ワイナリー56軒が拠点を構える長野県(2019年12月時点)。実は、ワインだけではなくシードルを手掛けているワイナリーも多く、シードル専門の醸造所「サイダリー」「シードルリー」もある。
なぜ、長野県でシードルづくりが盛り上がっているのだろうか。
「ナガノシードル」とは
「ナガノシードル」とは、長野県産のりんごの果汁を使用し、長野県内で醸造されたお酒のこと。
シードルのアルコール度数は2~8%程度とワインよりも低く、飲みやすいものが多い。長野県では発泡辛口タイプが多く、発泡していないスティルタイプのシードルも、松川町などの県南部で製造されている。
2002年にスタートした長野県原産地呼称管理制度では、2020年1月時点で計100品のシードルを認定している。
実はりんごの収穫量は全国2位
りんごの生産地といえば青森県が有名だが、長野県はそれに次ぐ全国2位の収穫量を誇っている(農林水産省 平成30年産果樹生産出荷統計より)。全国の約20%に当たるりんごが長野県で収穫されているのだ。おいしいりんごができる条件の1つは、昼夜の寒暖差が大きいこと。これはぶどうも同様だ。
長野県では1874年からりんご栽培が始まっており、シードルづくりは1942年に小布施ワイナリーが始めたとされている。2016年には長野県内で初となるサイダリー「カモシカシードル」が誕生した。2019年にはさらに2件のサイダリーが誕生している。
りんご農家とワイナリーの良い関係が生むシードル
この数年でさらに盛り上がりつつあるナガノシードルについて、「坂城葡萄酒醸造」の代表であり、自らが経営するレストランでソムリエを務める成澤篤人さんに話を聞いた。
成澤さんは、長野県内でシードルづくりが盛んな理由の1つに、農家との関係があるという。多くのワイナリーが、販売量が減って余ってしまったり、台風の影響で売れなくなるなどしたりんごを利用して、シードルづくりをしている。
また、シードルづくりが始まるのは、ワインの醸造が終わってから。ぶどうからつくるスパークリングワインの設備を利用して、醸造が可能だ。
農家にとっては、精魂込めて栽培したりんごを無駄にしなくて済む。一方、ワイナリーにとっては、味や品質面で信頼のある地元の原料を使用し、空いている施設が使えるというメリットがある。食品ロスが軽減されるため、地球にも優しい。
「今まではワイナリーがつくるシードルがほとんどだったが、最近ではシードル専門の醸造所やりんご農家が委託醸造し、オリジナルラベルでリリースしているものなども増えてきた。また、原料となるりんごの種類も増えており、味わいのバリエーションが広がっているのも、ナガノシードルの魅力だ」と、成澤さんは語る。
また、坂城葡萄酒醸造でシードルづくりを手掛けている経験から、アルコール度数が低くて発泡性のため、ワインとは異なる軽く飲めるお酒づくりができること、ゆずやアプリコットなどのフレーバーを付けたシードルもつくれるといったことに、面白さを感じているという。
「ナガノシードル」がつくられる4つの地域
長野県では、ワイン用ぶどうが育つ土地をそれぞれの地域の特色に合わせて、「千曲川ワインバレー」「日本アルプスワインバレー」「桔梗ヶ原ワインバレー」「天竜川ワインバレー」の4つに分類している。
ナガノシードルも、特色ごとに4つの地域に分類されている。
北信
飯綱町や高山村など、千曲川ワインバレーの北側に位置する地域。ワイナリーが手掛けるシードルのほか、農家が委託醸造して手掛けるシードルも多い。2019年には、3軒の農家によるサイダリー「林檎学校醸造所」が飯綱町で開業した。
東信
千曲川ワインバレーの東地域。このエリアにある多くのワイナリーで、シードルも醸造している。2019年には、シードルをメインに手掛ける「たてしなップルワイナリー」が誕生。
中信
安曇野や松本平など、りんごの名産地として知られる地域。品種やタイプのバラエティも豊富だ。日本アルプスワインバレーに位置するワイナリーが手掛けるシードルが多い。
南信
下伊那郡松川町の「信州まし野ワイン」がある、天竜川ワインバレーを含むエリア。松川町はシードルを販売する農家をまとめた『シードルガイドブック2018』を独自で作成しており、シードルの生産や販売に力を入れている。