コラム

フェルトン・ロード|幻のワインを手掛けるセントラルオタゴの5ツ星ワイナリー ~今知っておきたいニュージーランドのワイナリー

ワインの新興国の中でも、特に新しい産地であるニュージーランド。栽培や醸造に先進的な技術を取り入れたワインづくりで、ワインファンからの信頼を獲得し、人気を集めている。

今回は、そうしたニュージーランドを代表するワイナリーの中から、セントラルオタゴのワイナリー、フェルトン・ロード(Felton Road)を紹介する。

フェルトン・ロードとは

フェルトン・ロードは、ニュージーランドのワイン界で尊敬を集めるボブ・キャンベル氏が毎年発表する同国のワイナリーランキングにおいて、トップ5の常連ワイナリーとして知られる。キャンベル氏は、世界最難関のワイン試験「マスター・オブ・ワイン(Master of Wine)」をニュージーランドで2番目に突破した人物だ。

また、世界的なワイン評論家ロバート・パーカー氏の著書『パーカーズ・ワイン・バイヤーズ・ガイド第7版(PARKER’S WINE BUYER’S GUIDE Seventh Edition)』においても、5つ星と評価されている。

セントラルオタゴにあるニュージーランドを代表するワイナリー

ニュージーランドのワイン産地といえば、南島の北東部に位置するマールボロのイメージが強いかもしれない。しかし、フェルトン・ロードは、世界最南端のワイン産地の1つ、セントラルオタゴに位置する。

初リリースとなった1997ヴィンテージの「ピノ・ノワール」は、アメリカやイギリスに輸出され、“シンデレラワイン(突然脚光を浴びて、非常に高値で取引されるようになったワイン)”として注目を集めた。その結果、フェルトン・ロードだけでなく、セントラルオタゴの地域全体が注目の的となり、次第に投資家や新規ワイナリーが集まるようになった。こうした背景からフェルトン・ロードは、セントラルオタゴのパイオニア的存在にもなっている。

ワインメーカーは、ファーストヴィンテージから現在まで、ブレア・ウォルター氏が務める。小規模だが丁寧なぶどう栽培と醸造により、フェルトン・ロードは世界的に評価の高いワイナリーとなっている。

フェルトン・ロードのワインづくり

フェルトン・ロードは、全ての畑にオーガニック、またはビオディナミ農法(土壌のエネルギーと自然界に存在する要素の力を引き上げ、ぶどうの生命力を高める農法)を取り入れている。一部自作したプレパラート(ビオディナミ農法特有の植物や一部動物由来の調合剤)を使用して土壌の有機堆積物を増やし、畑の健康を保っている。土壌の水分量を注意深く観察して灌漑(かんがい)を必要最小限に抑え、畑作業だけでなく収穫も手作業で行っている。

醸造については、機械ではなく重力を利用して果実や果汁を移動させる手法や、天然酵母で発酵させる手法など、人的介入を最小限に抑えている。こうした取り組みによって、果実やテロワールの実力を引き出している。

フェルトン・ロードのヴィンヤードは、比較的安定した気候条件に恵まれている。そのため、ヴィンテージを意識したワインづくりではなく、テロワールを表現したワインづくりに取り組んでいる。

フェルトン・ロードの産地

フェルトン・ロードは、セントラルオタゴのバノックバーン地区に「エルムズ・ヴィンヤード」「カルヴァート・ヴィンヤード」「マクミュアー・ヴィンヤード」「コーニッシュ・ポイント・ヴィンヤード」という4つの畑を所有している。

セントラルオタゴのバノックバーン地区とは

フェルトン・ロードが拠点とするセントラルオタゴは、年間降水量が少なく、夏はほとんど雨が降らずに乾燥している。また、日照時間が長く、昼夜の寒暖差が激しいのが特徴だ。ぶどうが生育する夏の期間も短い。こうした長い日照時間と寒暖差によって、酸を保ったままぶどうが完熟する。

ヴィンヤードのあるバノックバーン地区は、周囲を山に囲まれ、ほぼ1年中雪に覆われており、気候は冷涼だ。霜害への対応が必要だが、このような冷涼で乾燥した気候や比較的肥沃なレス土壌(風積土)は、ピノ・ノワールの栽培に適している。

フェルトン・ロードのヴィンヤード

フェルトン・ロードのヴィンヤードは、バノックバーン地区の北向きの斜面に位置しており、地区内では最も暖かい。水はけがよく荒涼とした気候が特徴的だ。また、ピノ・ノワールだけではなく、シャルドネやリースリングの栽培にも適している。

