ブルゴーニュワインの概要
フランス東部の内陸に位置するワイン産地。フランスが誇る世界的に有名な大銘醸地で、南西部のボルドー地方と並び称される。ブルゴーニュワインは力強さの中に繊細さがあるワインの王と例えられている。
地方名としても知られるが、赤、白、ロゼワインの地域AOCでもある。
大きく分けて6地域に分類される。最北に位置するのはシャブリ地区で、辛口白ワインの代表的産地である。ディジョン市の南部コート・ドール(黄金の丘)と呼ばれる地域は、コート・ド・ニュイ地区、コート・ド・ボーヌ地区に分けられ、いずれも最高級ワイン生産地である。その南はコート・シャロネーズ地区、マコネー地区、ボージョレー地区がある。
ワイン作りはブドウ農家が瓶詰までを一貫して行う事が多く、このスタイルのつくり手のことをボルドーのシャトーに対しブルゴーニュでは「ドメーヌ」と呼ぶ。「ドメーヌ」に続けて生産者の名前がラベルに記載される。
ちなみに広域AOCについては近年見直しが図られ、「ブルゴーニュ・ガメイ」や「コト―・ブルギニヨン」など新しいAOCも誕生してきている。そのため、伝統に縛られたワイン造りのイメージであったブルゴーニュでも、新しい可能性を追求するような動きが出てきている。
おすすめのブルゴーニュワイン
ブルゴーニュワインで押さえておきたいおすすめワイン/ワインジャンルは次のとおりだ。
・シャブリ
小さな牡蠣の化石を含むキンメリジャン土壌で栽培されたシャルドネを使ったドライな名醸ワイン。ブルゴーニュの中でも北側にあるシャブリ村でつくられる。ここは1億5000万年前は海の底で、その地層は貝殻の化石が混じった石灰質のキンメリジャンという土壌となっている。そのため、シャブリはミネラル感が豊富で、魚介類との相性が抜群だ。また、冷涼な土地で育ったぶどうを使うため、酸味のある味わいでスッキリしている。
・ジュヴレ・シャンベルタン
コート・ド・ニュイ地区のなかでも代表的なAOCでつくられる赤ワイン。かの有名なナポレオン・ボナパルトが好んで飲んだということから、ブルゴーニュの王や王のワインと呼ばれることもある。遠征には必ずジュブレ・シャンブレタンを持ち込み、それ以外の酒は飲まなかったとの逸話が残っている。このワインはしっかりとした骨格を持ち、熟成によりさらに可能性を広げる。
・ヴォーヌ・ロマネ
8つのグラン・クリュを擁し、世界的に高い知名度を持つAOC。ぶどう栽培に非常に恵まれたテロワールを持つがゆえに、「ブルゴーニュの丘の中心に輝く宝石」や「神に愛される村」などと称えられる。「ヴォーヌには平凡なワインなどありはしない」と言うが、中でもロマネ・コンティは「世界最高峰の赤ワイン」と言われ価格が高騰する。
・ムルソー
コート・ド・ボーヌに位置するブルゴーニュを代表するシャルドネ主体の白ワインの一つ。1970年代ごろから評価が高まり始め、1980年台前半にアメリカのシャルドネブームでその人気は爆発。ムルソーの地位は一気に高まった。石灰岩に覆われた粘土の割合が高い土壌で育ったぶどうを使用しており、豊満なボディとエレガントな香りが特徴的だ。
・マコン
力強く、さわやかな風味の白ワインを生み出す産地。主な栽培品種はシャルドネで、シャルドネの故郷と呼ばれることもある。ここでつくられるワインはカジュアルな辛口のテーブルワインが人気で、比較的コストパフォーマンスに優れ、バランスが良いため料理と合わせやすい。通常のマコンよりも上質なものもあり、マコン・ヴィラージュと呼ばれている。
・ボジョレー
ガメイを使ったチャーミングな赤ワインを生み出す産地。日本で毎年解禁が待ちわびられているボジョレーワインの新酒であるボジョレー・ヌーボーが特に有名だ。ボジョレーのワインは基本的には早飲みタイプのものが多いが、ボジョレーよりも格上のAOCであるボジョレー・ヴィラージュのワインの中には熟成が可能なしっかりしたタイプもある。
・ブルゴーニュ・パストゥーグラン
単一品種がメインのブルゴーニュ地方において、例外的にピノ・ノワールとガメイとのブレンドによるワイン。ピノ・ノワールとガメイの2種類のぶどうを、1:2程度のブレンド比率で使っており、ワイン法に従って一定の製法でつくられている。著名なつくり手のものでもリーズナブルな場合が多く、リリース直後でもおいしく楽しめる。
・クレマン・ド・ブルゴーニュ
