コラム

オーガニックとドライファーミングだけじゃない! こだわりだらけの「フロッグス・リープ」 ~カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。

ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。

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今回はそのバーチャルツアーから、全てのヴィンヤードでオーガニック農法とドライファーミングを取り入れている、ナパ・バレーのフロッグス・リープ(Frog’s Leap Winery)についての内容を紹介する。

フロッグス・リープ

今回のバーチャルツアーにガイドとして登場したのは、副社長兼統括マネージャーのジョナ・ビアー氏だ。

副社長兼統括マネージャーのジョナ・ビアー氏

1981年、ナパ・バレーに誕生したフロッグス・リープ。1994年に同ワイナリーが購入し、拠点とする「レッドバーン」と呼ばれている建物は1884年に建てられたもので、ナパ・バレーで最も古いワイナリーの1つだ。

フロッグス・リープのヴィンヤードは、全てオーガニック認証を受けており、灌漑(かんがい)を使用せず、雨などによる自然の降水のみで水分供給をするドライファーミングを行っている。

2人のワインメーカー

フロッグス・リープには、現在2人のワインメーカーがいる。1人は、創業者でありオーナーでもあるジョン・ウィリアムス氏。そしてもう1人が、息子のローリー・ウィリアムス氏だ。

オーナーのジョン・ウィリアムス氏(右)と息子のローリー・ウィリアムス氏(左)

創業者のジョン氏は、1974年から1976年までスタッグス・リープでワインメーカーとして経験を積んだ。スタッグス・リープは、フランスのシャトーよりもカリフォルニアのワイナリーが高い評価を受けて、カリフォルニアワインの質の高さを世界に知らしめた1976年の「パリ・テイスティング(パリスの審判)」で、赤ワイン10銘柄のうち1位を獲得したワイナリーだ。

その後、彼はスプリング・マウンテン・ヴィンヤードに移った後に、友人であるラリー・ターリー氏とフロッグス・リープを立ち上げ、1993年まで共同で経営していた。ターリー氏は現在、ターリー・ワイン・セラーズを所有している。

息子のローリー氏は、ニューヨークの伝統ある名門校コーネル大学で学位を取得し、父親と同様にカリフォルニア大学デービス校で修士号を取得している。フランスのブルゴーニュや、バローロで名高いイタリアのランゲ地方にあるロベルト・ヴォエルツィオで経験を積んだ後に、2013年からフロッグス・リープに参加。ヴィンヤードからキャリアをスタートさせ、アシスタントワインメーカーまでたどり着いた。ビアー氏は「彼は、インターナショナルなアプローチをフロッグス・リープにもたらした」と、ローリー氏について語っている。

貧しさから生まれた有名ラベル

フロッグス・リープのワインラベルには、カエルが飛び跳ねる印象的なデザインが施されている。

ワシントンD.C.のスミソニアン博物館に「史上最高のワインラベル」としてコレクションに加えられるほど、人々から愛されている有名なラベルだが、このラベルが誕生したのは貧しさからだという。

1981年の創業当時は本当にお金がない状態で、セント・ヘレナのスポッツウッドからぶどうを購入してワインを生産したものの、果実を買うためにお金をほとんど使ってしまい、マーケティングやワインラベルをつくるお金は残っていなかった。

そこでラベルのデザインを頼んだのが、当時、アートスクールに通っていたセブン-イレブンの店員だ。100ドルでラベルのデザインを依頼し、出来上がってきた4つのデザインの中から現在のラベルが採用された。

そのラベルデザインを依頼されたチャック・ハウス氏は、現在、100ドルでは到底依頼できない有名デザイナーになっている。

フロッグス・リープが語るオーガニック農法

フロッグス・リープでは、1988年に全てのヴィンヤードがオーガニック認証を受けている。最初に購入した畑で除草剤や殺虫剤を使用していく中で、畑に与えるダメージを目の当たりにすることとなり、より良い方法を探していく中でたどり着いたのが、オーガニック農法だった。当時、フェッツァー・ヴィンヤーズのワインメーカーだったポール・ドラン氏から教えを受け、オーガニック農法を実践していった。

オーガニック農法とは、ただ除草剤や殺虫剤を使わないというものではなく、栄養豊かで多様性に富み、虫や動物、鳥、植物などさまざまなものがあふれている環境をヴィンヤードにつくり出すことだとフロッグス・リープでは考えているという。

この写真は、2020年2月にビアー氏が撮影したもの。この画像の右側がフロッグス・リープのオーガニック畑で、左側は他社が手掛けている従来の農法の畑だ。

従来の農法の畑では、ぶどうの樹の周りに何も生えていないことが分かる。この畑では強力な化学物質を成分に含む除草剤を長年使用しているのだが、蓄積された化学物質が土壌を殺してしまっているので、灌漑用ホースから栄養素などを混ぜた水をまいている。

