マルベック

マルベックとは――味の特徴、おすすめワイン、主な産地をチェック

   

マルベック(Malbec)とは、フランス南西部原産の赤ワイン用ぶどう品種。フランス南西部カオール地区では主要品種として使用されており、「黒ワイン」と呼ばれるほど色濃く、タンニンのしっかりしたワインが生産されている。アルゼンチンワインを代表するぶどう品種で、アルゼンチンは世界のマルベックの栽培面積の75%以上を占めるといわれており、世界一を誇る。

プルネラールとマドレーヌ・ノワール・デ・シャラントの自然交配で生まれたとされている。マドレーヌ・ノワール・デ・シャラントはメルローの片親でもあり、マルベックとメルローは片親違いの兄弟ということになる。

意味/品種

マルベックからはインクの黒に近い濃い色をしたワインがつくられることがよく知られている。フランス国内でのシノニム(別名)は「コット」(現地発音ではコー)、また南西部カオール地区では「オーセロワ」とも呼ばれる。

特徴

実が小さくて果皮が厚く、タンニンが豊富で、濃い色調のワインが生まれる。栽培には日照を要し、温暖な土地を好み、涼しい気候では育ちにくいという特徴がある。かつてはフランス全土で栽培されていたが、冷害や病気に弱いことから衰退し、ボルドーでは次第にカベルネやメルローへの植え替えが進んだ。今ではフランスの南西地方とボルドー地方で補助品種として少量栽培されている。

南西地方のカオール地区で作られるマルベックは、プラムやブラックベリーやブルーベリーなどの黒い果実の香りとタバコ、干しぶどうなどの複雑な芳香が特徴の濃厚な果実味のワインになり、パワフルで荒々しい輪郭もあるが、熟成により身の引き締まったものになる。カオール地区ではマルベック単一のワインが多いが、30%までメルローとタナアッサンブラージュすることができ、爽やかでしっかりとした味わいのワインとなる。石灰質の土壌では、カオール地区の中でも最も豊かで熟成能力のあるワインとなる。

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現在、フランスではカオール地区でメインに使われているほか、ボルドーブレンドに複雑さを加える役割をなし、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドされる。フランス西北のロワール地方ではカベルネ・フランガメとブレンドされることも多い。

同時に「マルベックといえばアルゼンチン」といわれるほどアルゼンチン国内における産出量が多く、アルゼンチンでは良質のワインがつくられている。これには、アルゼンチンの強い日光と寒暖差が作用している。

Malbec Flight | Remedy Wine Bar

この他にもチリアメリカ、カナダ、北イタリアニュージーランド南アフリカなどで主にブレンド用として栽培されている。ポリフェノールが多いことでも知られ、今後さらに栽培が増えることも期待される。

味わい/香り

数ある赤ワイン用ぶどう品種の中でも個性的な品種である。小粒で果皮の色が黒っぽく、タンニンが豊富でポリフェノール含有量が最も高くも程よくあり、バランスが良い。若いワインはブラックベリーの香りやスミレの香りと表現され、果実の香りというよりも花を連想させる強く個性的な香りがある。5年以上熟成させると鉄分や獣香といったマルベックらしい風味が感じられるようになる。

フランスのカオールでつくられるワインは収れん性が高めで濃厚なタンニンと凝縮感のある果実味が特徴だが、最近では力強いものだけではなくエレガントなワインもつくられている。

フランス南西部原産のマルベックだが、アルゼンチンの風土によく合って成功したことから、アルゼンチンがその魅力を世界に広めたといえる。日照量が豊富で、乾燥したアルゼンチンの標高の高い畑で栽培すると、フェノールがよく熟し、豊かな果実味としなやかなタンニンを備えるワインに仕上がる。

特にアンデス山脈のふもとにあるメンドーサ州のルハン・デ・クヨ地区のものは高地栽培として有名で、メンドーサは「マルベックの都」といわれるようになった。

アルゼンチンのマルベックは、しっかりとした凝縮感、芳醇な果実味で、酸とタンニンが柔らかくまろやかな味わいとなっている。昼夜の温度差から引き締まった酸とスパイシーなニュアンスも感じられる。カオール産のものと比べると穏やかで若いうちから楽しむことができる。

マルベックには、肉料理が良く合う。シンプルに調理した肉料理との相性が良く、バーベキューに合わせることができる。

フランスのカオールワインには、郷土料理であるカモのコンフィがおすすめだ。赤身の強いカモ肉を低温のオイルでじっくりと煮たコンフィ・ド・カナールは、フランス南西部で定番の料理だ。また、同じくフランス南西部の郷土料理であるガチョウやカモの肉、ソーセージと白いんげん豆を煮込んだカスレや、仔羊のローストとよく合う。

牛肉の消費量が多く、穀物や野菜より牛肉の方が安いといわれているアルゼンチンでは、アサードという大きな牛肉の塊に塩を擦り込んで炭火で焼く肉料理が有名だ。シンプルな味付けのステーキや、ビーフシチューやハンバーグなど牛肉料理とマルベックの相性は抜群だ。また、軽やかな味わいのマルベックは、肉じゃが、すき焼き、焼き鳥といった和食と楽しむこともできる。