2010年には、フェルトン・ロードが持つ全てのぶどう畑が、ビオディナミ農法の認証「Demeter(デメテール)」を取得した。さらに2020年には、「BioGro(バイオグロ)」という、ニュージーランドで最も有名なオーガニック認証を取得している。BioGro取得には3年連続での査察合格が条件で、その後も毎年査察を受ける必要がある。

エルムズ・ヴィンヤード(The Elms Vineyard)/14.7ha
1992年にぶどうの樹が植えられ、フェルトン・ロードの起源となったぶどう畑。なだらかな北向きの傾斜にあり、傾斜、標高、土壌において豊かなバリエーションを持つ。主な土壌は、ピノ・ノワールに適した「深い帯状のウェンガ土壌(細かい砂壌土)」、シャルドネとリースリングを植えている「薄い黄土と片岩礫」の2つだ。

カルヴァート・ヴィンヤード(Calvert Vineyard)/4.6ha
エルムズ・ヴィンヤードから、東に2kmほどの場所にある畑。エルムズ・ヴィンヤードよりも標高が低く、日照量が多い。土壌は深いシルト層(粒径が0.074~0.005mmの土粒子)で、ピノ・ノワールが栽培されている。フェルトン・ロードは、この土地を所有者のオーウェン・カルヴァート氏から2001年より長期的にリースしている。畑は北東向きの緩やかな斜面にあり、近くを流れる水路が冷気を排出するため、霜害のリスクが低い。

この畑のぶどうからつくられるワインには、素晴らしいテクスチャーがあり、花とダークフルーツのアロマ、さらに、細やかなタンニンと凝縮感のあるミネラルが感じられる。

コーニッシュ・ポイント・ヴィンヤード(Cornish Point Vineyard)/7.6ha
かつてはアプリコットが栽培されていた畑だったが、2000年からぶどう栽培をスタートさせた。標高が低く、収穫が最も早い。クルタ川、カワラウ川、ダンスタン湖に面しており、周囲をほぼ水で囲まれている。ぶどう畑はクロムウェル峡谷の入り口のすぐ近くにある。水に囲まれた立地と安定した気流によって生み出されるユニークな環境が、ぶどう畑を霜害から守っている。

土壌は適度な深さのある細かい砂質で、複数のクローンのピノ・ノワールが栽培されている。この畑で収穫されるぶどうからは、暖かくて魅力的なテクスチャーのワインができ、濃厚でダークな果実味、そして柔らかな酸味と丸みを帯びている。

また、特徴的なのがブーケ(ワインの3つの香りのうち、熟成に由来する香り)で、フローラルで深みのある果実味を備えている。

マクミュアー・ヴィンヤード(MacMuir Vineyard)/5.1ha
エルムズ・ヴィンヤードから1km東に位置する。もともとはカルヴァート・ヴィンヤードの一部であり、家畜用の堆肥や干し草などの生産のために使われていた。フェルトン・ロードは、2010年にカルヴァ―ト家からこの土地を購入し、ぶどう栽培に適した土壌を整備した。そして、2012年からぶどう栽培を開始した。

土壌は重さを感じる深いシルト層で、緩やかな北向きの斜面に面している。また、標高が低く比較的温暖な気候であるため、果実が成熟する条件が整っている。1haあたり4667本と比較的高い密度でピノ・ノワールが植えられている。土壌が均一なため、果実の品質にばらつきが出にくいことがこの畑の特徴だ。

この畑のぶどうから生産されるワインは、フローラルなアロマ、完熟したダークフルーツの素晴らしいテクスチャーと口当たりを持つ。さらに、きめ細やかなタンニンとはっきりとしたミネラル感が楽しめる。

フェルトン・ロードのおすすめワイン

フェルトン・ロードを初めて手に取る人におすすめしたい、ワイナリーのこだわりを感じられるワインを紹介する。

フェルトン・ロード・ピノ・ノワール・バノックバーン

フェルトン・ロードを代表する品種といえば、ピノ・ノワールだ。このワインは、バノックバーン地区にある4つの畑のピノ・ノワールをブレンドしている。一部を全房使用し、13カ月樽熟成(新樽率20〜30%)させる。また、瓶詰め前のろ過や清澄をしない。

2020ヴィンテージは、MWのジェーン・スキルトン氏から93ポイント、ジェームス・サックリング氏から92ポイントという高い評価を受けている。

「フェルトン・ロード・ピノ・ノワール・バノックバーン S’20」
Felton Road Pinot Noir Bannockburn S’20
ぶどう品種:ピノ・ノワール
味わい:赤・辛口・ミディアムボディ
参考小売価格:7600円(税別)

