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ワインの特徴を調べていると、「自然派」「オーガニック」「ビオ」などの用語を目にすることがある。
なんとなく「農薬を減らして/使わずに育てたぶどうからつくったワイン」「醸造するときに余計な化学物質を入れていないワイン」くらいのイメージは伝わると思う。けれどワインの場合、「ビオディナミ農法」や「リュット・レゾネ」など、“オーガニックであること”を示すためにさまざまな用語が使われている。しかも定義が定まっていない用語もあれば、明確な定義がある用語もある。ワインに相当詳しくなるまでに、混乱してしまうこともあるだろう。
そこでワインバザール編集部では、“自然派”や“オーガニック”といった文脈で使われるワイン関連の用語の定義・違いをまとめてみた。「この言葉、どんな意味だったっけ?」と知りたくなったとき、参考にしてもらえれば幸いだ。
“自然派”“オーガニック”な農法の種類
まずはぶどう栽培に関する用語のところからチェックしていこう。
[農法]リュット・レゾネ(lutte raisonnee:減農薬栽培)
リュット・レゾネとは直訳すると「合理的な対策」といったような意味があり、「減農薬栽培」を意味するフランス語だ。ぶどうの栽培において、化学肥料や農薬、除草剤などを極力使用しない農法を指す。農薬などの使用は、病害虫などによる被害が発生したときなどに限られている。
なお英語で「サステナブル農法」と言った場合、リュット・レゾネとほぼ同義で使われることが多い。
完全に農薬を使わないオーガニック農法とは違い、あくまで“極力”化学物質を使用しないで生産する。
同タイプの用語として、「リュット・アンテグレ(lutte integree)」がある。こちらも化学肥料などを極力使わない農法だ。害虫駆除に当たって農薬ではなく天敵となる虫を用いるなど、リュット・レゾネとは細部が異なる。
[農法]オーガニック農法/ビオロジック農法
リュット・レゾネやリュット・アンテグレとは異なり、農薬や除草剤、化学肥料や添加物などを“一切使わずに”ぶどうを栽培する農法のことを指す。いわゆる「有機農法」。おおむね同じ意味で用いられる用語として「ビオロジック農法」がある。
オーガニック農法で栽培されたぶどうを使ったワインのことを「オーガニックワイン」と呼ぶこともある。
醸造方法までオーガニックにこだわった「オーガニックワイン」も多いが、中には醸造方法については完全にオーガニックとは限らない「オーガニックワイン」もあり得るので要注意だ。
[農法]ビオディナミ農法(biodynamie)
オーガニック農法に加えて、占星術などによる暦や、牛のフンや水晶の粉といった材料を利用して土壌を活性化させるなど、単なる農法にとどまらない要素も含まれるのがビオディナミ農法だ。
もともとの概念はフランス発ではなく、オーストリアの人智学/教育理論の研究者、ルドルフ・シュタイナー博士により提唱された。シュタイナー博士は従来の西洋近代科学に基づいた農法を批判し、太陽や金星などの天体との位置関係による暦の重要性や、それに基づいた種まきや収穫、手作業を重要視した農作業を提案・体系化した。
博士の死後、その農法は既存の西洋的な農法と区別するために「バイオ・ダイナミック(Bio-Dynamic)農法」と名付けられた。このバイオ・ダイナミック農法のフランス語読みが「ビオディナミ」だ。
ビオディナミの特徴の1つが「プレパラシオン」と呼ばれる肥料(調合剤)の使用方法だ。牛のフンや水晶の粉、花、樹皮など、さまざまな材料を独自の方法で加工し、土地に散布することで土壌を活性化させる。
なお、プレパラシオンの番号は500番から始まっている。これは、499種類からなるホメオパシー(民間療法の一種)に続くものとして考えられたからだという。
プレパラシオンには農園用(500~501)、堆肥用(502~507)などの区別があり、用いられる材料は次のようになっている。
番号 | 原材料 | 加工方法 | 散布時期/使用法 | 土壌にもたらされる効果 |
