コラム

キーワードは「CSV」! ワインをより魅力的なものにする、シャトー・メルシャンの経営方針 ~シャトー・メルシャン戦略説明会①

社会的な課題を解決しながら、企業の利益にもつながる「CSV」経営。2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)が普及していく中で、CSVにつながる新規事業を立ち上げる企業が増えている。

日本で最も長い歴史を持つワインメーカーのシャトー・メルシャンも、そんな企業の1つだ。この記事では、2022年9月14日に開催された「シャトー・メルシャン戦略説明会」の中から、CSV経営につながる部分をピックアップして紹介する。

キーワードは「CSV」

メルシャン代表取締役社長の長林 道生氏が登壇

CSVとは、Creating Shared Valueを略したもの。日本語では「共通価値の創造」と訳されている。企業が事業を通じて社会のニーズや問題に取り組むことで、社会的な価値と経済的な価値を生み出そうとする経営戦略のことだ。

メルシャン代表取締役社長の長林道生氏は、説明会の冒頭で「目指す姿、ビジョンを通してCSVにかける思いを伝えたい」と話した。

ワインは農業

シャトー・メルシャンでは、ワインは農業であると考えている。その土地の気候や土壌などの恩恵を受けたぶどうからつくられているからだ。ワインづくりにおいて、産地や地域社会の存在は大きい。

説明会では、シャトー・メルシャンが目指すCSV経営として、ワインづくりを通して産地や地域社会の課題を解決し、つくり手の思いや産地、畑の物語を届けて、消費者にとってワインをより魅力的なものにしていくこと、同時に高い収益という経済的価値を創出していくことが語られた。

CSVを意識したブランド展開

メルシャンでは、CSVを意識した2つのブランドを展開している。

1つは、“日本を世界の銘醸地に”をビジョンに掲げ、日本のワイン産業自体の底上げを目指す「シャトー・メルシャン」。もう1つが、日本だけではなく世界レベルでのCSVを目指す「メルシャン・ワインズ(Mercian Wines)」だ。

輸入ワインの新ブランド「メルシャン・ワインズ」

メルシャン・ワインズは、まだまだ日本では知られていない技術や思想を持った世界のつくり手を発掘し、メルシャンの考えに共感してくれるワイナリーと共創するプロジェクトだ。メルシャンが培った日本のお客様が好む味わいのワインをつくる技術・知見を生かし、「メルシャン」の持つ信頼感・安心感を感じていただけるよう、メルシャンという名前の入った新ブランド「メルシャン・ワインズ」を展開することで、お客様が「輸入ワインを手に取りやすい」環境をつくろうとしている。

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持続可能なワインづくりへの取り組み

続いて、CSVの一環としてメルシャンが取り組んでいる、持続可能なワインづくりについて見ていこう。

気候変動への取り組み

「ワインをつくるに当たっても、環境が変わってきている。毎年新しい課題が生まれている」と長林社長は説明する。

そんな中、気候変動への取り組みとして、全ワイナリーで購入する電力の100%再生可能エネルギー化や、標高の高い冷涼な気候の圃場(ほじょう)の開拓、適地・適品種の探索などを行っている。

例えば、2017年に開園した標高800~850mの天狗沢ヴィンヤード(山梨県甲州市)ではシラーを、2015年に開園した標高850mの片丘ヴィンヤード(長野県塩尻市)ではピノ・グリやゲヴェルツトラミネールの栽培をスタートさせている。

ネイチャーポジティブ

ネイチャーポジティブとは、生物多様性を守る目的で自然を増やすことなどを考える際に使われるキーワードだ。

この取り組みがよく分かる例が、天狗沢ヴィンヤードだ。かつてはシカの食害により生物多様性が損なわれてしまっていた。ぶどうの垣根づくりでは、間隔を開けて植えるため、ぶどうの樹の下にさまざまな植物が生えやすい。畑の植物は、2018年には一年草が中心だったが、2021年には多年草が増加してヴィンヤードの草生化が確認された。

