コラム

ブランコット・エステート|モンタナの名で知られていたマールボロのパイオニア ~今知っておきたいニュージーランドのワイナリー

ワインの新興国の中でも、特に新しい産地であるニュージーランド。栽培や醸造に先進的な技術を取り入れたワインづくりで、ワインファンからの信頼と人気を集めている。今回はそんなニュージーランドを代表するワイナリーの中から、かつてはモンタナ(Montana)の名で知られた、ブランコット・エステート(Brancott Estate)を紹介する。

ブランコット・エステートとは

ブランコット・エステートは、世界でも人気の高いマールボロ産ソーヴィニヨン・ブランを使ったワインのつくり手として知られる。

ブランコット・エステートの歴史

ワイナリーの歴史は、1934年にクロアチア移民であるイワンとアマンダのヤキッチ夫妻が、北島のオークランドで小さなヴィンヤード(ぶどう畑)をスタートさせたことに始まる。オークランド近郊では、クロアチア系移民たちによって、20世紀初頭からワインづくりが始められていた。ブランコット・エステートの他にも、クロアチア系移民によるワイナリーには、ノビロ(Nobilo)、ヴィラ・マリア(Villa Maria)、バビッチ(Babich)、クメウ・リヴァー(Kumeu River)などがある。

初めてワインが発売されたのは、1944年のこと。その後1961年には、夫妻の2人の息子が本格的なワイナリーを設立した。最初のヴィンヤードが山の麓にあり、山を意味する「モンタナ」と名前が付けられていたことから、ワイナリー名も「モンタナ・ワインズ」となった。2005年にはペルノ・リカール(Pernod Ricard)の傘下となり、アメリカでのマーケット拡大に伴って、2010年にブランコット・エステートに改名された。

2021年からは、マールボロ出身のローラ・ケイト・モーガン氏がチーフワインメーカーを務めている。国際的な評価も高く、世界中のワイン専門家による投票で決まる「50 The World’s Most Admired Wine Brands(世界で最も称賛されるワインブランド50)」にも、たびたび選出されている。

ブランコット・エステートの産地マールボロとは

ブランコット・エステートが拠点を置くマールボロは、南島の東北部に位置する。現在では、ニュージーランド最大のワイン産地として知られるマールボロだが、その土台を築いたつくり手の1つがブランコット・エステートだ。本格的なワイナリー設立後の1973年、当時はまだ家畜農家が点在し、ヒツジの大群が目につく放牧地帯だったマールボロに、初めて大規模なヴィンヤードをオープンさせた。

マールボロは、ニュージーランドで最も日照量が多く、土壌の水はけがよい。ぶどうの生育期である夏(1月)は、日中と夜の寒暖差が大きいため、ぶどうは酸を蓄えたままゆっくりと成熟する。長く伸びた山脈がぶどうを大雨や強風から守っており、ワインづくりに最適な環境だ。マールボロで栽培されるぶどうは、ソーヴィニヨン・ブランがおよそ8割を占める。この地でつくられたソーヴィビヨン・ブランは、「マールボロ・ソーヴィニヨン・ブラン」として、国際的に高い評価を受けている。

ブランコット・エステートでは、マールボロを代表するソーヴィニヨン・ブランをはじめ、ピノ・ノワール、リースリング、ピノ・グリ、シャルドネ、メルローなど幅広い品種を栽培している。

改名の理由

ブランコット・エステートは、モンタナ時代から既に、ニュージーランド最大のワインメーカーとして知られる存在だった。にもかかわらず改名した理由としては、モンタナの評価が国際的に高まったことが挙げられる。

というのも、モンタナのアメリカ進出に際して、そのままの名前ではアメリカのモンタナ州産のワインと混同されてしまう恐れがあったからだ。こうした状況を避けるため、当時、既にアメリカで一部のワインに使用されていたブランコット・エステートの名前に統一されることとなった。

