コラム

旬のカリフォルニアワイン6本と「フードペアリングの方程式」「ブリッジ食材」を味わう ~CWIメガセミナー

   

ワインと食事の相性の良さを味わうのも、ワインの楽しみの1つだ。J.S.Aワインエキスパートの有資格者を対象に、カリフォルニアワイン協会(CWI)が2019年11月17日に開催したセミナーでは、誰でも簡単にフードペアリングを極められる方程式について紹介。前回の記事で、その詳細を紹介した。

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今回は、同セミナーでお披露目されたフードペアリングの例を、おすすめのカリフォルニアワインとその旬とともに紹介していきたい。

カリフォルニアの旬が楽しめる6本のワインとフードペアリング

今回のセミナーでワインの解説をしてくれたのは、東京・日本橋の「マンダリン オリエンタル 東京」のシェフソムリエで、日本ソムリエ協会理事を務める野坂昭彦氏だ。実はカリフォルニアは、ソムリエとして初めて訪れた海外のワイン産地であり、最も足を運んでいる産地でもあるという。

フードペアリングについては、フード&ワインスペシャリストの小枝絵麻氏が解説を担当した。

野坂昭彦氏(右)と小枝絵麻氏(左)

紹介されたフードペアリングメニュー

セミナーで登場したフードペアリングメニューは、以下の通り。

①アーモンドバターとマッシュルームのカナッペ(下段右から2つ目)
②フレッシュトマトのハニークリームチーズ(上段中央)
③ピンクグレープフルーツのチキン巻き(下段右)/スイートチリソース(上段右)
④イワシの和風ザーターグリル(下段左)
⑤エリンギメンチ(下段左から2番目)
⑥アラビアンスタイルステーキ(上段左)

ロデレール・エステート エルミタージュ・ブリュット

Roederer Estate L’Ermitage Brut
AVA:アンダーソン・ヴァレー
品種:シャルドネ52%、ピノ・ノワール48%
ヴィンテージ:2012
アルコール度数:12.9
標準小売価格:6500円(税別)
輸入元:エノテカ

フランスの有名なシャンパーニュハウス「ルイ・ロデレール」がカリフォルニアでつくったスパークリングのトップキュヴェ。年間生産本数は5万本で、すぐに売り切れてしまうワインだ。

一番絞りの果汁のみを使い、ルイ・ロデレールスタイルでつくられている。フレンチオークで約5年間熟成させた後、リザーブワインを加えて約5カ月間、瓶内熟成させている。

きめ細かい泡とリッチさ、濃縮感があり、優しくて豊かな味わいが楽しめる。中盤から上品な酸味、黄色系の果実味がして、フィニッシュのバランスが良い。余韻が長く、複雑性があるスパークリングワインだ。

●フードメニュー:①アーモンドバターとマッシュルームのカナッペ

胚芽のクラッカーの上にアーモンドバターを塗り、スライスした生のマッシュルーム、生のチーズを振りかけただけという、手軽につくれる1品。小枝氏は「方程式さえ合えば、簡単につくれる料理でも、高級なスパークリングワインに合わせることができる」と説明した。さらに塩をつけることで、ワインの持つ黄色味果実の味わいを引き立たせることができる。

ポイントは、アーモンドと塩の組み合わせ。さまざまな料理に取り入れることができ、香ばしさを持ったスパークリングワインにも合わせやすくなる。

方程式:(食材)生野菜1点+(調理法)生1点+(味付け)塩1点=3点
ブリッジ食材:アーモンド、全粒粉のクラッカー

●旬な産地:アンダーソン・ヴァレー

カリフォルニアで最も冷涼なぶどう栽培地の1つ。ピノ・ノワール、シャルドネのほか、リースリング、ゲヴュルツトラミナーといったアルザス品種の栽培に成功しており、高品質なスパークリングワインの産地として知られている。

ケラー・エステイト ラ・クルーズ・ヴィンヤード シャルドネ

Keller Estate La Cruz Vineyard Chardonnay
AVA:ソノマ・コースト
品種:シャルドネ100%
ヴィンテージ:2013
アルコール度数:14.1
標準小売価格:5700円(税別)
輸入元:布袋ワインズ

