コラム

「AOP」「オーガニック」の”認証”にこだわらない。自由なワインづくりが広まるフランスワイン[世界の酒とチーズフェスティバル]

2017年10月11~17日にかけて、大丸東京店にて「第92回 世界の酒とチーズフェスティバル」が開催された。

多くのワイン愛好家が詰め掛けるこのイベントには、世界各国のワインがずらりと並ぶ。それでもやはり、ワイン大国・フランスものの取り扱いが最も多いように感じた。

世界の酒とチーズフェスティバルにおいて、フランスワインを多く輸入しているボンド商会のブースで、フランスのワイン事情に詳しいソムリエに話を伺った。フランスワインの最近の傾向はどうなっているのか、会場で取材した情報を紹介していこう。

オーガニック重視のつくり手が増える

多くのワイナリーが大量生産を目指した高度成長期には、畑に化学肥料が多く使われていた。また醸造する工程も自動化され、「より同じ」品質のワインを「より多く」つくることが目標とされていた。

しかし、化学肥料により土地は痩せ、微生物がいなくなり、複雑味のあるぶどうがつくれなくなってきた。消費者も「量」より「質」を求める時代になり、つくり手の多くは技術革新の恩恵を得つつも、伝統的なつくり方に回帰するようになってきている。

ボルドーの5大シャトーやブルゴーニュの名門ドメーヌも例外ではなく、減農薬農法やビオディナミ(天体の動きに合わせた農法)を採用し、昔ながらのつくり方にこだわっているところも多い。

認証にこだわらない自由なワインづくり

しかし、あまりにも「オーガニック」と広く名乗られるようになってしまったため、EUでオーガニック認証を取るには厳しい基準をクリアしなければならなくなった。
だが最近では、認証を取ることを最優先にするのではなく、自らの畑に合ったオーガニックな育て方を模索するつくり手が増えているという。

彼らの手法はシンプルだ。やるべきことはやり、やるべきでないことはやらない。やらなかったことがEUのオーガニック認証基準に適合していなければ、オーガニック認証は必要ないというスタンスだ。

そのため、「オーガニック」と書いていないオーガニックワインが世の中に多く出回る結果となっている。

一例として、フランスのコート・デュ・ローヌで自然派のワインをつくっている「ドメーヌ・ミュル・ミュル・イウム」が挙げられるという。ミュル・ミュル・イウムのボトルには、蜂があしらわれたラベルが貼られている。それに象徴されるようにオーガニックな農法を採用しながらも、ミュル・ミュル・イウムはオーガニック認証を取っていない。ビオディナミという大変手間のかかる農法を実践していながら、オーガニック認証にはこだわらない、意義を感じていない、ということだ

AOPにこだわらず、IGPでワインをリリースするつくり手も

フランスでは、各AOP(原産地呼称保護)を名乗る際には、ぶどうの使用バランス等に関する厳格な決まりを守る必要がある。

しかし最近では、そんな足かせをワインにはめず、柔軟にワインを生み出すつくり手も増えてきているという。収穫時期を意図的に遅らせたり、その土地では従来育てていなかったぶどうを栽培したりして、新しいワインを模索しているのだ。

そういったかつては「亜流」となりがちだった手法を、今のつくり手はテロワールのオリジナリティを追求するため、果敢にトライする。

彼らにとって手に入れたいのは、「AOP」呼称の認証ではない。オンリーワンの味わいを評価されたいという思いが、格下のIGPになってもワインをリリースし続ける背景にある。

この傾向は大手にも見られる。例えば、ブルゴーニュの名門「ルイ・ラトゥール」は、フランス国内での新たな可能性に目をつけ、ガメイ種が主に用いられるボージョレ地方で、ピノ・ノワール種100%のワインをつくっており、村名呼称より格下の広域AOP呼称でリリースをしている。


数百年という歴史を経てなお、刻々と変わるフランスワインの情勢。だが、それでも新しいものが生まれてくる状況をクリエイティブと言わず、何と言おうか。
枠から外れる自由さを得たフランスワインの今後が楽しみでならない。

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About the author /  Yayoi Ozawa
Yayoi Ozawa

フランス料理店経営ののち、ワインとグルメ、音楽を専門とするライターへ転身