コラム

ドミニオ・デ・プンクトゥン|ビオワインに情熱を注ぐ、フェルナンデス兄妹のワイナリー ~解説:スペインのワイナリー

   

今、世界中でファンが増えつつある、ビオワイン。完全有機農法でつくるワインのことを示すが、そのビオワインの生産者として近年評価が上がっているのが、スペインのフェルナンデス兄妹だ。

彼らは、他の生産者とは比べ物にならないほどの情熱を注いでビオワインを生産しており、高品質なワインを生み出している。今回は、そんなフェルナンデス兄妹が手掛けるワイナリー、ドミニオ・デ・プンクトゥン(Dominio de Punctum)を紹介する。

フェルナンデス兄妹が設立したワイナリー、ドミニオ・デ・プンクトゥンとは

フェルナンデス兄妹は、ビオワインへの情熱を昇華させるために、日夜努力を惜しまずワインづくりに没頭している。ラ・マンチャ地方を拠点とするドミニオ・デ・プンクトゥンでは、化学物質を全く含まないワインを生み出している。

ぶどう農家の4代目が描いた夢

ドミニオ・デ・プンクトゥンは、スペイン中央部のカスティーリャ=ラ・マンチャ自治州の一部であるラ・マンチャ地方に位置する。兄妹が生まれたフェルナンデス一族は、この地で代々ぶどう農家を営んでいた。

4代目にあたる兄のヘスース氏と妹のルース氏は、自分たちが育てたぶどうで、いつかワインをつくりたいという思いを抱くようになり、兄は経営学、妹は醸造学とぶどう栽培を学んだ。そして2005年、当時はラ・マンチャ地方にはなかった、“自社のぶどう畑から採れたぶどうのみでつくる、完全有機栽培のビオワインのワイナリー”として、ドミニオ・デ・プンクトゥンを設立した。

兄妹のワイナリーは、自然派ワインをつくることを目的に設計されており、世界的に見ても珍しい。また、ぶどう畑は祖父の代から受け継がれたもので、ローンなどもなく、維持費がかからない。そのため、低価格ながら、品質の高いビオワインの製造が可能になった。

ラ・マンチャ地方の特徴

ドミニオ・デ・プンクトゥンが居を構えるラ・マンチャ地方は、小説『ドン・キホーテ』の舞台となったことでも知られ、その歴史は旧石器時代までさかのぼる。古くからぶどう栽培が盛んで、最古の記録は12世紀に見られる。19世紀末から20世紀初頭には、フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)による疫病がはやったが、ラ・マンチャ地方独特の乾燥した環境が疫病を阻み、1880年にはスペイン国内でも最大のぶどう産地となる。その後1932年に、DO(Denominacion de Origen、原産地呼称)に認定された。

この地域では主にアイレン種が栽培されていたが、消費者の嗜好の変化に合わせ、他の品種も栽培されるようになった。現在、栽培されている主な品種は以下の通り。

◆黒ぶどう
センシベル(テンプラニーリョ)、ガルナッチャ・ティンタ、モラヴィア・ドルセ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー、プティ・ヴェルド、グラシアーノ、マルベック、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール

◆白ぶどう
アイレン、ビウラ(マカベオ)、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ベルデホ、モスカテル・デ・グラノ・メヌド、ペドロ・ヒメネス、パレリャーダ、トロンテス、ゲヴュルツトラミネール、リースリング、ヴィオニエ

ラ・マンチャ地方のぶどう畑は、標高約600mのメセタ(イベリア半島中央に位置する広大な乾燥高原)上に広がっており、周囲の山脈の影響で1年を通じて乾燥している。夏は45℃程度まで上昇し、冬は-15℃付近まで下がる極端な大陸性気候だ。年間降水量は300~400mm程度と少なく、年間日照時間は3000時間ほど。土壌は砂礫質かつ粘土質で、有機物は少ない。

ビオワインとオーガニックワインの違い

ビオワインという呼称は、主に日本で使われている造語であり、有機栽培でつくられたぶどうを用いたワインのことを指す。ヨーロッパでは、「ヴァン・ナチュール(Vin Nature)」と呼ばれる。ただし、ビオワインには厳密な定義がなく、特に日本では認証する機関が存在しない。一方、EU内でビオワインの名称を使用する場合には、オーガニックワインの認証を受ける必要がある。

ビオワインとオーガニックワインの違いとして、有機栽培の程度の差が挙げられる。ビオワインはオーガニックワインよりも、徹底した有機栽培によるぶどうを用いる。これを実現するためには、ビオロジック農法か、ドミニオ・デ・プンクトゥンが用いているビオディナミ農法を採用する必要がある。また、酸化防止剤である亜硫酸塩の含有量が、0か極めて少ないものがビオワインとなる。

ビオロジック農法とビオディナミ農法

ビオロジック農法は鶏糞や羊糞などの有機肥料を使用することが前提とされ、病害虫予防、天敵昆虫などへの防疫に用いる一部の農薬以外は使用してはならない。ワインの醸造時も、EU(欧州連合)内では亜硫酸塩の使用量を基準値以下にしなければならない。

