コラム

生産者の目線で語られた、気候変動がブルゴーニュに与える影響と対策とは ~BIVBミニ記者会見②

ブルゴーニュワイン委員会(BIVB)は2022年7月13日、ブルゴーニュワイン試飲会の開催にあたり、BIVB広報委員会会長ミシェル・バロー氏による「未来を見据えて 動き出すブルゴーニュ」と題するミニ記者会見を開催した。

今回はその内容から、これからの栽培技術や環境問題、社会の変化に適応したワインづくりについて紹介する。登壇者のBIVB広報委員会会長ミシェル・バロー氏は、ブルゴーニュの土地に深く根付いたワイン生産者でもある。その目線から語られた、興味深い内容だった。

ブルゴーニュワイン委員会・広報委員会会長のミシェル・バロー氏(左)

気候変動の影響とは

それでは、気候変動によるぶどうへの影響について見ていこう。

ぶどうの樹のサイクルの変化

1987年以降、ブルゴーニュの平均気温は、それ以前よりも1℃上昇している。そのため、ぶどうの樹のサイクルに変化が見られる。ぶどうの樹のサイクルは、発芽、開花、果房の形成、色付き、収穫と進んでいくが、それぞれ1~2週間ほど早まっている。

「この10年間で、収穫が8月に始まった年が6回あった。これは、祖父母や親の代では考えられないことだ」と、バロー氏は語っている。

気候変動のメリット

気候変動は、ワインづくりにメリットをもたらすこともあるという。例えば、ぶどうの成熟が早まると、クオリティが高くなりやすいため、好条件とも言える。

また、収穫期には温暖化による干ばつで乾燥し、湿度が低いため、ベト病やうどん粉病といったぶどうの病気が広がりにくくなる。

気候変動のデメリット

もちろん、気候変動がもたらすのはメリットだけではない。発芽が早くなるため、遅霜の被害を受けやすくなる。また、フランスの南部に限定されていた虫を介する病気が、温暖化により北上してきているという。

ブルゴーニュの課題と解決のための3つの鍵

ブルゴーニュが現在、抱えている課題は3つある。

・生産能力を維持する
・気候変動に対応する
・環境への負荷を減らし、社会的な要請に応える

生産量は50年間安定しており、長期的に収穫量は140万hlを保っていた。しかし、2021年度は春先の遅霜と夏にかけてさまざまな病気の影響があったため、100万hlを若干下回り、過去30年で最も生産量が低い結果となった。

近年、顕著になっている春の遅霜は、気候変動により起こるようになった現象の1つだ。こうした状況を考慮して環境への負荷を減らし、ブルゴーニュの独自性をうまく表現しながら、社会の要請に応えていくことが重要だと考えていると、バロー氏から説明があった。

これらの課題について、ブルゴーニュでは「植物原料」「ヴィンヤードでの作業の最適化」「全体での取り組み」の3つの鍵で、解決を目指している。

植物原料

ここで示す植物原料とは、「台木」と「品種」の2つだ。

●台木

台木とは、根の部分となるぶどうの樹だ。台木に異なる品種のぶどうの樹を接ぎ木しても、味に影響は与えない。

台木の活用は、害虫フィロキセラが猛威をふるった際、フィロキセラに強い北米系のぶどうの樹(ヴィティス・ベルランディエリなど)に、ヨーロッパ系のぶどうの樹(ヴィティス・ヴィニフェラ)を接ぎ木して対策したことに始まる。土壌や気候への対応に有効だと考えられている。

現在は5種類の台木が使われているが、ブルゴーニュでは、さらに種類を増やして気候変動や生産能力維持などの課題に対応できるように、地域内の3カ所の試験場で他の台木の実験をしている。

●品種

ブルゴーニュでは、基本的に赤ワインはピノ・ノワール、白ワインはシャルドネからつくられており、一部でアリゴテなどが使用されている。

こうした伝統的な品種を大事に保存しながら、早く成長するものなど、新しい品種の開拓も考えているという。決して遺伝子操作で新しい品種をつくるのではなく、品種同士を掛け合わせて、ブルゴーニュらしさを持ちつつ、病気に耐性があって農薬の使用をなるべく減らせるぶどう品種をつくるのが目的だ。