ブルゴーニュ地方でつくられる発泡ワイン。熟成期間は9ヵ月程度だが、シャンパンと同様に瓶内二次発酵でつくられる。辛口ですっきりとした味わいのものが多い。シャンパンに引けを取らない品質ながら、その価格はシャンパンの半分程度なのが魅力だ。
注目のワイナリー
星の数ほどの生産者の中でも、誰もが知る有名ネゴシアンと、特徴的なドメーヌをいくつか挙げてみよう。なお、原料のぶどうは買い付けるがワインの生産は自社で行う生産者をネゴシアン、ぶどうの栽培から生産までを一気通貫で行う生産者をドメーヌという。
・ドメーヌ・ロマネ・コンティ
ロマネ・コンティは、特級(グラン・クリュ)に格付けされたおよそ1.8haの畑で栽培されたぶどうからつくられる。栽培されているのはピノ・ノワール種。小さな畑のため、収穫量も少なく、生産されるワインは年間4000~7000本程度だ。
稀少性が高いため、世界で最も高値で取引されるワインとして有名。「飲むより語られる事の方が多いワイン」とも言われている。
・ルイ・ジャド
ボーヌを代表するネゴシアンでありながら、240haの自社畑を所有して堅実かつ謙虚な姿勢で畑に向き合い続けるドメーヌでもあるワイン生産者。その魅惑的なワインはファンを魅了し続ける。
・ルイ・ラトゥール
200年以上の歴史を持つ優良生産者で、ブルゴーニュでクラン・クリュを所有する著名なドメーヌ。ネゴシアンとしても高い知名度を誇る。コルトン・シャルルマーニュの生みの親としても知られ、「ブルゴーニュのシャルドネ」を当たり前にした立役者。ネックラベルの塔のラベルが特徴的。
・ルロワ
高齢ながら若者以上に活力をみなぎらせた女性のつくり手であるマダム・ルロワの指揮の下、一貫して凛としたワインをつくり続ける名門。その評価はドメーヌ・ロマネ・コンティに唯一肩を並べると評されるほど。
・クロード・デュガ
ジュヴレ・シャンベルタンを代表する生産者。そのワインはわずか6haの所有畑から生産され、熱狂的なファンが多く、生産量も多くないため、毎年取り合いのようになる。凝縮感とやさしさを併せ持つ味わいで、パーカーポイント100点満点を獲得している。
・ジョセフ・ドルーアン
130年以上もの間、ボーヌの中心部で家族経営を続けるワイナリーで、今では偉大な生産者の1つに数えられる。マルキ・ド・ラギッシュのモンラッシェなどが有名。
・フィリップ・パカレ
自然派ブルゴーニュワインの代表的生産者。DRCからの誘いを蹴ってまで、自分の強固な信念のもと自然に寄り添うワインをつくり続けてきた。
気候・土壌
基本的な土壌は、1億5千万年前に粘土・泥灰土・石灰岩の沈積によってできた土壌と、さらに古い2億5千年前に遡る花崗岩・溶岩・片麻岩などによって構成された下層土壌からなっている。
地殻に働く力によって地層が押し曲げられる褶曲という現象によって出来た地層の上にあるため、わずかな場所の違いでもその土壌成分が大きく異なり、同じ村や同じ畑の中でも土壌が多様性に富んでいる。また、ブルゴーニュには「クリマ」と呼ばれる独特の区画管理が存在する。土壌の条件ごとに緻密に区画管理され、小さな区画がモザイク状に入り組んでいる。
気候的には半大陸性気候であり基本的に夏は暑く、冬は冷え込む。ただし北緯46度のボージョレーから北緯48度のシャブリまで細長く広がる産地であるため、場所により気候は異なり、南部の方は北部よりも温暖だ。
主なぶどう品種とそれぞれの特徴
ブルゴーニュ地方のワイン構成比は、白ワインが59.5%、赤ワインが約33.8%、クレマン(発泡性ワイン)6.7%である。ブドウ耕作面積は27,000ヘクタールで、その中に100のAOC産地を有し、その内訳は33のグラン・クリュAOC、44の村名AOC、23の地域名AOCである。ブルゴーニュワインの特徴は、ほとんどが単品種でワインが造られることにある。赤はピノ・ノワール種が主流、ボージョレーではガメイ種がメイン品種だ。白はシャルドネ種が主流、一部でアリゴテ種が使用される。
・ピノ・ノワール(赤ワイン用)
ブルゴーニュの赤ワインを代表する品種。ブルゴーニュ地方で発見された14世紀ごろの文献にピノと呼ばれるぶどうの樹が記されており、このことからピノ・ノワールはブルゴーニュが原産地であると考えられている。高貴な果実味とエレガントな酸味、ガーネット色の外観が特徴。比較的日当たりのよい冷涼な地域を好む。単一品種でワインがつくられることが多く、かの有名なロマネ・コンティもこのぶどう品種を100%使用している。
・シャルドネ(白ワイン用)