マルベックを使用したおすすめワイン

・カオール プレスティージュ・デュ・マルベック/シャトー・ラマルティーヌ(フランス・カオール)
シャトー・ラマルティーヌの畑は、ロット川により長年かけて自然に形成された4段のテラス(段々畑)で、テラスによって土壌が異なる。このワインには粘土シリカ土壌の2段目と粘土石灰岩質の3段目のテラスのぶどうを使っている。マルベックを80%、メルローを20%使用しており、2つの品種は一緒に仕込み、抽出しすぎないようにステンレスタンクで短めに約15日間発酵させている。美しいチェリーレッドで、上質な果実の複雑な香りが感じられる。まろやかなタンニンで肉付きが良く、エレガントなラマルティーヌのワインをリーズナブルな価格帯で味わうことができる。

・カオール ガリオッタン マルベック/プルヴィラン・フレール(フランス・カオール)
2年連続金賞を受賞したカオールの黒ワイン。凝縮感のある果実味の中に、きれいな酸味、滑らかなタンニンが感じられる。酢豚や、ジビエ、ラムやビーフのグリル、サラミとよく合う。

・カロ・アルママルベック/ボデガス・カロ(アルゼンチン・メンドーサ)
フランスの名門シャトーであるシャトー・ラフィット・ロートシルトを擁するドメーヌ・バロン・ロートシルトとアルゼンチントップクラスのワイナリーであるカテナによってボデガス・カロが創設された。「アルマ マルベック」はボデガス・カロの10周年を記念してつくられたブランドで、マルベック100%を使用し、アルゼンチンならではの気候と土壌で育ったぶどうの魅力を引き出している。

・クマ オーガニック マルベック/ボデガ・エル・エステコ(アルゼンチン・カファジャテ)
クマは、カファジャテ産のぶどうを主に使用したオーガニックワインのシリーズで、標高1700mの高地で高品質のオーガニックワインを生産している。アルゼンチンの有機認定機関「アルゼンサート」認定の有機栽培ぶどうを使用し、黒いベリー系の果実の香り、熟れた果実とレーズンやチョコレートのような深みのある味わいのワインとなっている。

・カテナ マルベック/カテナ(アルゼンチン・メンドーサ)
所有の区画の良質な畑から収穫されるぶどうをアッサンブラージュしている。70%フレンチオーク、30%アメリカンオークで12カ月熟成しており、複雑で完成度の高い味わいとなっている。すぐに飲んでも楽しめるが、10年から15年の長熟も期待できるワインだ。

・カイケン ウルトラ マルベック/カイケン(アルゼンチン・メンドーサ)
チリのトップワイナリーであるモンテスがアルゼンチンで手掛けるワイナリー、カイケンの自社畑で収穫されたぶどうをブレンドしてつくられるワイン。フレンチオークで樽熟成させたリッチなボディとなっている。凝縮した果実味と穏やかなタンニンの力強い味わいのワインで、アルコール感と酸のバランスが絶妙だ。赤みがかった紫色で、ブルーベリーやブラックベリーの黒系果実の香りに、後からスパイスや樽由来の甘い香り、凝縮感のある果実味と穏やかなタンニンが折り重なり、しっかりとしたストラクチャーを感じることができる。スパイスを使った肉料理やクリームチーズ、甘いデザートとの相性が良い。

主な産地

フランス南西部に近いボルドー地方では、ブレンドが認められている6種の赤ワイン用品種の1つになっているが、現在、ボルドーでは補助品種として使用されており、栽培量は少ない。

かつてはこの地方でメインの品種であったが、1950年代に発生した霜による大打撃を受け栽培が一時衰退し、現在フランスでは同じく南西部のカオール地区で最も多く栽培されている。

カオール地区は、カオールの町を中心に、ロット川の渓谷地帯に広がるエリア。ボルドーより雨が少なく、秋には暑く乾燥した「オタン」と呼ばれる風が吹くため、ぶどうがよく熟すことができる。カオールでこの種をメインにつくられているワインは「ヴァン・ノワール」=「黒ワイン」と呼ばれる。この地でのワインづくりは古い歴史があり、ガロ・ローマ時代からぶどう栽培が行われており、カオールは中世ローマ法王が愛飲していたワインだった。

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この品種が補助的役割を果たしているワインには、南西フランス地域ではベルジュラック地方のペシャルマン、コート・ドゥ・デュラス、ビュゼなど多数ある。

一方、アルゼンチンでは、1860年代にフランスから持ち込まれたマルベックは次第に隆盛を極め、フィロキセラや害虫の被害も受けずに栽培されてきた。特にこの品種の栽培に力を入れていて、アルゼンチンの完熟したマルベックからつくられるワインは果実味豊かで濃厚な風味があり、長熟の可能性を秘めている。

中でも、南アメリカ最大のワイン産地であるクージョ地方の州都メンドーサがマルベックの産地として有名だ。1855年にメンドーサからブエノスアイレスまで1100kmを結ぶ鉄道が開通したため、メンドーサのワインを首都や主要都市で販売する素地ができた。1902年にはアルゼンチンで最初の醸造学校がメンドーサに誕生して、ボルドー系の高貴品種の栽培とフランスの醸造技術の導入によってワインの品質が向上した。

1990年代に入ってからは市場が開放されたため、海外の生産者が進出し、最新の栽培や醸造技術を持ち込んだ。日照に恵まれ降雨量の少ない気候で、アンデス山脈の雪解け水を利用したかんがいシステムなどの技術が伝統的な生産者の間に広がったことで、アルゼンチンワインの品質を向上させることになった。

アルゼンチンは乾燥していて日照量が多く、昼夜の気温差が大きいため、ぶどうは病害の心配がなく健全に育つ土地だ。農薬の使用量も一般的には少なくて済み、フルボディの赤ワインの評価が急速に上がった。

マルベックが今やアルゼンチンを代表するぶどう品種であることは、今や世界中のワイン好きが知るところだ。

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