ブルゴーニュスタイルでつくられ、少し熟成をさせたシャルドネ。ワインのリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスに分解するマロラクティック発酵(MLF)が施されている。

アタックが豊かで中盤からまろやかな酸味が広がり、余韻も長め。全体的にまとまって、柔らかい印象のワインだ。

●フードメニュー:②フレッシュトマトのハニークリームチーズ

このメニューを開発する際、野坂氏の「トマトはシャルドネに合う」というアドバイスを参考にしたという。特に、ふくよかでリッチなシャルドネとトマトの相性が良いと感じたそうだ。

ポイントは、レモン汁の量。若いワインには多め、柔らかいものには控えめにするとよい。

方程式:(食材)主にクリームチーズ2点+(調理法)生と揚げ物1.5点+(味付け)ハーブと塩1点=4.5点
ブリッジ食材:蜂蜜、レモン汁

●旬な産地:ペタルマ・ギャップ

ペタルマ・ギャップは、2018年1月に新設されたAVAだ。カリフォルニア州にそびえる海岸山脈が途切れている場所のため、太平洋で発生する霧と冷たい海風が内陸側に流れ込み、冷たくて強い風が吹き続けるという特徴がある。強い風はぶどうの酸度を保つなど、ぶどうの生育にはいい条件だ。

また、ソノマでは、夜の18時ごろに海から霧が入り、夜中の0時から6時までは地域一体を霧が覆い尽くす。そして昼の12時までには、また霧が晴れる。霧に覆われると、夏でも12℃ほどにまで気温が下がる。夏は日中暑いが、夜や朝は寒くなり、寒暖差が生まれる。寒暖差のある地域では、ぶどうは酸を保ちながら糖度がゆっくりと上がるため、ぶどう栽培には好条件となる。

特に、高品質なピノ・ノワールやシャルドネの生産に適した環境だ。

クライン ムールヴェードル ロゼ エンシェント・ヴァインズ

Cline Mourvedre Rose “Ancient Vines”
AVA:コントラ・コスタ
品種:ムールヴェードル100%
ヴィンテージ:2018
アルコール度数:13.5
標準小売価格:2600円(税別)
輸入元:布袋ワインズ

世界的にも注目されているロゼワイン。樹齢100年のムールヴェードル種を使用している。ムールヴェードル種は、シラーのブレンドとして使われることが多い品種だ。引き締まったタンニンや深みのある色合いが特徴で、ブレンドした時にワインに骨格を与える。

発酵中にワインがピンク色になったところで果汁を取り出す「セニエ法」が、一般的なロゼワインのつくり方だが、このワインでは果汁を搾ってから、発酵前に皮を取り除いている。皮と種との漬け込み時間を短くすることで、サーモンピンクのきれいな色合いを出している。

ロゼとして理想的な色合いをしており、シンプルで親しみやすい香りがある。アタックは上品で柔らか。中盤から出てくる心地よい渋味がアクセントとなり、余韻の苦味が味わいに奥行きを与えている1本だ。酸がしっかりとしたボリューム感の中にまとまっており、バランスが取れている。

●フードメニュー:③ピンクグレープフルーツのチキン巻き/スイートチリソース

ブリッジ食材のピンクグレープフルーツを生春巻きに入れており、バランスを取るためにとり胸肉とナッツを組み合わせ、クリームチーズを加えて全体をまとめた。生春巻き単体で味わった後で、スイートチリと組み合わせてまた違う相性の良さを楽しめる料理だ。

方程式:(食材)とり胸肉とナッツ1.5点+(調理法)湯がく1点+(味付け)クリームチーズ2点=4.5点
ブリッジ食材:アーモンド、ピンクグレープフルーツ、スイートチリソース

ロゼワインと生春巻き+チリソースという意外な組み合わせについて、野坂氏は「ロゼは赤と白の両方の特徴があり、合わせる料理の幅が広がる。ボリューム感、アルコール度数が低いロゼワインにスイートチリは合わせにくいが、このワインにはよく合う。ハーブの香りもあるので、中に入っているパクチーにもぴったりだ」と付け加えている。