今や世界中で栽培されている白ワイン用の品種だが、ブルゴーニュのシャルドネはキリリとした酸味が特徴だ。シャブリに使われるのが有名。シャブリ村で作られるシャルドネは、牡蠣の化石を含む石灰質のキンメリジャン土壌で育っており、ミネラル分が非常に豊富だ。
・ガメイ(赤ワイン用)
ボジョレー地区でメインに使われる黒ぶどう。世界中でつくられるガメイの半分以上がボジョレーで栽培されている。なお、ボジョレー・ヌーボーはガメイのみを使用することがワイン法で定められている。果実味が豊かで、タンニンは少なく、早飲みタイプのワインに適している。イチゴのようなチャーミングな香りが特徴的。
・アリゴテ(白ワイン用)
すっきりとした味わいと品の良い酸味が特徴の白ブドウ。18世紀にブルゴーニュで最初に栽培された記録が残っている。その栽培面積はブルゴーニュ全体の6%ほど。しかし、ブルゴーニュではシャルドネよりも一般的で、家庭ではアリゴテが日常的によく飲まれている。AOCブーズロンではアリゴテのみの使用が認められる。また、発泡ワインのクレマン・ド・ブルゴーニュに使われる。
当たり年/ヴィンテージ
ロバート・パーカーのヴィンテージチャート によると、96点以上(まれに見る出来栄え)を獲得した当たり年のヴィンテージは次のとおり。
ブルゴーニュ > コート・ド・ニュイ 2015年、2010年、2005年
ブルゴーニュ > コート・ド・ボーヌ 2005年
ブルゴーニュ > 白全般 2014年、
ブルゴーニュ(地域)> ボージョレー 2009年
格付け
特異な多様性からブルゴーニュワインの格付けは畑の単位で行われる。グラン・クリュ(特級畑)、プルミエ・クリュ(1級畑)、村名クラス、地域名クラスの4つの格付けカテゴリーが存在する。
高名で歴史的な畑はグラン・クリュに区分され、ラベルに畑名が大きく表示される。グラン・クリュのワインはブルゴーニュ全体の生産量の4%くらいしかなく、非常に希少。その一つとして、ロマネ・コンティが有名だ。
村の中で地質・地形・位置の良さで1級に格付けされると、村名と畑名、あるいは村名とプルミエ・クリュと表示される。プルミエ・クリュに格付けされるワインは、ブルゴーニュ全体の生産量の10%くらいとなる。格付け上グラン・クリュの後塵を拝しているが、中にはグラン・クリュを超えるワインも少なくない。
これらに属さない良質なワインを造る村の畑は村名が表示される。生産量は36%ほどで、3000〜1万円の価格帯で入手できる。
それにも属さない広域のAOCは、地域全域に渡るものと、ボジョレーなど地区に限定されるものがある。
ワインの歴史
ローマ帝国による侵略が始まった紀元前52年ころからワインの生産が始まったブルゴーニュ。当時のブルゴーニュはガリア地方と呼ばれていたが、このころにはすでにぶどうの樹が植えられていた。ガリアのワインとしてローマの風刺詩にも出てくる。
ローマ帝国では日々の食事にワインが欠かせなかったこともあって、ブルゴーニュは4世紀には名醸地としての名声を確立。10〜11世紀になると、修道院の修道僧が聖餐式用のワインづくりに取り組むようになり、ぶどうの栽培は発展して行った。
その後、ブルゴーニュ公国となり外交にワインが使われるようになったことで、14世紀後半より大きくその品質を上げ、ヨーロッパ全土に知られる存在となった。ブルゴーニュのワインは上流階級の間で愛飲されるようになり、宮廷や教皇庁にまで普及した。
15世紀にはフランス王国に併合され、公国の繁栄は終わる。17世紀になるとルイ14世の主治医が治療にブルゴーニュの古いワインを用いたことをきっかけに、宮廷内でブルゴーニュワインが流行り、同時期に貴族による畑の取得が広がった。
19世紀になると、ネゴシアン制度が発展。一時期はネゴシアンがワイン生産の中心となる時代が続くが、20世紀前半ごろからドメーヌも活躍し始める。1970年代にはドメーヌによるワイン生産は全体の5%に過ぎなかったが、現在では80%程度にまで増えている。
ブルゴーニュの歴史はこのように長きにわたるが、その中でぶどう畑は1000以上の多くのクリマ(区画)に細分化されてきた。それは、フランス革命により、共和国政府が協会からぶどう畑を没収したのに端を発している。
1935年には小さな優良クリマ(区画)がAOCとして認定されている。これらのクリマは2015年にユネスコの世界遺産に認定された。
なお、ボジョレー地区についてはブルゴーニュ公国時代もフランス王政の管理下にあったため、異なる歴史を持つ。