コラム

セレシン・エステイト|初めてビオロジックを導入した、ニュージーランドTOP 4のワイナリー ~今知っておきたいニュージーランドのワイナリー

ワインの新興国の中でも、特に新しい産地であるニュージーランド。栽培や醸造に先進的な技術を取り入れたワインづくりで、ワインファンからの信頼や人気を集めている。

今回はそんなニュージーランドを代表するワイナリーの中から、ニュージーランドで初めてビオロジックを導入した、セレシン・エステイト(Seresin Estate)を紹介する。

セレシン・エステイトとは

セレシン・エステイトの特徴

セレシン・エステイトは、撮影監督として1970年代から活躍しているマイケル・セレシン氏が、1992年に設立したワイナリーだ。彼が選んだのは、ニュージーランドのワインづくりの中心地ともいえるマールボロ。1973年にモンタナ(Montana)が進出していたものの、セレシン・エステイトが設立された当初は、まだ家畜農家が点在する放牧地帯だったという。

ニュージーランドで初めてビオロジック(有機栽培)を導入し、除草剤や殺虫剤などの農薬、化学肥料は使用せず、無農薬で有機肥料を使ってぶどうを栽培している。また、発酵には野生酵母を使用。可能なかぎり自然に任せ、時間をかけても品質には妥協しないワインづくりを目指している。自然に任せるため、テロワールやヴィンテージが表現されたワインとなる。

セレシン氏は、アラン・パーカー監督作や『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』などを手掛けている、現役の撮影監督だ。同時に、2009年にはジャンシス・ロビンソン氏からニュージーランドTOP 4生産者の1つに挙げられるなど、セレシン・エステイトを高い評価を受けるワイナリーに成長させた。特にピノ・ノワールに関しては、ニュージーランドを代表するワイン評論家のマイケル・クーパー氏から、「マールボロで最高のピノ・ノワールの1つ」と評されている。2009年には、撮影監督そしてワイン産業への貢献が評価され、ニュージーランド・メリット勲章のオフィサー(ONZM)を受章している。

マールボロでのビオディナミのパイオニア

設立当初からセレシン・エステイトがこだわり続けているのが、“ハンドクラフト”だ。その姿勢は、ワインのラベルに描かれた、セレシン氏の手形でも表現されている。ニュージーランドで初めてビオロジックを導入したワイナリーであり、2002年にはBiogro(バイオグロ)という、ニュージーランドで最も有名なオーガニック認証を取得した。BioGroは、3年連続での査察合格が取得条件で、その後も毎年査察を受けなければならない厳しい認証だ。

ヴィンヤードを生命体と捉え、植物を「本来あるべき健康な土壌環境」に置くことを重視するセレシン・エステイトでは、ビオロジックだけではなく、ビオディナミ農法を実践している。ビオディナミ農法とは、天体の動きに合わせたワインづくりに加え、動物との共生、独自の調合剤の使用などにより、地球環境と作用し合い、生命体の潜在的な力を引き出す農法だ。ぶどう畑だけでなく、農園内のオリーブ畑、果樹畑、牧草地、菜園などでビオディナミ農法を取り入れている。

敷地内で飼われている鶏や羊、豚、牛は、農園内の雑草を食べてくれる。馬はトラクターの代わりとして利用されており、CO₂排出量を減らし、土中の環境に優しい方法で耕作が可能となる。除草剤や殺虫剤などの農薬、化学肥料の代わりとなるビオディナミ調合剤と堆肥には、家畜の排泄物など農園で生み出されたものを使用している。

2010年には、厳しい基準にのっとり、ビオディナミ農法で生産された農作物に与えられる、Demeter(デメター)認証を取得している。

こうしたビオディナミ農法により、ぶどうの樹が大地から自然な栄養分やミネラルを吸い上げて健康的に生育し、ワインにストラクチャーや凝縮感などが現れるようになったという。

セレシン・エステイトのヴィンヤード

マールボロとは

ニュージーランドの首都ウェリントン出身のセレシン氏が、理想のワインをつくる場所として選んだマールボロは、南島の北東部に位置する国内最大のワイン産地だ。

ニュージーランドで最も日照量が多く、土壌の水はけが良い。ぶどうの生育期となる夏(1月)には、日中と夜の寒暖差が大きいため、ぶどうは酸を蓄えたままゆっくりと成熟する。また、長く延びた山脈によって、過剰な雨や強過ぎる風からぶどうが守られるという、ワインをつくるには最高の環境が揃っている。

マールボロで栽培されているぶどうは、8割がソーヴィニヨン・ブラン。この地でつくられたソーヴィビニヨン・ブランは、「マールボロ・ソーヴィニヨン・ブラン」として、国際的に高い評価を受けている。

ヴィンヤードの特徴

セレシン・エステイトは、ワイナリーがある地区のノア農園、オマカ・バレーの麓に広がるラウポ・クリーク農園、そしてワイラウ・バレーの最西端に位置するタタウ農園の3つの畑を所有している。それぞれで気象条件が異なる3つの農園の特徴を見ていこう。

