南アフリカの国内外で高い評価を受けるワイナリー、マリヌー(Mullineux)。2023年11月28日、創業者の1人であるクリス・マリヌー氏が来日し、輸入元のモトックス(Mottox)主催でテイスティングセミナーを開催した。
セミナーは、マリヌーのワインづくり、そしてスワートランドへの情熱があふれる内容の濃い1時間半となった。今回はその中から、マリヌー夫妻がワインづくりの地として選んだスワートランドについて紹介する。
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スワートランドとは
セミナーに当たって、「私たちが恋焦がれた土地、スワートランドについて説明したい」と語ったクリス氏。
南アフリカのワイン産地は、同国の最も南西部にある西ケープ州の州都ケープタウンから車で2時間ほど離れたところに密集している。西ケープ州は大西洋とインド洋に接しており、大西洋側は海風が冷たく、北上するとどんどん乾燥していく。インド洋側は暖かく、近くにあるステレンボッシュなどは降雨量が比較的多い。
マリヌーのあるスワートランドは、大西洋側の乾燥した土地だ。日中は非常に暖かいが、夕方は海風が気温を下げてくれる。乾燥している上に、開けているため風が入りやすい。カビや害虫の心配が低く、さらに日照量が多いことから、自然農法(ナチュラルファーミング)に向いている土地だ。
スワートランドの土壌
スワートランドには、特徴的な土壌がある。マリヌーのワインづくりに関わってくるのは、次の3つの土壌だ。
●花崗岩
風化した花崗岩の土壌。砂質上の白い土があり、5m下には保水力のある粘土質がある。ぶどうの樹は、水を得るために深く根を張る必要がある過酷な環境だ。フレッシュな果実味、高い酸のぶどうができる。
●シスト土壌
花崗岩とは正反対で、岩だらけの土壌。その下にシスト状の土壌があり、根が深く張れず、樹が大きく成長しない。そのため収穫量は少なく、房も粒も小さく、果皮が厚くなる。凝縮度とタンニン成分が高いぶどうができる。
●鉄土壌
酸化した赤茶色の土壌で、質感は粘土質。保水力があり、フランス・ボルドー地方のポムロールのワインのように、ベルベッティな要素があるワインができる。
マリヌーでは、それぞれの畑(土壌)ごとに別々に醸造している。
スワートランドに適した品種
スワートランドでは、20年前は同じような品種を植えて、同じスタイルのワインがつくられていたそうだ。現在は、どの気候帯、どの土壌に品種が合っているのかが分かってきて、多くの生産者がそれを理解した上でぶどう栽培をしているという。
マリヌーが考えるスワートランドに適した品種とは、シラーやカリニャン、サンソー、クレレット・ブランシュ、ヴィオニエなどの地中海性気候のぶどうとのこと。
今回のセミナーでは、次の3つの品種について解説された。
シュナン・ブラン
「南アフリカのシュナン・ブランは、長い年月をかけて、独自の変異を遂げてきた。世界的にも類を見ないようなワインが生まれる」と説明。シュナン・ブランで有名なフランスのロワール地方は、石灰岩土壌だ。南アフリカには花崗岩や岩のある土壌があり、ここでしか出せないシュナン・ブランが生まれる。
南アフリカのシュナン・ブランには、かんきつ系の果実味、グリーンのような青みのある果実味、火打石感があるという。
また、醸造の仕方もロワール地方とは異なり、発酵後の糖分が1g程度になるまでドライに仕上げている。特徴のあるシュナン・ブランをつくることができるのが、スワートランドだと考えているそうだ。しかし収穫が遅れると、青い果実からネクタリンのようなストーンフルーツ感が出てしまうため、南アフリカの特性を出すために時期を見極めているとのこと。
セミヨン・グリ
マリヌーの畑にあるのが、樹齢60年のセミヨン・グリだ。世界でも珍しい品種だが、フィロキセラ前の南アフリカで最も栽培されていたセミヨンが、独自の進化を遂げて一部がグリ化したもの。南アフリカの象徴的品種だという。
ティンタ・バロッカ
ポルトガルのポートの原料として知られているティンタ・バロッカ。南アフリカでも長く栽培されており、甘口のワインがつくられていた。マリヌーの畑にも古樹が残っているとのこと。野生の果実を感じさせ、ワインにラベンダーやローズマリーの要素を加え、強いタンニンでワインにストラクチャーを与えてくれている品種だという。
次回は、マリヌーの目指す「センス・オブ・プレイス(sense of place)」が形になった6本のワインを紹介する。
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