ただし、ニュージーランド国内ではモンタナの名前が定着しているため、現在でも「winemakers」というシリーズのワインが、モンタナの名前で販売されている。

ブランコット・エステートのワイン

日本でブランコット・エステートのワインを取り扱っているのは、ペルノ・リカール・ジャパンだ。2023年4月末時点で、日本国内の市場で取り扱われているのは、以下の5本となる。

ブランコット・エステート クラシック ソーヴィニヨン・ブラン

リーズナブルな価格で、手軽にブランコット・エステートが表現する品種とテロワールを味わえる1本。2020ヴィンテージは、「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード(Decanter World Wine Awards:DWWA) 2021」で88ポイント、ドリンクス・ビジネス誌が主催する「グローバル・ソーヴィニヨン・ブラン・マスターズ(Drinks Business Global Sauvignon Blanc Masters) 2020」でゴールドを受賞するなど、数々の受賞歴を誇っている。

外観はグリーンがかった淡い麦わら色で、熟れた西洋スグリ、ピーマン、トロピカルメロン、グレープフルーツなどの香りを特徴とする。シャープで酸味が感じられる、果実味を前面に表現したバランスの取れた味わい。

Brancott Estate Sauvignon Blanc
原産地:マールボロ
ぶどう品種:ソーヴィニヨン・ブラン
味わい:白・辛口・ライトボディ
参考小売価格:1830円(税込)

ブランコット・エステート クラシック ピノ・ノワール

美しいガーネット色で、チェリーと赤いフルーツ、ドライハーブのスパイシーな風味がアクセントとして感じられる。しっかりとしたタンニンが、果実の凝縮感と調和したワイン。2020ヴィンテージは、DWWA 2021で88ポイントを獲得している。

Brancott Estate Pinot Noir
原産地:マールボロ
ぶどう品種:ピノ・ノワール
味わい:赤・辛口・フルボディ
参考小売価格:1946円(税込)

ブランコット・エステート チョーズン・ロウ マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン 2015

手作業でつくられた限定ワイン。ブランコット・エステートのヴィンヤードの中でも、厳選された一角(チョーズン・ロウ)で栽培した果実のみを用いている。2015ヴィンテージのアルコール度数は14.5%となっており、糖度の高いぶどうであることがよくわかる。ブランコット・エステートが表現する、究極のソーヴィニヨン・ブランを味わいたい人におすすめの1本だ。『デキャンター(Decanter)』『ワイン・スペクテイター(Wine Spectator)』『ワインエンスージアスト(Wine Enthusiast)』などの信頼されるワイン専門誌で、高い評価を得ている。

Brancott Estate Chosen Rows
原産地:マールボロ
ぶどう品種:ソーヴィニヨン・ブラン
味わい:白・辛口
参考小売価格:9515円(税込)

ブランコット・エステート レター・シリーズ B マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン 2018

特別な年にのみつくられる、厳選されたヴィンヤードの高品質な果実を使用した「レター・シリーズ」。ブランコット・エステートの表現するテロワール、そして技術を堪能することができる。トロピカルな風味やフレッシュシトラスの香りの奥に、コクのある味わいが表れる。料理との相性もよく、特にモエギイガイやサーモンと相性がよい。

Brancott Estate Letter Series B Sauvignon Blanc
原産地:マールボロ
ぶどう品種:ソーヴィニヨン・ブラン
味わい:白・辛口
参考小売価格:3630円(税込)

ブランコット・エステート レター・シリーズ T マールボロ ピノ・ノワール 2017

アメリカで開催されている「クリティクス・チャレンジ・インターナショナル・ワイン・コンペティション(Critics Challenge International Wine Competition) 2019」では、ゴールドを獲得。深みのあるガーネットの美しい色合い、滑らかで豊かな味わいを特徴とする。早飲みタイプだが、セラーで6年ほど熟成させることで、より複雑で芳醇な味わいを楽しめる。シカやイノシシ、カモといった脂肪分の少ない肉と非常によく合うワイン。

Brancott Estate Letter Series T Pinot Noir
原産地:マールボロ
ぶどう品種:ピノ・ノワール
味わい:赤・辛口・‎ミディアムボディ
参考小売価格:4356円(税込)

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