一方のビオディナミ農法は、ビオロジック農法がベースとなった農法である。土壌、気候、植物、他の生物のみならず、天体の動きまでも考慮して栽培を行うのが特徴だ。肥料も、完全自然由来のものを原料としており、例えば牛糞やタンポポなどを牛の角や腸に詰め、土の中で寝かせたものを肥料として使用している。

ビオディナミ農法でつくられたワインは、ビオロジック農法のものよりも亜硫酸塩の使用量が少ないか、全く用いない。ドミニオ・デ・プンクトゥンでは、2009年よりビオディナミ認証の取得を開始し、現在では所有するぶどう畑の20%が取得済みとなっている。その他のぶどう畑も有機栽培であり、ドミニオ・デ・プンクトゥンのこだわりがうかがえる。

おすすめワイン5選

ドミニオ・デ・プンクトゥンには多数のラインアップがある。有機栽培のぶどうを使用しながら、手頃な価格で楽しめるのが魅力だ。

ドミニオ・デ・プンクトゥン ラガスカ テンプラニーリョ プティヴェルド

ブラックチェリー、プルーン、カカオ、シナモン、ドライローズなどの香りの中に、コーヒーやスパイスの香りも漂う。タンニンはいたって滑らかで、酸味とのバランスもちょうどよい。16~20℃の温度で飲むのがおすすめ。ステーキや馬肉のタルタル、タンドリーチキン、熟成チーズなどによく合う。

ぶどう品種:テンプラニーリョ、プティ・ヴェルド
味わい:赤・ミディアムボディ
参考小売価格:1980円(税込)

ドミニオ・デ・プンクトゥン ラガスカ ヴィオニエ

外観はクリアなレモンイエローで、フレッシュな印象。熟したモモ、マンゴー、ドライアンズなどの濃厚な果実から、ジャスミン、ミントなどのハーブの香りまでが気品高く漂う。口当たりは滑らかで、すがすがしさもある。豊かな果実味とまとまりのある酸味があり、苦味のある後味の余韻も手伝って、引き締まった辛口のワインだ。若干冷やして、天ぷらやアジア系のスパイスを使った料理とともに楽しみたい。

ぶどう品種:ヴィオニエ
味わい:白・辛口
参考小売価格:2090円(税込)

ドミニオ・デ・プンクトゥン ロベティア テンプラニーリョ

柔らかく、まろやかな果実味を特徴とする。軽やかな味わいで飲みやすく、パスタやおつまみなどと相性が良い。オーガニックワインの展示会「ミレジム・ビオ(Millésime Bio)」で金賞を受賞している。

ぶどう品種:テンプラニーリョ
味わい:赤・ライトボディ
参考小売価格:1000円(税別)

ドミニオ・デ・プンクトゥン パブロ・クラロ カベルネ・ソーヴィニヨン/グラシアーノ

ラ・マンチャ地方で初となる、ビオディナミ認証ワイン。標高750mの畑から、最適な場所を選んで栽培したぶどうを使用する。完熟した果実やスパイス、バニラを感じさせる芳醇な味わい。「ムンダス・ヴィニ(Mundus Vini)」で2度の金賞を受賞している。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン50%、グラシアーノ50%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:1900円(税別)

ドミニオ・デ・プンクトゥン ベインテミル レグアス

標高800mの自社畑の白ぶどうを使用したオレンジワインで、有機・ヴィーガン認証を取得している。果皮とともにステンレスタンクで21日間熟成させており、アプリコットやオレンジの皮を思わせるアロマ、滑らかなタンニンと酸を楽しめる。

ぶどう品種:シャルドネ34%、ヴィオニエ33%、ビウラ33%
味わい:オレンジワイン・辛口
参考小売価格:1750円(税別)

【解説:スペインのワイナリー】
サッカー界のスター、アンドレス・イニエスタが所有するボデガ・イニエスタ
世界一の熟成を誇るスペイン産ワイン「ウニコ」のつくり手、ベガ・シシリア
2つの名門ワイナリーがタッグを組んだ、ボデガス・ベンジャミン・ド・ロスチャイルド&ベガ・シシリア
クネ|王室御用達! スペインワインの歴史を変えたリオハのワイナリー
まさに“キング・オブ・スペイン”! その名を世界にとどろかせるトーレスの魅力に迫る
ボデガス・サン・ヴァレロ|カリニェナを代表する、高コスパワインのつくり手
ボデガ・ビニャ・ノラ|リアス・バイシャスで最も優れたアルバリーニョを産するワイナリー
ボデガス・サン・ロマン|「ウニコ」を手掛けた名醸造家マリアノ・ガルシアのワイナリー
ボデガス・ロダ|「ZARA」オーナーの富豪も選んだ、名醸地リオハのワイナリー
ハメケン・セラーズ|コスパ抜群の「エル・パソ」を送り出す、新進気鋭のワイナリー
漫画『神の雫』で話題となった「エヴォディア」のつくり手、ボデガス・サン・アレハンドロ
ボデガス・フェルナンド・カストロ|6世代続く家族経営の老舗ワイナリー
ボデガス・エル・ニド|「ウニコ」「ピングス」に並ぶ注目のスペインワイン「エル・ニド」のつくり手

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  was the writer
was the writer

関西大学卒 専業ライターを夢見て日々執筆する複業ライター。酒と肉と旅行と昼寝が好き。