コラム

南アフリカのトップワイナリーとして知られるマリヌー、生産者が語るそのワインづくりとは ~「マリヌー生産者来日セミナー」レポート①

南アフリカの国内外で高い評価を受けるワイナリー、マリヌー(Mullineux)。2023年11月28日、創業者の1人であるクリス・マリヌー氏が来日し、輸入元のモトックス(Mottox)主催でテイスティングセミナーを開催した。

オーナー醸造家のクリス・マリヌー氏

セミナーは、マリヌーのワインづくり、そしてスワートランドへの情熱があふれるもので、内容の濃い1時間半となった。今回はその中から、マリヌーの成り立ちやワインづくりの哲学について紹介する。

マリヌーの成り立ち

マリヌーは、クリスとアンドレアのマリヌー夫妻が西ケープ州のスワートランド地方に設立したワイナリーだ。南アフリカ出身のクリス氏とアメリカ・カリフォルニア州のサンフランシスコ出身で、ナパ・バレーで醸造を学んだアンドレア氏が南フランスで出会ったのは2004年のこと。スワートランドでワインをつくろうと話し合った2人は、次第に愛し合うようになったという。現在は、アンドレア氏が畑と醸造施設を管理・監督し、クリス氏がビジネスの管理・監督を担当している。

2007年設立という比較的新しいワイナリーだが、国内外で高い評価を受け、南アフリカのトップワイナリーと呼ばれるようになるまでには、それほど時間はかからなかった。

世界から高く評価されるワイナリーに

クリス氏はマリヌーの評価について、「ディティールにこだわりながら、つくりたいワインに焦点を当ててコツコツやることで、南アフリカの最優秀ワイナリーとしてトップ3に挙げられるようなワイナリーになった」と説明している。

南アフリカのワイン評価誌「プラッターズ・ワインガイド(Platter’s Wine Guide)」では、2014年、2016年、2019年、2020年、2023年にプラッターズ・ワイナリー・オブ・ザ・イヤーを獲得。設立から最速で同賞を受賞したワイナリーであり、史上初の5回獲得という記録を打ち立てている。

国外に目を向けると、アメリカのワイン専門誌「ワイン・エンスージアスト(Wine Enthusiast)」では、2016年のインターナショナル・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤーにアンドレア氏が選出。2017年にはマリヌー夫妻として、ティム・アトキンMW(マスター・オブ・ワイン)より南アフリカ・ワインメーカーズ・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。また、アトキンMWは、南アフリカのワイナリーの格付けでマリヌーを1級に格付けしている。

ワイン専門誌「ワイン・アンド・スピリッツ(Wine & Spirits)」では、毎年発表しているTOP100ワイナリーに2019年、2021年、2022年、2023年の4回選ばれている。

また、ジェラール・バッセMWが設立した財団による「ゴールデン・ヴァインズ・アワーズ(Golden Vines Awards)」では、2021年から3年連続で「その他の国」のベストワイナリーTOP10に選出。また、2023年の「グローバル・ライジング・スター」部門で第3位となっている。これらの賞は、MWやマスターソムリエなどのワインのスペシャリスト1000人にアンケート調査をして選出しているもの。バッセMWが2019年に亡くなってからも受け継がれている権威ある賞だ。

マリヌーのワインづくり

設立から短期間で、高い評価を受けているマリヌー。まずは栽培面でどんな取り組みを行っているのか、セミナーで解説された内容をみていこう。

ナチュラルファーミング

マリヌーのあるスワートランドは、開けているため、風が入ってくる土地だ。加えて乾燥しているため、カビや害虫の影響を受けにくく、カビ対策の化学薬品や殺虫剤を使う必要がない。さらに日照量が多いことから、自然農法(ナチュラルファーミング)に向いているという。さらに、近隣の山に自生しているフィンボス(南アフリカの低木)を畑に植えることで、そこをすみかとする害虫を食べてくれるテントウムシやスズメバチを呼び寄せているそうだ。

カバークロップ

マリヌーの畑には、ぶどう畑の畝の間にカバークロップが広がっている。1つ1つの植物には役割があり、小麦やオーツは土に炭素を補給し、土地をスポンジ状にして保水力のある土壌にしてくれる。また、土に必要な窒素を与えてくれるのがマメ科の植物だ。さらに、長く太く育つ大根は、土の中に空気を入れてくれるとのこと。

カバークロップは冬に植え、春の終わりにはローラーをかけてカーペット状にする。土の上をカバークロップのカーペットで覆うことで、土壌は保湿され、冷やされるのだという。マリヌーが非常に重要視しているテクニックの1つだ。

古樹

乾燥しているため、カビ菌などの脅威もなく、ぶどうの樹が健康に育ちやすいスワートランドでは、35年以上の古樹も多い。

乾燥した環境を生き延びるため、ぶどうの樹は古くなると根が深くまで張るようになり、次第に生命力が強くなる。乾燥した年でも長い根が自分で水脈を探すため、非常に乾燥した2016年と2017年でも、灌漑(かんがい)なしで他の年と遜色ないほどの酸を保った質の高いぶどうを収穫できた。

古樹の生命力により、安定して同じクオリティのワインを、毎年つくることができている。

ブッシュバイン

ブッシュバイン(ゴブレ仕立て)は、針金で枝を誘引せず、そのままの自然な状態で栽培する方法だ。南アフリカでは伝統的な方法となり、樹の高さが低いため風からぶどうを守ることができる。また、傘のような形になるため、直射日光から果実を守ってくれる。日照がそのまま当たると、果実味が強くてジャムっぽくなり、シンプルなワインになってしまうが、影の中で守られることで、フローラルで果実感のある複雑さを生むことができるとのこと。

キーワードは「センス・オブ・プレイス」

マリヌーが目指すのは、「センス・オブ・プレイス(sense of place)」。その土地の特性が現れたピュアなワインだ。

クリス氏は「私たちが考える私たちのスワートランドワインは、白は濃厚なテクスチャーと、古樹や太陽からくるクリーミーなテクスチャーがあり、そこにバランス感やフィネスがあり、酸がなくてはいけない。暖かい産地の特性とピュアさ、エネルギッシュさがバランスよくまとまっているのが私たちのワイン。暑い産地のワインを超えて、洗練された繊細さ、ピュアなフレッシュ感を表現している」と解説していた。

また、モダン(=現代的)ミニマリズム(=人的介入の少ないワインづくり)を意識しており、現代的な醸造を理解した上で、人的介入の少ないワインづくりをしている。「私も妻も、大学で醸造学を学び、科学を理解した上で、人的介入の少ないワインづくりをしている。モダンだけでも、自然に任せすぎてもよくない」とクリスさんは語る。天然酵母を用い、フィルターや清澄剤も使わない。できるだけナチュラルなアプローチをして、純粋な果実味が出るようなワインをつくっているとのこと。

マリヌーが目指す、「その土地の特性が出るワイン」。その土地=スワートランドとは、どのような特性のある場所なのだろうか。次回の記事で紹介する。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