コラム

【追悼ジム・クレンデネン氏】ご本人がまさかの登場! 「オー・ボン・クリマ」~カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。

ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。

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今回はそのバーチャルツアーから、オー・ボン・クリマ(Au Bon Climat)の内容を紹介する。

オー・ボン・クリマ

今回のツアーをガイドしてくれたのは、オー・ボン・クリマの創業者兼オーナーであり、ワインメーカーでもあるジム・クレンデネン氏だ。ワイナリーの精神的支柱として大きな存在だったクレンデネン氏だが、2021年5月16日に68歳で逝去された。

そのおよそ半年前に当たる2020年12月4日、クレンデネン氏は日本に留学中の息子とホリデーシーズンを過ごすため、2週間前から日本にやってきていたという。新型コロナウイルス感染症の水際対策による待機期間を終え、今回のセミナーにまさかの本人登場となり、会場では驚きの声が上がった。

写真中央が、故ジム・クレンデネン氏

2020年ヴィンテージについて

クレンデネン氏が「ハッピーなニュースだ」とまず話し始めたのは、2020年の収穫についてだ。オー・ボン・クリマとして39回目の収穫であり、オーストラリアやブルゴーニュでの経験を含めると、クレンデネン氏にとっては45回目の収穫だ。この日の時点では、マロラクティック発酵(MLF)まで終わったところであり、オー・ボン・クリマには珍しい、色の濃い素晴らしいワインになりそうだと語っていた。

しかし、2020年は簡単な年ではなかった。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、7カ月も完全にワイナリーを閉鎖。トラックドライバーを含め、ワイナリーの従業員以外は敷地には足を踏み入れなかったという。

また、カリフォルニア州のナパやソノマ、そしてオレゴン州は熱波の影響で山火事に見舞われた。オー・ボン・クリマの本拠地であるサンタ・バーバラにも、8月の終わりから9月の初めの1週間ほど熱波が押し寄せた。しかし、冷たい海である太平洋に面していたこと、そして東西に延びる山並みのおかげで、海からの強い風が内陸に向かって吹き込んだため、山火事からは守られた。日中の気温は40℃以上を記録したが、海からの霧が温度の上昇を抑制。2020年は、サンタ・バーバラがいかに恵まれた環境かということが感じられる年だったという。

「次の収穫は、オー・ボン・クリマとして40回目となる。今年のように良い年になるといい」と、クレンデネン氏は語っていた。そんな40回目の収穫も、2021年に順調に行われたようだ。公式Instagramでは、40回目の収穫を終え、クレンデネン氏の娘であるイザベル氏が、ピノ・ノワールをかき混ぜている様子が公開されている。

自社畑への思い

バーチャルツアーでもう1つ印象的だった話が、自社畑への思いだ。

オー・ボン・クリマを一緒に立ち上げたアダム・トルマック氏とは、1982年から一緒にワインづくりをしていた。

最近では、サンタ・バーバラでワイナリーを立ち上げてぶどう栽培からスタートするには、3000万ドル(約34億円)以上が必要だった場合もあるという。クレンデネン氏たちは、自分たちのぶどう畑を持つことはなく、畑と古い乳牛の小屋を借りてワインづくりをスタート。人を雇う経済的な余裕がなかったため、畑の作業も自分たちだけでやっていた。収穫期には、朝の6時に起床して簡単な朝食を済ませてから畑に出て、1トンのシャルドネを収穫。ワイナリーで圧搾して樽に入れると夜の8時30分になっており、それからささやかな夕食を取って寝るという毎日の繰り返しだったそうだ。収穫のために人が雇えるようになると、生活はかなり楽になったという。

クレンデネン氏は自分のヴィンヤードを持つことは特別だったとし、かんがい設備などを整えても自分で土地を所有していなければ、いずれは全て土地の持ち主に渡さなければならず、自分の物にはならないことに気付いたと、当時を振り返った。

そして、1998年に初めてクレンデネン氏が購入したヴィンヤードが、ル・ボン・クリマだ。シスコック川の南側にある100エーカー(約40ha)ほどの畑で、40エーカー(約16ha)にぶどうを植樹。そのうちの37エーカー(約14ha)がピノ・ノワールだった。

ピノ・ノワールを植えた理由は、ピノ・ノワールは育てるのが難しいため、収穫量を無視して質の良いピノ・ノワールを栽培してほしいと、他の人に頼みづらいと思ったからだそうだ。収穫量が少なければぶどう栽培農家の収入も下がってしまう。シャルドネに着手したのは、その後だという。

トルマック氏は、オー・ボン・クリマを去った後に、オーハイ・ヴィンヤードを立ち上げている。クレンデネン氏は、オーハイ・ヴィンヤードのワインをおいしいと評価し、「彼は素晴らしいワインメーカーだ」と語っていた。

セミナーで紹介されたワイン

1989年と1990年に、有名なワイン批評家のロバート・パーカー氏から「ベスト・ワイナリー・オブ・ザ・ワールド」に選出されたことがあるが、「すぐに忘れられた」とクレンデネン氏は感じているそうだ。