フロッグス・リープでは、全てのヴィンヤードで灌漑をしておらず、人工肥料も与えていない。代わりに使用しているのが野生植物だ。黄色い花は単なる雑草ではなく、根で地面を掘っていき、土壌をスイスチーズのように穴だらけにする。冬の雨期に雨が降ると、その穴に雨水がたまる。ぶどうの樹は春に目を覚まし、その穴に根を下ろして水を吸い上げるのだ。

土壌に窒素やリン、カリウムといった特定の微量栄養素を加えることを目的に、他にも多くの豆類が植えられている。

人間で例えると、フロッグス・リープのヴィンヤードは必要な栄養素を含んだバランスの良い食事を取っている状態で、従来型の農法のヴィンヤードはレッドブルのようなエナジードリンクで維持しているようなものだ。「コーヒーを5杯飲めば人はエネルギッシュな状態になるかもしれないが、その後は倒れてしまう。それと同じことがこのヴィンヤードでも起きている」と、ビアー氏は語る。

また、灌漑をしないドライファーミングをすることで、ぶどうの樹の根は地中の深くまで張り巡らされ、土壌に広がる。その結果、より低い糖度でより良い味わいの果実ができ、低いアルコール分で、豊かな酸を味わえるワインができるのだという。

ぶどうの樹にとって、根は人間の脳に当たる部分だ。土壌に深く張り巡らされた根が、いつ目覚めて発芽するのか、いつ実をつけて熟すのかなど、全ての決断をする。特に重要なのが、最も深い部分の根圏だ。ぶどう畑で灌漑をすると、根が地中深くまで伸びず地表近くにとどまってしまい、灰色かび病やうどん粉病などの病気、害虫によるトラブルが起きやすくなってしまう。ドライファーミングにより地中深くまで根が伸びると、ぶどうの樹にとってより安全になる。

ドライファーミングは新しい考え方のように見えるかもしれないが、実は1988年までナパ・バレーで灌漑は行われていなかった。「除草剤や殺虫剤を使わず、灌漑を使わない私たちは、むしろナパ・バレーをつくり上げた古いワイナリーに近いといえる。1800年代や1900年代、1966年(創立)のロバート・モンダヴィ、パリ・テイスティングで1位になったワインを手掛けたシャトー・モンテレーナやスタッグス・リープも全てそうだった」と、ビアー氏は説明する。

オーガニックとドライファーミングの組み合わせから、うま味や素晴らしい酸味、25~30年ほど熟成可能なワインが生まれるのだという。

フロッグス・リープのワイン4本

ここからは、バーチャルツアーで取り上げられた4本のワインを紹介する。

ソーヴィニヨン・ブラン ナパ・ヴァレー 2018

ワイナリー創業時の1981年に、250ケースのソーヴィニヨン・ブランを生産したところから始まったこともあり、フロッグス・リープが大切にしているワインだという。

1981年当時と同じ方法でソーヴィニヨン・ブランを手掛けている。発酵と熟成は全てステンレスタンクで行っており、オーク樽は使用していない。リンゴ酸を乳酸に変えてワインをまろやかにするマロラクティック発酵(MLF)も行わず、他の品種とのブレンドもしない、実に純粋なソーヴィニヨン・ブランだ。

フランスのサンセールスタイルのソーヴィニヨン・ブランで、目を引くような酸がある。ラザフォードにある1つのヴィンヤードの果実を80%使用している。ナパ・リバーのすぐ横に位置しており、土壌が豊かで、生命力があるヴィンヤードだ。ラザフォードは、日中は若干暖かく、夜は若干冷涼だが、それが白い花を思わせる香りやレモンの香りを生む。酸が高く、ミネラルも豊かだ。

FROG’S LEAP SAUVIGNON BLANC, NAPA VALLEY 2018
アルコール度数:12.7%
品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
参考小売価格:5060円(税込)

シャルドネ “シェール・アンド・ストーン” ナパ・ヴァレー 2018

バターっぽさや濃厚さ、フルボディといったナパ・バレーのシャルドネらしい特徴はなく、すっきりしていて軽く、より石っぽさがあるワイン。

ナパ・バレーの典型的なシャルドネを期待した消費者が、購入してがっかりすることがないように、どんなワインなのかを知るヒントとして“SHALE AND STONE”と付け加えたのだという。「SHALE」とは、ヴィンヤードがあるカーネロスで見られる岩石の一種で、頁岩を意味する。また、コンクリートタンクで熟成させているところから「STONE」と付けている。2018年ヴィンテージからこの名前を付け加えたところ、売れ行きが良くなり、「思っていた味と違った」として返品する人も減ったという。

ナパ・バレーの南部にあるカーネロスのぶどうを使用。サンパブロ湾の北側を見下ろす斜面に位置しており、とても冷涼な地域だ。そのためぶどうが成熟しすぎないので、アルコール分は控えめになり、自然な酸味が残る。ブルゴーニュの白ワインのように、マッチをすって火を付けた時のような匂いがする、石っぽさやミネラルの香りがあるワインだ。