500 | 牛のフン | 雌牛の角に詰める | 冬期、土に6カ月埋めて、雨水で希釈・撹拌してから散布 | 微生物、虫の繁殖を助ける |
501 | 水晶の粉 | 雌牛の角に詰める | 5~11月、土に埋めた後、春~夏に散布 | 光合成を促進し、 植物の代謝を高める |
502 | ノコギリソウの花 | 牡鹿の膀胱に詰める | 10月に土に埋め、4月上旬に堀り出す。煎じた上で肥料に混ぜる | 硫黄の量を調整する |
503 | カモミールの花 | 牛の小腸に詰める | 秋に詰め、冬の間は土に埋め、春になったら散布する | 石灰分の供給、窒素量を調整する |
504 | イラクサの葉と茎を腐葉土にしたもの | 乾燥させて煎じる | 肥料に混ぜて散布 | 窒素・鉄分の供給 |
505 | オークの樹皮 | 細かく砕き、家畜の頭蓋骨に詰める | 一晩寝かせる。乾燥後、煎じた後に肥料に混ぜて散布 | 石灰分(カルシウム)の供給 |
506 | タンポポ(花弁) | 牛の腹膜につめる | 一冬寝かせ、乾燥させて粉末状にした後に散布する | ケイ酸の供給 |
507 | カノコソウの花 | 絞り汁を発酵させる | 粉末状にし、煎じた後に散布する | リンの供給 |
508 | スギナ | 乾燥させ、煮出し汁を用いる | ― | 病害予防 |
なお、これらの調合・散布方法については、加工過程や効果に対して科学的な見地から疑問を抱く声もある。
ヴァン・ナチュール(Vin naturel:自然派ワイン)
自然に敬意を払い、自然の力を引き出したワインをつくろうと、フランスを中心に増えてきているのが「ヴァン・ナチュール(自然派ワイン)」だ。英語で言うと「natural wine」、フランス語では「vin naturel」となる。
特定の条件を満たさないと名乗れない「シャンパーニュ」のようなワインとは違い、「自然派ワイン」と名乗るための条件は明確に定められていない。
日本では「ビオワイン」という呼び方が似たような用法で使われることもある。ただし「ビオワイン」は、「ヴァン・ナチュール」とイコールとは限らない。前述の「ビオロジック農法」「ビオディナミ農法」のいずれか、もしくは「ビオディナミ農法」でつくられたワインを指す言葉として「ビオワイン」が使われることもある。
自然派ワインの意味をWikipedia英語版で調べてみると、「ぶどうの栽培や収穫したぶどうを使ったワインの醸造に当たり、化学薬品を使わず、科学技術の介入を最小限に抑えたワイン」と説明されている。おおむねこうしたコンセプトでつくられたワインのことを「自然派ワイン」と呼ぶきらいもある。
必須条件とは言えないものの「自然派ワイン」と名乗るワインには、次の条件を満たしているものが多い。
【ぶどうの栽培方法】
・有機栽培である(ただし、自然界にあらかじめ存在している物質は利用できる。例えば、硫酸銅と消石灰は自然界に存在しているため、殺菌剤としてボルドー液の利用は可能)
・ぶどうを手摘みで収穫する
【ワインの醸造方法】
・自然酵母により醸造する
・醸造時に二酸化硫黄(亜硫酸)を使用しない。使用するとしても、ごく少量に抑える
・補糖・補酸しない など
「自然派」とは言うが、どこが「自然派」なのか。ぶどう栽培やワイン醸造のやり方までチェックしてから、購入を決めた方がいいだろう。
“自然派”“オーガニック”な認証の種類
「自然派ワイン」「ビオワイン」といった用語がフワッとしているのに対して、キッチリと明確な基準を満たしているワインには認証ラベルの使用が認められる。
オーガニック農法に関連する認証として、フランスやアメリカなどにそれぞれ認証機関が存在する。代表的な機関を取り上げていこう。
[認証]ユーロリーフ(EU)
EUの厳しい有機農業規定に則って生産されたオーガニック食品に表示される認証マーク。ラベルには認定機関のコード番号と原材料の栽培地も記載される。2012年以降、各国独自の有機認証マークに替わって使用されるようになった。
再生可能な資源を使用していること、認められた肥料および土壌改良資材を使っていること、遺伝子組み換えをしていないこと、動物福祉を順守することなどが主な要件。また、生産だけではなく加工や流通、保管まで、全て規定に適合している必要がある。
