 2017

カーネロスは、ソノマ・カウンティとナパ・バレーにまたがるAVA(アメリカ政府承認ぶどう栽培地域)だが、ブエナ・ヴィスタ・ワイナリーのヴィンヤードがあるのはソノマ・カウンティ側のみ。

2017年は興味深いヴィンテージで、春は比較的涼しかったものの、だんだんと気温が上昇し、夏の終わりにはかなりの暑さとなった。成熟が早く進んだ畑では、糖度22.5~23.0程度のぶどうを収穫できたが、9月第1週に気温40℃前後の猛暑となったことで、通常は9月後半に行う収穫を第2週までに終えた。最後に収穫したぶどうの糖度は24.5前後だったという。

手摘みで収穫されたぶどうの全房をプレスして、フレンチオークとハンガリー産のオーク樽で発酵。全てに対してマロラクティック発酵(MLF)を施している。通常よりも成熟したタイプで、アルコール分も通常の13.5~13.9%より高くなっている。

安定したワインで、長期熟成に耐えられる。リッチな白い果実とマロラクティック発酵からくるバターっぽさが若干あるが、なによりもトロピカルな果実の香りがある。樽が、果実を凌駕しない程度のスパイスさを加えている。もう少し熟成させるとヘーゼルナッツやフローラルな香りがしてくるはずだ。

味わいを引き立てるためにも、16℃程度で提供するのが望ましい。少し前に開栓しておくことがおすすめだ。デカンターを使用するか、少量をグラスに注いで残りは30分後ぐらいに楽しむとよいだろう。

2017 BUENA VISTA CHARDONNAY, LOS CARNEROS
アルコール度数:14.5%
品種:シャルドネ100%
AVA:カーネロス
参考小売価格:3663円(税込)

ブエナ・ヴィスタ ソノマ ピノ・ノワール 2016

ソノマ・カウンティのテロワールは多様性があり、少なくとも40種類の土壌がある。主な土壌は3種類で、火山性土壌、ソノマ・カウンティの西側に広がる堆積岩、そして、かつては川だった沖積層だ。こうした土壌の違いが、ぶどうの生育や成熟時期の違いを生んでいる。また、丘や山脈が天候や気候にも多様性をもたらしている。山脈の西側は非常に冷涼で風が強い一方で、東側は暖かい。海から発生する霧の影響もさまざまだ。こうした違いが生む多様なテロワールと向き合いながら、ピノ・ノワールを手掛けている。

ブエナ・ヴィスタ・ワイナリーはソノマ・カウンティ各地でピノ・ノワールを栽培しているが、このワインのバックボーンとなっているのは、ロシアン・リバー・バレーのもの。ブラックチェリーのキャラクターが香りにあり、柔らかくてシルキーだが重さはない。赤身肉のステーキよりも、サーモンやマグロとの相性が良いワインだ。熟成時には、新樽の使用をごく少量にとどめ、果実味や柔らかさを重視した。

2016 BUENA VISTA PINOT NOIR, SONOMA COUNTY
アルコール度数:14.5%
品種:ピノ・ノワール100%
AVA:ソノマ・カウンティ
参考小売価格:3300円(税込)

ブエナ・ヴィスタ カーネロス ピノ・ノワール 2017

カーネロスは粘土質の土壌だが、砂利も多く含まれている。これはヴィンヤードにとって非常に重要で、粘土質だけでは水分と栄養分が多すぎて、果実はよく育つがその質はあまり良いものにならない。カーネロスではペタルマ・ギャップから吹く強い風を受けながら、ぶどうはゆっくりと生育する。

2017年ヴィンテージは暑い年だったが、収穫は9月20日になっても続いていたそうだ。発酵中は、浮いてくる果皮などの固形物を沈めるパンチダウンを手作業で行い、その後ゆっくりとプレスして、フレンチオーク樽とハンガリー産オーク樽で約14カ月熟成させている。

フローラルでありながら、リッチでスパイシーなアロマがある1本。豊かな土壌が、アロマやフェノール化合物の含有を高めるため、タンニンを柔らかくするためにも長い熟成期間が必要とされる。

比較的重い食事との相性が良い。提供時は17~18℃程度で供するのが望ましい。

2017 BUENA VISTA PINOT NOIR, LOS CARNEROS
アルコール度数:14.5%
品種:ピノ・ノワール100%
AVA:カーネロス
参考小売価格:4180円(税込)

ブエナ・ヴィスタ ソノマ ジンファンデル 2016

アレキサンダー・バレーにあるマクドナルド・ヴィンヤードの果実を80%使用。このヴィンヤードは、1940年代以前にぶどうが植えられた古い畑だ。ソノマ・カウンティ北部に位置していて比較的暖かく、土壌は沖積層で、粘土質の土壌に丸石や岩が混ざっている。

1860年代にさまざまなジンファンデルワインを生んだハラスティ伯爵を意識して、クラシックなスタイルを目指した。熟成時には、アメリカンオーク樽とフレンチオーク樽を使用。樽の影響が強くなりすぎないように、新樽は10%以下に抑えた。

ソノマ・カウンティのジンファンデルは酸が豊かなため、食事との相性が良いワインに仕上がっている。

2016 BUENA VISTA ZINFANDEL, SONOMA COUNTY
アルコール度数:15.5%
品種:ジンファンデル100%
AVA:ソノマ・カウンティ
参考小売価格:3300円(税込)

ブエナ・ヴィスタ ザ・カウント 2017

ハラスティ伯爵へのトリビュートとして、数年前から手掛けているワイン。ブレンドワインは伯爵がつくっていたスタイルだ。アレキサンダー・バレーとドライ・クリーク・バレーの果実を主に使用している。

他の3本のワインと比べて若干熟しており、ぜいたくさとリッチさがあるワインに仕上げた。カリフォルニアワイン産業の父を表現するには、素晴らしくて強いワインである必要があるからだ。

ハンガリー産オーク樽とアメリカンオーク樽を主に使って熟成させているのは、味わいを良くするためだけではなく、アメリカでカリフォルニアワインのパイオニアとなったハンガリー人の伯爵に敬意を示す意味もある。

2017 BUENA VISTA THE COUNT RED BLEND, SONOMA COUNTY
アルコール度数:15.5%
品種:ジンファンデル45%、メルロー26%、シラー10%、マルベック6%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%、グルナッシュ4%、ミッション4%
AVA:ソノマ・カウンティ
参考小売価格:4158円(税込)

観光客にも人気があり、ソノマの地での長い歴史を持つブエナ・ヴィスタ・ワイナリー。ブルゴーニュの大手ネゴシアンであるボワセ家とソノマの地に根付いたワインメーカーが、その伝統を受け継いで守り続けていることが伝わるバーチャルツアーだった。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