コラム

気候変動でワイン銘醸地ボルドーはどう変わるか ~ボルドーの持続可能なワイン造りを知る

   

ボルドーワイン委員会(CIVB)は2019年10月24日、ボルドーのサステナブルなワインづくりについて、その取り組みなどを紹介する「ボルドーの持続可能なワイン造りを知る #Sustainabordeaux プレスイベント」を開催した。

イベントには、ボルドーワイン委員会技術部門ディレクターのマリーカトリーヌ・デュフール氏が登壇。ボルドーでは現在、持続可能なワインづくりのため、どんな取り組みを行っているかを語った。

今回はその中から、気候変動がボルドーワインに与える影響、また、それへの対策によってどのように変わっていくのかについてまとめる。

気候変動と対策

1980年代を転機に進む気候変動

フランスの平均気温は、1980年代を転機として上昇傾向にあり、100年前に比べると1.4℃ほど上昇している。この数字は楽観的だともいわれ、4~5℃ほど気温が上昇したという声もある。

平均気温の上昇だけではなく、雨の降り方にも変化が見られる。ぶどう畑を潤す冬と春の雨が減り、一時的に多くの雨が降ることも増えてきた。

また、春に霜が降りることも増え、雷雨やひょうなどの予測できない悪天候がぶどう畑の懸念材料となっている。2017年には、大規模な春の嵐や激しいひょうの影響で、収穫量が大幅に減った。

気候変動がワインに与える影響

気候変動がワインに与える影響は、決して小さくはない。この30年間で収穫時期が3週間ほど早くなり、アルコール度数は上昇。ワインづくりを左右する、ワインの酸味が減少している。また、アロマにも変化が見られる。

気候変動に適応するための施策

気候変動に対応するため、ぶどうの枝の剪定を遅くして収穫を先延ばしにする、ぶどうを高く育てて春の霜の影響を減らす、葉の広がるエリアを小さくして葉から蒸発する水分を防ぐ、醸造の際に発酵力の低い酵母を使用する、といった施策が行われている。

また、白ワインやロゼワイン用のぶどうを夜明けに収穫することも増えている。これは、ぶどうを冷涼な状態に置くことで、アロマを保つためだ。

新しい品種の可能性を探る

ボルドーでは、INRA(国立農業研究所)により、研究区画で52品種のぶどうを育て、ボルドーの環境への適応力や潜在的な品質について研究が行われている。研究対象の品種は、フランス在来種だけではなく、外来種も含まれている。

2019年6月には、気候変動に適応した7つの品種がAOC(原産地統制呼称制度)の規定に組み込まれることになった。いずれもこれまでの品種よりも遅く収穫でき、他のワイン生産地で代表的な品種ではないものだ。

●新7品種
赤ワイン用:アリナルノア、カステ、マルセラン、トウリガ・ナショナル
白ワイン用:アルヴァリーニョ、リリオリラ、プティ・マンサン

これらの品種は、既に最終認定を行うINAO(国立原産地名称研究所)に申請しており、好意的な判断が下される見込みだという。

第1回目の植え付けは、2020年から2021年にかけて行われる予定だ。作付面積は5%まで。ブレンドワインにのみ使われ、アッサンブラージュは10%までと規定されている。

こうした新品種を取り入れて、どんな品種がボルドーに適しているのかを見極めていき、ワインの生産量を保っていくという。

2020年までに二酸化炭素排出量を20%減

気候変動に与える影響を減らすため、ボルドーは二酸化炭素の排出量管理にも取り組んでいる。ボルドーワインは輸出が多く、輸送の過程で多くの二酸化炭素を排出している。そこで、ボトルの軽量化に着手し、二酸化炭素の排出量を大きく減らすことができた。

二酸化炭素の排出量管理が始まった2008年以降、排出量は徐々に減り、2013年には9%も減らすことができた。2020年までには20%の減少を目標にしている。同様に、水とエネルギーの20%節約を目指している。逆に、20%の増加を目指しているのが、再生可能エネルギーだ。

これらを達成するため、ぶどう樹の若枝のコンポスト化や輸送箱内のダンボール仕切りの廃止、ゴミの相互収集、リサイクル活動、雨水の貯水の推進など、さまざまな施策にそれぞれの生産者が取り組んでいる。ボルドーワイン委員会は、その成功例をボルドーワイン業界全体で共有する役割を担っている。

ボルドーワインは変わっても、スピリットは変わらない

古くて伝統のあるぶどう畑が広がるボルドーには、地域のワインの質を守るために厳しい基準がある。とはいえ、変わらないことが良いことだとは考えていない。

これまでもボルドーワインは変化してきた。1850年代のボルドーワインは、現在とは違うものであることが分かっている。消費者の好みも変化しており、特に気候変動に対応できるよう、ボルドーワインは変わっていかなくてはならない。

「今後つくられるボルドーのワインは、今とは違うものになる。しかし、生産者のスピリットは変わらない」と、デュフール氏は強調する。

サステナブルな取り組みについては、消費者も大きな関心を寄せている。特に、若い人の中で環境意識が高まってきていることもあり、環境に配慮したワインの売り上げも好調だ。サステナブルなワインづくりは、生産者と消費者の両方が望むワインづくりの形だといえるだろう。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