●旬な産地:コントラ・コスタ

ナパ・ヴァレーやソノマよりも古い歴史を持つワイン産地。サンフランシスコに近く、車で50分ほどの距離にある。砂質ローム土壌でフィロキセラの影響を受けなかった。古樹を大切にしてきた歴史があり、ジンファンデルやカリニャン、ムールヴェードルには100年以上の樹齢のものもある。

湾から出てくる雨雲を山脈がブロックするため雨が少なく、ぶどうの生育期間には水をあげず、休眠期にあげるドライファーミング(乾地農業)でぶどうを栽培している。乾燥していて雨が少ないため、根から吸い上げた水分が全体に行きやすいように木の背を低く仕立てる「ブッシュライン」という方法を採用している。霜の被害が少なく、風の影響も受けにくい。

ジンファンデルは、ローダイ産よりも酸味が強く、赤系の果実の香りが出てくるのが特徴。コントラ・コスタでは、ムールヴェードルはマタロとも呼ばれている。これはオーストラリアで使われている別名だ。

ディアバーグ サンタ・リタ・ヒルズ ピノ・ノワール

Dierberg Santa Rita Hills Pinot Noir
AVA:サンタ・リタ・ヒルズ
品種:ピノ・ノワール100%
ヴィンテージ:2016
アルコール度数:13.9
標準小売価格:7700円(税別)
輸入元:モトックス

「スターレーン・ヴィンヤード」という有名なワイナリーのオーナー夫妻による、サステナブルな農業方法でつくるワイン。カベルネ・ソーヴィニヨンでも成功したつくり手が、シャルドネとピノ・ノワールに着手した。

熟成した香りはまだ出ておらず、若々しい香りがある。きめ細やかなタンニンがあり、柔らかくて果実味が豊かなアタック、中盤からきれいな酸味が出て来て、余韻にエレガントさを残すワインだ。

●フードメニュー:④イワシの和風ザーターグリル

「ピノ・ノワールは青魚との相性が良いという野坂さんの提案を取り入れ、ソースにこだわった」というメニューだ。

移民の多いカリフォルニアの料理には、さまざまな国の素材、アイデアが取り入れられている。このメニューで使ったソースには、中東のスパイスであり、ごまが入っているザーターが取り入れられている。アフリカ系のスパイスや、カリフォルニアでは味付けに使われることがあるギリシャヨーグルトも使用。ソースは一度つくっておけば、10日間ほどは冷蔵庫で保存が可能。サンマの塩焼きとも相性が良く、豚肉と漬け込むと肉が柔らかくなる。多種多様な料理に使える万能のソースだ。

この料理では、イワシだけを食べてワインを飲んだ時に感じる鉄っぽさをソースが隠してくれている。臭みが消えて香ばしさが残り、ピノ・ノワールと相性の良い料理となった。

方程式:(食材)青魚2点+(調理法)グリル2点+(味付け)ギリシャヨーグルト2点=6点
ブリッジ食材:しょうゆ

ピノ・ノワールはしょうゆやだしとの相性が良いため、塩の代わりにブリッジ食材でもあるしょうゆを取り入れた。

●旬な産地:サンタ・リタ・ヒルズ

2001年に認定されたサンタ・イネズのサブAVA。ポテンシャルの高いピノ・ノワールの産地として注目を集めており、高品質なシャルドネの産地でもある。

最も太平洋に近く、日中の寒暖差が大きい冷涼で乾燥した気候。土壌は石灰質を含む砂、砂・粘土混じりのローム土壌だ。ナパ・ヴァレーや特にソノマ・コーストとはスタイルの違うピノ・ノワールが楽しめる。

クリンカー・ブリック・ワイナリー オールド・ゴースト・ジンファンデル

Klinker Brick Winery Old Ghost Zinfandel
AVA:ローダイ
品種:ジンファンデル100%
ヴィンテージ:2016
アルコール度数:15.9
標準小売価格:オープン
輸入元:SELESTA