この取り組みは2017年からスタートしており、現在は約300種をテスト中だ。ブルゴーニュワインに近い品種を、官能的な特徴の審査も含めて選別している。

新しい品種が出来上がったからと言って古いものと置き換えるつもりではなく、あくまでも補っていく形で、現在の課題に対応していこうとしている。

ヴィンヤードでの作業の最適化

ヴィンヤードでの作業の最適化として取り組んでいることの1つが、1ha当たりのぶどうの樹の本数を減らすことだ。現在、7000本~1万本が植えられているところを、5000本に減らすことで、太陽光による葉の日焼けや干ばつに対応できると考えている。

また、剪定のとき、樹の高さを低く抑えたり、葉をうまく摘んだりすることで、全ての葉に日光が当たるようにできる。あえてヴィンヤードの地面に雑草を生やすカバークロップでも、環境への負荷を減らすことができる。

生産者は互いにコミュニケーションを取り、ノウハウを交換しながら、いくつかの取り組みを進めているところだという。

現在、ブルゴーニュのヴィンヤードの16%が、オーガニック認証を取得済み、または取得中だ。また、ヴィンヤードを無農薬で管理するのは難しいため、リュットレゾネ(減農薬栽培)への転換を進めている。

転換には、人手の確保や機械の投入など十分な準備が必要だ。ヴィンヤードのタイミングを見ながら、適度にリズムを持って転換を進めているという。

バロー氏は、「転換は、難しいというよりもやりがいのある面白い作業だ。ヴィンヤードが生き生きとしてきて、プラスになっていると実感できる。息子の世代、若い世代の方がこうした問題に敏感なので、さらに転換は進んでいくと思う」と語っている。

ブルゴーニュ全体で取り組む

ブルゴーニュでは現在、ヴィンヤードでの作業や醸造、輸送面まで含めて38万5000トンの二酸化炭素を排出しているが、2050年までに脱炭素の実現を目指している。

ここから減らしていく手段の1つが、ボトルのガラスを軽くすること。これによって、輸送時にかかる二酸化炭素を減らすことができる。また、生きた植物で垣根をつくる、木を植えていくという取り組みを行っている。ヴィンヤードの近くに森をつくり、ヴィンヤードとどのような相乗効果を生むのかについての研究が行われているそうだ。

他にも、リサイクルガラスを使用する、ラベルを小さくして使う紙を減らす、ナチュラルなインクを使用する、コルクをフランス製のものにして輸入品は使わない、リサイクルできないキャップシールなどは使わない……などの取り組みが考えられているところだ。こちらも各生産者や企業のペースに合わせた転換が進められている。

また、環境に関するさまざまな認証制度が創設されており、フランス国内やヨーロッパでの規制が厳しくなっている中で、環境問題に積極的に取り組んでいることが強調された。

生産者として

バロー氏は、ブルゴーニュ南部にあるマコネ地区出身のワイン生産者だ。バロー家は長い歴史を持つワイン生産者の家系で、バロー氏自身も1989年から両親と共にワインづくりをスタートさせている。

彼は今回の会見の中で、「マコンの栽培家として話をさせてもらった。義務としてではなく、栽培家として積極的に取り組んでいる」と語った。

バロー氏が、彼の考えを示すのに引用したのが、サン=テグジュペリの『星の王子さま』に出てくる、「地球は先祖から受け継いでいるのではない、子どもたちから借りたものだ」という言葉だ。「私が先祖から預かった土地を、今度は息子たちにつないでいく」と説明した。

今回の記者会見は、ビジネスマンではない、生産者としてのバロー氏の言葉が聞けたことで非常に印象深い内容となった。

【BIVBミニ記者会見】
①BIVB広報委員会会長ミシェル・バロー氏が語る、日本とブルゴーニュの今とこれから

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