また、野生のマッシュルームの香りは、発酵段階の最初の7日間で生まれたもの。全房をプレスし、スプラッシュタンクに移して果汁に酸素を加える。酸化して茶色くなった果汁は、一度フレンチオークの新樽に入れて、天然酵母で発酵を促す。

発酵の最初の7日間だけは、コンクリートタンクではなくフレンチオーク樽が使用されている。酵母が発酵を進めるうちに、果汁の温度は華氏55度(約12.8℃)からどんどん上昇していく。オーク樽であれば7日間で温度は華氏85度(約29.4℃)まで上昇するが、コンクリートタンクだと華氏65度(約18.3℃)を超えることはなく、ステンレスタンクだと華氏60度(約15.6℃)以上になることはないという。

しっかりと温度が高くなることで細胞壁が緩んだ酵母が、果汁から酸素を取り除き始め、果汁は還元されて再び鮮度を取り戻す。そこでコンクリートタンクに移して温度を下げ、4カ月もの間発酵をさせると糖分がなくなり、ドライかつスモーキーでマッシュルームの香りがするワインになる。この方法は、ブルゴーニュで行われているものだという。

FROG’S LEAP CHARDONNAY “SHALE AND STONE” NAPA VALLEY 2018
アルコール度数:13.2%
品種:シャルドネ100%
参考小売価格:5720円(税込)

ジンファンデル ナパ・ヴァレー 2018

手にしているのはハーフボトル

ジンファンデルとカベルネ・ソーヴィニヨンであれば、通常は、より重たいジンファンデルを後に試すが、今回はビアー氏の案内によりジンファンデルを先に試すことに。

フロッグス・リープがこだわるオーガニック農法やドライファーミングは、ワイナリーを幸せにするものではなく、ぶどうの樹を幸せにするもの。その良い結果が、このジンファンデルだという。半分をジンファンデルと相性が良いアメリカンオーク樽で、もう半分をコンクリートタンクで13カ月熟成させている。

そのポイントとなるのが、14%ブレンドされているプティ・シラーだ。ブレンドに使われることが多いプティ・シラーは、ワインをより重くダークにし、アルコール度数を上げることが多い。

このワインでは、かなり早くに収穫した、糖度が低く酸の高いプティ・シラーを使用。ワインを軽くフレッシュにして、アルコール度数を下げる役割を果たしている。また、ジンファンデルと共に発酵させることで、酵母が壊してしまう果実の風味をプティ・シラーが再度結合させて、ジンファンデルの風味をより引き出すのだという。

あえてジンファンデル100%ではなくプティ・シラーを加えることで、ジンファンデルらしさを表現したワインだ。

FROG’S LEAP ZINFANDEL, NAPA VALLEY 2018
アルコール度数:14.3%
品種:ジンファンデル82%、プティ・シラー14%、カリニャン4%
参考小売価格:6270円(税込)

エステート・グロウン カベルネ・ソーヴィニヨン ラザフォード ナパ・ヴァレー 2016

ナパ・バレーのクラシックなスタイルのカベルネ・ソーヴィニヨン。ラザフォード西部に位置し、ハイウェイと山の斜面との間にあるラザフォード・ベンチと呼ばれる小さなエリアにあるロッシ・ヴィンヤードの果実を使用している。52エーカー(約21ha)の土地にぶどうの樹が広がっており、その大多数がカベルネ・ソーヴィニヨンだが、カベルネ・フランとメルローも植えられている。

ラザフォード・ベンチは、砂利や岩だらけで荒涼とした土壌として知られているエリアだ。トウモロコシすら育たなかったので、150~200年前に住んでいたネイティブ・アメリカンたちは川の近くへ移っていったといわれているほど荒れた土壌だが、カベルネ・ソーヴィニヨンにとっては最高の場所だ。カベルネ・ソーヴィニヨンの銘醸地であるボルドー地区のポイヤックも、他の農作物には適さない場所だといわれている。

ラザフォードには、とても高い価格のカベルネ・ソーヴィニヨンを生産している有名ワイナリーがいくつかあり、新樽を100%使っているところもあるが、フロッグス・リープで目指しているのは、比較的軽さのあるカベルネ・ソーヴィニヨンだ。熟成にはフレンチオーク樽のみを使用しているが、新樽率は20%と控えめ。新樽はワインに重たさやオーキーな味わいを与えるが、古樽はワインにニュートラルな味わいを与えてくれるところが気に入っているという。

FROG’S LEAP ESTATE GROWN CABERNET SAUVIGNON, RUTHERFORD, NAPA VALLEY 2016
アルコール度数:13.8%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン91%、カベルネ・フラン6%、メルロー3%
参考小売価格:1万2100円(税込)

フロッグス・リープのワインについて、ビアー氏は「バランス、抑制、そしてテロワールへの深い愛が全てだ」と語っている。オーガニックワインの第一人者として知られている同ワイナリーだが、そのこだわりはヴィンヤードにとどまらず、醸造からブレンドまで多岐にわたることがよく分かるバーチャルツアーだった。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