樹齢103年という古樹のぶどうを使用。ジンファンデルのふくよかさがありながら、奥行きのあるワインだ。熟成はフレンチオーク40%、アメリカンオーク60%。

アルコールがしっかりとあり、粘性がある。アタックがしっかりとしており、リッチで果肉感や果実味を感じる濃縮味のある1本。酸味がリッチなボリューム感を支えて骨格をつくっているので、余韻は重くない印象。余韻の風味は長くゆっくりと残る、リッチでありながらも繊細な味わいだ。

●フードメニュー:⑤エリンギメンチ

メンチコロッケだが、野菜を食べるカリフォルニアの文化とトレンドを取り入れて、肉とともにエリンギの茎の部分を入れた。隠し味として、肉にシナモンを加えている。

野坂氏はこの料理について、「そしゃくにかかる時間がエリンギによって長くなる。ボリューム感、果実感のあるワインは、かむ時間が長い料理との相性が良い」と付け加えた。

方程式:(食材)肉3点+(調理法)二度揚げ3点+(味付け)とんかつソースとマスタード3点=9点
ブリッジ食材:とんかつソース

こしょうはジンファンデルと相性が良く、ハーブのニュアンスを引き出して、ワインにフレッシュな印象を与えてくれるため、後から足すとまた違う味わいを楽しむことができる。

●旬な産地:ローダイ

サンフランシスコ湾とシェラネヴァダ山脈の間に位置するAVA。7つのサブAVAが認定されており、7つのテロワールがあると言われるほど、それぞれの土壌や気候が違う。カリフォルニア州で初となる、第三者認定の持続可能ワイン生産プログラム「ローダイ・ルール」で知られており、サステナブル農法に関する取り組みを早くから実施しているエリアだ。

灌漑(かんがい)ができない地域ということもあり、ドライファーミング(乾地農業)を取り入れている。ぶどうの粒が小さくなり、凝縮する点がメリットだが、収穫量が減ってしまうというデメリットがある。

ジェーシービー バイ ジャン・シャルル・ボワセ パッション ナパ・ヴァレー レッド・ワイン

JCB by Jean-Charles Boisset Passion Napa Valley Red Wine
AVA:ナパ・ヴァレー
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン88%、プティ・シラー12%
ヴィンテージ:2015
アルコール度数:15
標準小売価格:1万円(税別)
輸入元:中川ワイン

味わいは洗練されており、アタックの質感が柔らかくて果実味が豊か。レベルの高い酸とタンニンが味の方向性をしっかりと導いており、バランスが良く取れている。テクスチャーも柔らかく、「よくできたプレミアムワイン」だと感じられるワインだ。緻密なタンニンがあり、余韻も長く、スパイスやハーバルな印象を感じる。

●フードメニュー:⑥アラビアンスタイルステーキ

クミンやカナダモンなどのスパイスが入り、地中海とメキシコ風をミックスしたアラビアンソースを使用。生き生きとしたカベルネ・ソーヴィニヨンなので、アラビアンソースとの相性が良い。エギゾチックなソースが、「ニュー・カリフォルニア」のスタイルにしっくりとはまる。

肉だけではなく、ベジタリアンメニューの大きめのシイタケにも合う。もっと熟成したカベルネ・ソーヴィニヨンには合わせにくいので要注意だ。

また、繊細なカベルネ・ソーヴィニヨンにステーキを合わせる時には、薄く切るのがポイントだという。

方程式:(食材)赤肉2.5点+(調理法)グリル2点+(味付け)アラビアンソース3点=7.5点
ブリッジ食材:スパイス

●旬なスタイル:ニュー・カリフォルニア

このワインの旬ポイントは、ニュー・カリフォルニアと呼ばれるそのスタイルだ。1980年~2000年代にカリフォルニアのワインメーカーが脚光を浴びるようになり、醸造家のテクニックに注目が集まるようになった。果実味がふくよかで、濃厚でボリューミーというカリフォルニアワインのイメージが確立されたが、現在では、ニュー・カリフォルニアと呼ばれるエレガントさを持った新しいスタイルで、ワインづくりに取り組むメーカーが増えてきている。

今回のフードペアリングの例を見ていくと、方程式の活用方法がよく分かるのではないだろうか。役立つアドバイスもたくさんあり、ぜひ自宅で活用したいと思えるセミナーとなった。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