ワインの場合、この表示がなければオーガニックワインとしてEU域内で販売することはできない。認証を受けるには、原材料の95%以上が有機製法で生産されていることが必要だ。
2012年からEU内で有機農産物の生産や有機食品市場が大きく拡大したことから、2017 年11月に欧州議会によって改正案が承認された。より環境や気候保護、遺伝的多様性の保持などについての内容が盛り込まれた改正案は、2021年1月1日から適用される。
[認証]AB(フランス)
フランスでは1981年にAB認証(Agriculture Biologique:有機農法)という規定が定められた。
原材料の95%以上が農薬や化学肥料、添加物を一切用いずにつくられ、EU圏内で生産・加工されたことが条件。さらに少なくとも3年以上のオーガニック農法が実施された場合に認められる認証だ。
[認証]エコセール(フランス)
フランス農務省によって1991年に、オーガニック認定機関としてエコセール(ECOCERT)が設立された。
トゥールーズに本拠地が置かれ、世界85カ国以上で活動する世界最大の国際有機認定機関となっている。日本にも支部 が置かれている。
ワインについての製造ガイドラインでは、二酸化硫黄の含有率やラベル表示に加え、農薬や肥料、土壌検査など、細部に及ぶ厳しい検査項目が定められている。
[認証]USDA(アメリカ)
アメリカ農務省(USDA)による「USDA認証」というオーガニック認証マークも存在する。USDAの認証を受けたワインについては、ぶどう栽培とワイン醸造の両面において、化学肥料を用いないなどの細かい規定 をクリアしている。
[認証]Demeter(ドイツ)
ビオディナミ農法によってつくられたぶどうを使用していることを認証しているのが、1924年に設立されたドイツのDemeter(デメテール) だ。ビオディナミ農法によって育ったぶどうであると認証を受けたワインには、Demeterマークが付与される。
[認証]有機JAS(日本)
有機食品のJAS規格に則って生産された食品に表示されるマーク。日本国内で「有機」「オーガニック」「自然派」などの名称を表示するには、この「有機JASマーク」が必要だ。登録認証機関の検査を受けて、認証された事業者のみが有機JASマークを貼ることができる。認定後も、最低でも1年に1回の調査を受けることになっている。
天然物質か化学的処理をしていない天然物質由来のものを肥料や農薬として使用していること、禁止されている化学合成農薬・肥料などに汚染されるリスクがないこと、遺伝子組み換えの種を使用していないことなどが主な要件。
日本国内で生産されたワインや輸入ワインについても、日本国内でオーガニックワインとして販売するには有機JASマークが必要だ。ただし、輸入ワインについては、外国語で「Organic」や「Bio」などと表示されていても日本語で表示されていなければ問題がないため、有機JASマークのない外国産のオーガニックワインを見ることも少なくはない。
2010年5月に、EUの有機管理制度と同等の管理制度をもっていると認められた。有機JASマークのある食品は、特定の条件を満たし、さらに特定の手続きを踏めば、EU域内でオーガニック食品として販売できる。
「自然派」「オーガニック」なワインの名称について取り上げてきたが、いかがだっただろうか?
これまで見てきたように、「自然派」「オーガニック」なワインには細かい規定が存在せず、フワッとした意味で用語が使われているケースもあり得るので注意が必要だ。
キッチリとした「自然派」「オーガニック」なワインを求めるのなら、認証を受けたワインを選べばいいのだろうが、認証を受けたワインはあくまで「製造過程において農薬や化学物質などを使用していない」ことが保証されているだけだ。
中には、マーケティングの側面からオーガニック認証を取得したワインもあり、「自然派」「オーガニック」なワイン=おいしいワインとも言い切れない。
おいしいワインを追求するために、あえて認証を取得していないワインもある。購入の際はそうした事柄も頭に入れておく必要があるだろう。