ノア農園

ワイナリーの周囲に広がるヴィンヤード。ワイラウ・バレーにあり、標高は60m。粘土質の高いロームの上に砂質が広がる土壌。古代には川だった地形で、粘土は適度に水分を吸収するが、水はけが良く、ぶどうの栽培に適している。骨格があり、複雑味を持った、アロマが豊かなワインができる。

栽培品種:ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール、シャルドネ、セミヨン、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、ピノ・ムニエ、リースリング

ラウポ・クリーク農園

オマカ・バレーにあり、標高は130mと高い。ヴィンヤードは、北向きの急な斜面に面している。リッチな粘土質土壌で、ピノ・ノワールに適している。高い酸と滑らかなタンニンが特徴の、エレガントなワインができる。

栽培品種:ピノ・ノワール、シャルドネ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ヴィオニエ

タタウ農園

ワイホパイ・バレーにほど近い、ワイラウ・バレーの最西端にあり、標高は70m。冷涼で乾燥しており、風が強く、主に沖積土壌が分布。骨格の整ったタンニンと濃厚なアロマが特徴のワインができる。

栽培品種:ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール

セレシン・エステイトのワイン

日本でも愛される、セレシン・エステイトのワイン。インポーターのモトックス(Mottox)が輸入を手掛けている、4本のワインを紹介する。

モモシリーズ

セレシン・エステイトのワインを初めて手に取るという人に、おすすめしたいシリーズ。リーズナブルでありながらも、品質へのこだわりが感じられるワインだ。特にヴィンテージが表現されている。

モモ ピノ・ノワール 2022

除梗した果実をプレスせずに、ステンレスタンクにて少し低めの温度で10日間発酵し、3週間のマセレーション(醸し)でタンニンや色味を抽出。果実の実力を引き出したワインを、フレンチオーク樽(新樽比率20%)で9カ月熟成させている。

ブラックベリーやプラムのアロマと風味が大地や革製品のニュアンスと層をつくり複雑味を持たせます。細かなタンニン、バランスの良いボリュームを持ち、ミネラリックな余韻が魅力です。
モトックス商品紹介より

Seresin Estate MOMO Pinot Noir
ぶどう品種:ピノ・ノワール100%
タイプ:赤・ミディアムボディ
原産地呼称:マールボロG.I.
参考小売価格:3960円(税込)

モモ ソーヴィニヨン・ブラン 2022

ステンレスタンクで発酵させ、軽快に仕上げたワイン。香りの華やかさからくる印象に比べて味わいはドライで、食事との相性も良い。

爽やかなパッションフルーツやレモン、花のアロマにミントを思わせるハーブ香が漂います。ミネラル香が奥行きを持たせ、きれいな酸と程よいボリューム感を持つ白ワインです。
モトックス商品紹介より

Seresin Estate Momo Sauvignon Blanc
ぶどう品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
タイプ:白・辛口
原産地呼称:マールボロG.I.
参考小売価格:2860円(税込)

セレシン・エステイト ドライリースリング 2018

ラウポ・クリーク農園のぶどうを使用し、房を丸ごとプレスする。ステンレスタンクで48時間ほど落ち着かせた後、旧樽に移してから一般的な発酵期間よりも長い56日間をかけて、自然発酵させている。乳酸を柔らかくするマロラクティック発酵(MLF)は行っていない。澱引きした後で旧樽のフレンチオーク樽で4カ月間熟成させ、生き生きとした酸のあるエレガントなワインに仕上げている。

柑橘果実や柑橘の花を想わせる、リースリングの美しい風味を持ちます。焦点の定まった際立った酸とテクスチャー、樽熟成由来の複雑味も魅力の辛口リースリングです。
モトックス商品紹介より

Seresin Estate Dry Riesling
ぶどう品種:リースリング100%
タイプ:白・辛口
原産地呼称:マールボロG.I.
参考小売価格:3850円(税込)

セレシン・エステイト レア ピノ・ノワール 2018

ラウポ・クリーク農園のぶどうを85%、ノア農園のぶどうを15%使用。除梗後、低温にて天然酵母で発酵し、4週間のマセレーションでタンニンや色味を抽出している。フレンチオーク樽で14カ月熟成させている。

新鮮な赤系ベリーのアロマやスパイス、野生のハーブを感じ、焦点の合った凝縮した果実味が魅力です。細やかで熟したタンニンが溶け込んだ、美しい質感を持つ深みある味わいです。
モトックス商品紹介より

Seresin Estate Leah Pinot Noir
ぶどう品種:ピノ・ノワール100%
タイプ:赤・フルボディ
原産地呼称:マールボロG.I.
参考小売価格:4125円(税込)

【今知っておきたいニュージーランドのワイナリー】
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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