コラム

ピエロ|始まりは“人助け”、元医師がつくる最高峰のシャルドネ ~解説:オーストラリアのワイナリー

ワイン産地としての歴史は浅いものの、今や世界各地で人気の高いワインを生み出す、オーストラリア。数多くあるつくり手の中から今回は、元医師という異色の経歴を持つ醸造家が設立したプレミアムワイナリー、ピエロ(Pierro)を紹介する。

ピエロとは

ピエロは、西オーストラリア州のマーガレット・リバーで、ソーヴィニヨン・ブランとセミヨンのブレンドワインを初めて産したワイナリーだ。また、オーストラリア最高峰のシャルドネを産するワイナリーとして高く評価されている。

ピエロの歴史

ピエロの設立は1979年。創設者は、元医師という異色の経歴を持つマイケル・ペターキン氏。彼がワインに魅了されたのは、西オーストラリア大学医学部の学生だった頃のことだ。きっかけは、西オーストラリア州スワン・バレーに位置するホートン・ワイナリーで、“西オーストラリア産ワインのパイオニア”と評される醸造家のジャック・マン氏に出会ったことだ。彼の話を聞き、そのワインを飲んだことで、ワインに魅了されたのだという。

ペターキン氏は1973年に大学を卒業し、3年間病院に勤務した後、ワインの世界へ飛び込んだ。1976年に彼は、アデレードにあるローズワーシー大学に入学。再び大学生となり、2年間ぶどう栽培やワイン醸造について学んだ。卒業後、西オーストラリアにピエロを設立した。

しかし、設立直後からワインをつくっていたわけではない。自身のワイナリーがファーストヴィンテージワインを産するまでの3年間、カレン・ワインズやアルクーミーなどのワイナリーで、醸造を担当していた。

“人助け”から生まれた、至高のシャルドネ

ピエロが産するシャルドネは、“オーストラリア最高峰のシャルドネ”と称される。その発祥はとてもユニークで、始まりは“人助け”だった。

ワイナリー設立当初、ペターキン氏は、リースリングを主力のぶどうにするつもりだった。しかし、取引のあるぶどうの樹の販売者が、シャルドネの樹を大量発注してしまったのだ。ペターキン氏はその樹を引き取り、シャルドネをつくり始めた。そして、1983年にシャルドネのファーストヴィンテージをリリースしたのである。

当初は、標準的なオーストラリアのワインづくりに沿って醸造していたが、試行錯誤を重ね、1986年ヴィンテージではピエロ独自のスタイルを確立。1998年に開催された世界トップレベルのシャルドネを集めたテイスティングで、消費者選出部門で1位を、業界部門との総合で2位を獲得した。

ワインづくりに対する姿勢

ピエロは、ヨーロッパの伝統的な手法と、オーストラリアなどのニューワールドで開発された新しい手法の良い所をうまく取り入れながら、高品質のぶどうを育て、質の高いワインを生産している。

ピエロのぶどう畑は、酸化鉄や酸化アルミニウムに富んだ赤褐色のラテライト土壌で、穏やかな斜面に広がっている。畑には海からの涼しい風が吹くため、涼しさが保たれ、気温が高くなり過ぎることがない。ピエロはその畑で、ヨーロッパ伝統の密植を行っている。

密植とは、文字通り樹の間隔を開けずに植えること。オーストラリアでは通常、1haあたり約1900本のぶどうの樹が植えられている。しかしピエロでは、1haあたり約4000~5500本のぶどうの樹を植えているのである。

さらに、土壌の改良や通気性の向上にミミズを使用。これも、ヨーロッパの伝統的な手法だ。その一方で、午後の強い西日がぶどうの房に直接当たらないよう、ぶどうの樹を南北方向に植え、西向きの葉を多く残す、オーストラリアで開発された手法も用いている。

ワインについては、ピエロがセミヨンの新たなスタイルを確立した点も見逃せない。従来のオーストラリア産セミヨンは、樽熟成させるボルドーの伝統的な製法でつくられ、力強く重い味わいに仕上がっていた。しかし、彼はセミヨンとソーヴィニヨン・ブランを一緒にステンレスタンクで仕込み、果実の香りと味わいを感じる爽やかなスタイルを確立。現在マーガレット・リバーでは、ピエロが確立させたスタイルが主流となっている。

サステナブルなワインづくり

さらに、サステナブルなワインづくりにも取り組んでいる。

例えば、ぶどう畑の雑草対策として、除草剤を使用するのではなく、冬場に羊を放牧している。羊を放牧することで、畑の堆肥として利用できるクローバーや牧草の成長も促進できるのである。

また、ぶどうの収穫や選別をできる限り人の手で行ったり、発酵には主に野生酵母を使用したりしている。また、ワインの生産に関わるCO2排出量のおよそ半分を占める、瓶の製造にも目を向けている。2012年からは軽量の瓶を使用し、瓶の生産やワイン配送時のCO2排出量を大幅に削減した。

おすすめワイン4選

マーガレット・リバーにおいて、セミヨンとソーヴィニヨン・ブランのブレンドの先駆者であるピエロ。そのワインは、フレッシュで爽やかなスタイルだ。

ピエロ・セミヨン・ソーヴィニヨン・ブラン L.T.C

ソーヴィニヨン・ブランをメインに、セミヨンとシャルドネがブレンドされている。一部を樽発酵・樽熟成させて、程よい重量感も出している。フレッシュなレモンの皮とトロピカルフルーツの味わいを持ち、最後まで滑らかな酸を楽しめる。

ぶどう品種:セミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ
味わい:白・中~辛口
参考小売価格:4000円(税別)

ピエロ・シャルドネ

ピエロのフラッグシップワイン。自社の単一畑のぶどうを手摘みして全房圧搾し、全てフレンチオーク樽で醸造している。熟したモモの凝縮した味わいと、長く続く酸を持つエレガントなワイン。

ぶどう品種:シャルドネ
味わい:白・辛口
参考価格:8200円(税別)

ピエロ・カベルネ・ソーヴィニヨン・メルロ L.T.Cf.

カベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、メルロー、カベルネ・フランなど数種類をブレンド。フレンチオーク樽で12カ月熟成させている。L.T.Cf(Little touch of Cabernet Franc)とあるように、ダークフルーツの果実味にカベルネ・フランの青いニュアンスが加わり、涼やかな味わい。オーク樽の風味にきめ細かいタンニンが溶け込み、しっかりとしたストラクチャーを感じられる。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、マルベック
味わい:赤・ミディアムボディ
参考小売価格:4000円(税別)

ピエロ・ファイアー・ガリー・ソーヴィニヨン・ブラン・セミヨン

ライチや白桃の熟した味とハーブの香りを持つ。余韻に酸を感じ、フレッシュで爽やかなバランスの良いワイン。「ファイアー・ガリー」という名前は、創設者のペターキン氏が、山火事で燃えてしまった牧草地を買い取り、ぶどう畑にしたという由来にちなんでつけられた。

ぶどう品種:ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン
味わい:白・辛口
参考小売価格:3000円(税別)

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