また、椀子ヴィンヤード(長野県上田市)では、希少種も確認されており、近隣の小学校の教育の場としても使われている。絶滅危惧種の植物・昆虫が年々増えており、日本ワインのために遊休荒廃地を草生栽培のぶどう畑に転換することは、事業の拡大に寄与するだけではなく、貴重な草原を創出し、豊かな里地里山の環境を広げ、守ることにつながると考えている。

2017年にはこの取り組みが、「第6回いきものにぎわい企業活動コンテスト」(主催:いきものにぎわい企業活動コンテスト実行委員会、後援:環境省、農林水産省)において「審査員特別賞」を受賞※したそうだ。
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ワイナリー経営について

シャトー・メルシャンでは、ワイナリーの経営自体も持続可能なワインづくりへの取り組みの中で大切なことだと考えている。

新型コロナウイルス感染症の影響でワイナリーの来場者数は半分ほどに低下したが、商品の品揃えやオンラインを含めたさまざまな取り組みにより、売り上げは順調に推移。2019年と2022年の客単価を比べてみると、勝沼ワイナリーは250%にアップしている。椀子ワイナリーでも、来場者数、売上ともに年々アップしている。

また、シャトー・メルシャンの特徴として、20代、30代のワイナリーツアー参加者が多いことが挙げられる。ワインユーザーを年代別に見てみると、20代、30代は1割にも満たないが、シャトー・メルシャンのワイナリーツアー参加者の約半数が20代、30代だ。同社では、ワイナリーが若年層との接点強化のカギになるのではないかと期待しているそうだ。

シャトー・メルシャンでは、今後も世界のワイナリーリゾートを知るマスター・オブ・ワイン(MW)のアドバイスを受けながら、随時ワイナリーを刷新し、ユーザー満足度と付加価値の高い体験を提供していく。

契約農家との取り組みも進化

持続可能なぶどう栽培を目指すのは、自社管理畑だけではない。日本各地の契約農家との取り組みにも注力し、良いぶどうを入手するだけではなく、地域の農家を守ることを目指す。

例えば、秋田県の大森地区では、白ワイン品種のぶどうだけをつくっていたが、温暖化に伴い赤ワイン品種のツヴァイゲルトにも挑戦。大雪の被害を受けてしまったリースリングの棚栽培の畑を中心に、ツヴァイゲルトを導入した。現時点で、糖度の高いぶどうが収穫できているという。

また、今までシャルドネのみを栽培していた福島県新鶴地区では、一部をアルバリーニョに切り替えている。そして生まれたのが、2018年に発売された「シャトー・メルシャン 新鶴アルバリーニョ」だ。

2021年には、今まで1人だけだった栽培農家が4人に増え、栽培面積も3倍に増えている。

山梨県の穂坂地区でも、栽培農家と共同で高付加価値ワインを開発。2018年には「シャトー・メルシャン 穂坂マスカット・ベーリーA」のシングルヴィンヤードを発売し、ファーストヴィンテージが2021年の「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(International Wine Challenge:IWC)」で銅賞を受賞した。

シャトー・メルシャンが目指すもの

2022年で創業145年となるシャトー・メルシャンだが、200年を目指すにはワイン市場の裾野を広げていく必要がある。

ビジョン実現のために

CSV経営を通して、シャトー・メルシャンが目指すのは、“日本を世界の銘醸地に”だ。メルシャン1社で良いワインをつくっても、地域全体でワイン産地として認められなければ、将来日本ワインの発展はないと考えているという。

このビジョンの原点が、藤沢や勝沼の工場長を務めた浅井昭吾(ペンネーム:麻井宇介)氏だ。甲州ワインの個性を引き出すシュール・リー製法を周囲のワイナリーにも公開し、醸造技術、ノウハウ、思想を無償で提供してきた人物で、現代日本ワインの父とも呼ばれている。適地・適品種の考えから桔梗ヶ原にメルローを、北信にシャルドネを増やすことを決断したのも浅井氏だ。

“日本を世界の銘醸地に”というビジョンを実現するためには、日本のワイン市場の基盤で脆弱(ぜいじゃく)なところを強化する必要がある。

次回は、メルシャンのCSV経営、そしてビジョンの実現を目指してスタートした、コンサルティング事業について解説する。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