重いワインに高いパーカー・ポイントが付く傾向があったが、クレンデネン氏のワインはエレガント。ロバート・パーカー氏が好むようなワインをつくるのではなく、自分のためにワインをつくっていると強調していた。

ここからは、そんなクレンデネン氏自身が手掛けたワインの中から、バーチャルツアーで紹介された5本のワインを見ていこう。

クレンデネン・ファミリー シャルドネ “ザ・ピップ” ル・ボン・クリマ サンタ・マリア・ヴァレー 2016

クレンデネン氏が手掛けていたワインには、オー・ボン・クリマとクレンデネン・ファミリーがある。クレンデネン・ファミリーをセカンドラベルだと考えている人もいるが、「最も自分が思うままのワインを手掛けており、結果に満足しているラベルだ」と、クレンデネン氏は説明した。

2014年頃から「ザ・ピップ」シリーズではピノ・ノワール、シャルドネ、ネッビオーロを手掛けている。価格はオー・ボン・クリマのワインと比べてかなりお手頃だ。

野菜っぽさやトロピカルさ、バタースコッチさなどもない、果実のピュアさが楽しめるクローンを選んでいる。新樽は使用しておらず、鮮やかな酸が感じられる1本だ。

2016 CLENDENEN FAMILY Chardonnay “THE PIP”, Le bon Climat Vineyard, Santa Maria Valley
アルコール度数:13.5%
品種:シャルドネ100%

オー・ボン・クリマ シャルドネ “ニュイブランシュ シンギュラー” サンタ・マリア・ヴァレー 2016

1996年に手掛け始めたシリーズ。1980年代後半にクレンデネン氏のシャルドネを「最高のスタイル」と絶賛したロバート・パーカー氏は、6年たつと「アメリカのシャルドネはもっとパワフルでリッチなものであるべき。樽が効いて重いものであるべきだ」と、クレンデネン氏のワインを否定するようになった。

そこで、「ワインメーカーのクリエーティビティと批評家からの称賛、どちらが重要なのか」と疑問を問いかけるためにつくったワインだという。ピュアな果実を楽しめる「ザ・ピップ」のシャルドネとは異なり、熟成と発酵に新樽を100%使用している。樽は新しいものほど、ワインに重さを加えるが、重さに偏ることなく果実感を感じられるオー・ボン・クリマらしいエレガントさがあるワインだ。

「私は自分が意図したとおりのワインをつくりたいと思っている。39年間もワインのスタイルを維持していて、そのスタイルを好きで愛してくれている人たちがいる。私のスタイルを嫌いな人に、好きになってほしいと頼んだことはない。世界中のどこに行ってもポジティブな反応を受けるんだよ」と、このワインに込められた自分の思いを語っていた。

2016 AU BON CLIMAT Chardonnay “NUITS-BLANCHES AU BOUGE – SINGULAR”, Santa Maria Valley
アルコール度数:13.5%
品種:シャルドネ100%

クレンデネン・ファミリー ピノ・ノワール ランチョ・ラ・クーナ サンタ・バーバラ・カウンティ 2016

このワインに使われているのは、1982年に最初に始めた畑のすぐ隣にある、ランチョ・ラ・クーナ・ヴィンヤードのぶどうだ。

「ピノ・ノワールの甘さ、ほどよい厚みとテクスチャー、そしてしっかりとした酸が感じられ、長いフィニッシュが楽しめる」と、クレンデネン氏はこのワインの味わいを解説した。

2016 CLENDENEN FAMILY Pino Noir, Rancho La Cuna, Santa Barbara County
アルコール度数:13.5%
品種:ピノ・ノワール100%

オー・ボン・クリマ ピノ・ノワール “ノックス・アレキサンダー” サンタ・マリア・ヴァレー 2015

ワインの名前に付けられている「ノックス」とは、バーチャルツアー開催時、日本に留学中だったクレンデネン氏の息子の名前だ。標高が高い北向きの畑で栽培されたぶどうを使用し、テロワールを表現している。

20%を全房発酵。2015年の収穫量は少なかったが、良い酸がある非常に良いヴィンテージだという。

2015 Au Bon Climat Pinot Noir “Knox Alexander”, Santa Maria Valley
アルコール度数:13.5%
品種:ピノ・ノワール100%

オー・ボン・クリマ “イザベル” ピノ・ノワール 2016

ワインの名前に付けられている「イザベル」は、クレンデネン氏の娘の名前。2006年ヴィンテージは、世界中のピノ・ノワールをテイスティングする『デキャンター(Decanter)』誌の企画で、唯一の5つ星を獲得した実績を誇っている。

ピノ・ノワールを栽培している15の畑の中で、最も出来の良いぶどうを使用し、ヴィンテージを表現することを第一に考えてブレンド。チャーミングなワインを目指しているが、2015年ヴィンテージは力強さが感じられるワインに仕上がったという。

大学で生物学とともに、日本語および日本文化の学位を取得したイザベル氏。現在は、オー・ボン・クリマのテイスティングルームで働いているそうだ。

2016 Au Bon Climat Pinot Noir Isabelle California
アルコール度数:13.5%
品種:ピノ・ノワール100%

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