フェルトン・ロード・シャルドネ・バノックバーン

ピノ・ノワールに次いで、フェルトン・ロードで高い人気を誇るシャルドネを使用している。このシャルドネは、コーニッシュ・ポイント・ヴィンヤード、カルヴァート・ヴィンヤード、エルムズ・ヴィンヤードで栽培され、複数のクローンを植えている。そして、全てのクローンをブレンドする。圧搾は全房で行い、新樽率を抑えて12カ月間樽熟成させている。また、瓶詰め前のろ過や清澄はしていない。2015ヴィンテージは、『グルメトラベラー(Gourmet Traveller)』や『ワイン・アドヴォケイト(Wine Advocate)』から高く評価されている。

「フェルトン・ロード・シャルドネ・バノックバーン S’15」
Felton Road Chardonnay Bannockburn S’15
ぶどう品種:シャルドネ
味わい:白・辛口・ミディアムボディ
参考小売価格:6800円(税別)

フェルトン・ロード・リースリング・バノックバーン

エルムズ・ヴィンヤードのブロック2と4のリースリングを使用している。非常にシンプルな醸造で、冷涼なエリアで育まれた果実の特徴を引き出した1本。瓶詰め前のろ過や清澄はしておらず、圧搾は全房で行っている。MVのキャンベル氏は、2021ヴィンテージを96ポイントと高く評価している。

「フェルトン・ロード・リースリング・バノックバーン S’21」
Felton Road Riesling Bannockburn S’21
ぶどう品種:リースリング
味わい:白・やや辛口・ミディアムボディ
参考小売価格:4300円(税別)

フェルトン・ロード・ヴァン・グリ

ヴァン・グリとは、セニエ式(果皮と果汁を一緒に発酵させ、ある程度経ったところで、果汁だけを別のタンクに移して発酵を続ける手法)でつくられたロゼワインを指す。ピノ・ノワールから赤ワインをつくる途中で、色が薄くついた果汁を抜き取って使用している。色が非常に淡く、優しい果実味が味わえるワインだ。毎年つくられるものではなく、日本とイギリスにしか輸出されていない。

「フェルトン・ロード・ヴァン・グリ S’21」
Felton Road Vin Gris S’21
ぶどう品種:ピノ・ノワール
味わい:白・辛口・ミディアムボディ
参考小売価格:5000円(税別)

幻のワインも! 「ブロック」シリーズ

フェルトン・ロードでは、畑を細かく区画に分けて管理している。そのうち、フェルトン・ロードの起源であるエルムズ・ヴィンヤードでは、ブロックごとにボトリングした5種類の「ブロック」シリーズを毎年リリースしている。

【ブロックシリーズ】
ピノ・ノワール ブロック3(Felton Road Pinot Noir Block 3)
ピノ・ノワール ブロック5(Felton Road Pinot Noir Block 5)
シャルドネ ブロック2(Felton Road Chardonnay Block 2)
シャルドネ ブロック6(Felton Road Chardonnay Block 6)
リースリング ブロック1(Felton Road Riesling Block 1)

このうちのピノ・ノワールは、ワイナリーでも手に入らない“幻のワイン”だ。珍しさだけではなく、その質の高さでも知られており、年々名声が高まっている。このワインを手に入れるためには、ブロック・リストに乗る必要がある。しかし、このリストには1997ヴィンテージからフェルトン・ロードを愛飲しているファンも名前を連ねており、ウェイティングリストに登録しても、いつリストにたどり着けるのかは不明だ。

シャルドネやリースリングの「ブロック」シリーズについては、日本ではブロック・セラーズ(Broc Cellars)が輸入を手掛けている。フェルトン・ロードが目指す味わいを確かめたい方は、ぜひ手に取ってみるとよいだろう。

【今知っておきたいニュージーランドのワイナリー】
高校時代からの友人同士が立ち上げた新世代のワイナリー、インヴィーヴォ
日×NZ×仏で幻のワインを生み出す、シャトー・ワイマラマ
オーストラリアやイギリスでも大人気の「オイスターベイ」を手掛ける、デリゲッツ・ワイン・エステート
ワイン王国5つ星獲得も! 高コスパ&高品質ワインが魅力の家族経営ワイナリー、シャーウッド・エステート
スーパーでもおなじみ! 高コスパワインのつくり手、オーバーストーン
“マールボロのカギを握るつくり手”と評される、セント・クレア・ファミリー・エステート
3人のエキスパートが最良のピノ・ノワールを目指して設立、デルタ・ワイン・カンパニー
ノビロ|日本の市場から姿を消した大手ワイナリーの現在(番外編)
他のマールボロ産とは一線を画すソーヴィニヨン・ブランを手掛けるフォリウム・ヴィンヤード

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