INDEX
意味/品種
サンジョベーゼ(Sangiovese)とは、イタリア中央部トスカーナ地方原産の赤ワイン用ぶどう品種。イタリア全土で最も普及している品種で、特にトスカーナ地方を代表するキャンティ地区、キャンティ・クラシコ地区の主要品種として有名だ。
最近のDNA鑑定により、この品種の先祖はチリエジョーロとカラブレーゼ・ディ・モンテヌオヴォではないかとされている。名前はローマ神話の主神の「ジュピターの血」に由来すると言われる。通説では、古代ローマ時代にはエトルリア人によって栽培されていたとされるが、史実では酷似する名前の品種がトスカーナ地方で16世紀頃から栽培されたとある。
トスカーナ地方で広く知られるようになったのは18世紀初頭で、キャンティ・クラシコ地区の有名ワイナリー、バローネ・リカーゾリのレシピでは19世紀から主要な原料であった。
特徴
果皮が薄いため、秋に降雨が多いと腐敗菌に侵されやすくなる。
トスカーナの粘土質や石灰質の土壌が最も栽培に適しているが、栽培土壌をあまり選ばない多産品種のため、近年では世界各地で栽培されており、イタリア起源の品種としては唯一国際的な品種と言える。
ピノ・ノワールと同様に突然変異をしやすいぶどうで、クローン(亜種)が多い。粒の小さいサンジョベーゼ・ピッコロ種と粒が大きくて果皮が厚いサンジョベーゼ・グロッソ種の系統に分かれ、地域によって呼び方もさまざまだ。サンジョベーゼ・ピッコロはキャンティ地区では「サンジョベーゼ」と呼ばれ、サンジョベーゼ・グロッソはモンタルチーノ地区では「ブルネッロ」、モンテプルチャーノ地区では「プルーニョロ・ジェンティーレ」という別名を持っている。
サンジョベーゼは単一で醸造すると、酸とタンニンがしっかりとした味わいのワインになる。すぐに飲めるものから長期熟成させた高級ワインまで幅広いスタイルのワインがつくられている。
イタリアで最も栽培面積が広いサンジョベーゼ系ぶどうは、果実味豊かでフレッシュなものから重厚な長期熟成型のものなど、果皮の色の違いを含めて少なくとも88種以上のクローンがある。
その1つサンジョベーゼ・グロッソ(ブルネッロ)は、濃密な超熟ワインであるブルネッロ・ディ・モンタルチーノやヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノの原料として知られる。
主な産地
サンジョベーゼの主要産地は、原産地であるトスカーナ州だ。トスカーナ州以外では、エミリア・ロマーニャ州、ウンブリア州やマルケ州などでも栽培されている。スーパータスカン(スーパートスカーナ)と呼ばれるVDT(テーブルワイン)やIGT(地酒)クラスの高品質ワインには、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなど国際品種とのブレンドやサンジョべーゼ100%のワインもある。
フランスのコルシカ島ではニエルッキオと呼ばれ、北部のパトリモニオなどでニエルッキオ主体のワインがつくられている。また、イタリア系移民の多いアメリカやアルゼンチンなどでも栽培されている。
さまざまな地域で栽培されているサンジョベーゼだが、名産地として名高いトスカーナ州の産地を見ていこう。
キャンティ
トスカーナ州のキャンティは、サンジョベーゼを主体とする最も有名なワインだ。フィレンツェとシエナの間に広がる美しい丘陵地帯はキャンティ地方と呼ばれ、香り高い優美なワインが生産される。キャンティ地方でつくられたワインをキャンティと呼んでいたが、人気があまりにも高く、キャンティ・ワインの生産地区をキャンティ地方以外にどんどん拡大し、それらのワインもキャンティと呼ぶようになった。そのため本来の産地であるキャンティ地方は、D.O.C.Gキャンティから独立して、独自の呼称D.O.C.Gキャンティ・クラシコを名乗るようになった。
生産地域が複数県に及び広範囲にわたるため、生産者によってスタイルが異なっている。D.O.C.Gキャンティではサンジョベーゼを70%以上、フィレンツェとシエナの間に広がるD.O.C.Gキャンティ・クラシコはサンジョベーゼを80%以上使用することが定められている。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、トスカーナ州シエナ県モンタルチーノ村周辺でブルネッロを100%使用してつくられる。モンタルチーノ地区は、もともとは軽やかな白の甘口ワイン、モスカデッロの生産地だったが、19世紀末にビオンディ・サンティがつくり始めた長期熟成赤ワインが徐々に成功を収め、イタリアを代表する赤ワイン産地になった。
熟成期間が最低でも5年(そのうち2年は木樽熟成)など、厳しい規定でつくられている。モンタルチーノは比較的若い産地で、生産者のスタイルもまだバラバラだが、当地のワインは長期熟成タイプの高級ワインとして世界的に高く評価されており、イタリアでも「贈答品にはブルネッロ」と言われるほどだ。
ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノ
ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノは、トスカーナ州シエナ県のモンテプルチャーノ周辺で、サンジョベーゼをベースにつくられるワイン。豊かな土の香りとみずみずしさ、まろやかなタンニンのバランスが取れた、優雅で高貴なワインと言われている。
モレッリーノ・ディ・スカンサーノ
トスカーナ州南部のグロセート県では、サンジョベーゼの亜種の1つであるモッレリーノを使ってモレッリーノ・ディ・スカンサーノが生産される。トスカーナ南部海側の海洋性気候の影響を受けるため、内陸と比べて酸の柔らかい果実味に富んだワインとなる。
味わい/香り
非常に濃いルビー色で、強い酸味とやや強い渋みがある。香りがやや弱いとされるが、イチゴやサクランボなどのフレッシュな果実香、茶葉やスミレのフローラル香、スパイス香を持つ。十分に熟成すると酸味が弱まって、熟したプラムなどの果実の香りが強まり、コクのあるワインになる。
この品種は晩熟で、暑い年には濃厚でアルコール分が高く、長期熟成に耐えるワインがつくられる。冷涼な年には酸が高くタンニンが強くなり、過剰生産では酸がいっそう強められ色が薄くなりがちで早く褐変が始まる。
サンジョベーゼは、土地や生産者によって醸造方法によるスタイルの幅が広いのも特徴だ。一般的にはキャンティは赤みを帯びた外観にサクランボやイチゴなどの香りがあり、フレッシュで豊富な果実味が感じられる。バローロやバルバレスコと並び「イタリアワインの女王」と呼ばれるブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、サンジョべーゼ・グロッソ100%でつくられている。通常のサンジョべーゼと比べると粒が大きく果皮が厚いため、より深みがあり力強さのあるワインに仕上がる。黒みがかかった濃い赤色で、スミレやプラムのような香りがあり、長期熟成によりスパイスなど複雑な香りを伴ったエレガントなワインになる。
サンジョベーゼのワインに合う料理
サンジョベーゼは、やはりイタリア料理との相性が良い。イタリア・フィレンツェ地方の料理「ビステッカ」やトスカーナ地方の羊乳チーズ「ペコリーノ・トスカーノ」、パテやハムとよく合う。また、トマトソースを使った料理との相性が良く、パスタやロールキャベツ、ラザニアなどと合わせられる。赤身のお肉のステーキに、肉じゃがやすき焼きなど和食との相性も良い。
サンジョベーゼを使ったおすすめワイン
モンテリーベロ・サンジョベーゼ・デル・ルビコーネ/モンテリーベロ
サンジョベーゼ主体の赤ワイン。スミレの香りに、爽やかな果実味がある。心地良いタンニンと、余韻にはほろ苦さが感じられる。マグナムボトルも手軽な価格帯で販売されており、大人数でも楽しめる。
ヴェンティテッレ・キャンティ/ゾーニン
イタリアのテロワールを表現したワインを生み出しているゾーニン。ブランド名のヴェンティテッレは、ヴェンティ(20、イタリア全20州を表す)とテッレ(大地)を掛け合わせたものだ。このワインはトスカーナ州のサンジョベーゼを主体とし、チェリーなどの果実味と酸味、タンニンのバランスが取れたワインとなっている。
ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノ/ラ・ブラチェスカ(アンティノリ)
ラ・ブラチェスカは、イタリアの名門アンティノリ家が1990年に始めたワイナリー。このワインはトスカーナの銘醸地モンテプルチャーノでつくられている。ブラックチェリーやブラックベリーなどのアロマにシナモンのニュアンスがあり、濃い果実味と酸、甘味のあるタンニンが見事に調和している。
キャンティ・クラシコ・アマ/カステッロ・ディ・アマ
カステッロ・ディ・アマは、キャンティ・クラシコが「早く飲める安いワイン」だった時代に、5年経ってもおいしく飲める、熟成するキャンティ・クラシコをつくるための努力を重ねた。収量をそれまでの半分程度に制限し、畑の特徴を活かすため、ブルゴーニュのように「クリュ」ごとに収穫、醸造するなどの手法を試みた結果、カステッロ・ディ・アマのワインは世界的に高い評価を得るようになった。カステッロ・ディ・アマのフラッグシップワインとして、サン・ロレンツォがあるが、サン・ロレンツォが高樹齢のぶどうを使用するのに対し、キャンティ・クラシコ・アマは同じ畑の若樹のぶどうを使用している。そのため、よりフレッシュなスタイルで爽やかなワインに仕上がっている。
ブルネッロ ディ モンタルチーノ/フリーニ
フリーニ家のワイナリーは、ブルネッロの街に近い歴史的な生産地域に位置している。厳選して収量を抑えた完熟ぶどうを使用し、歴史あるセラーでモンタルチーノの伝統とも言えるスラヴォニア産のオークの大樽を使い、ワインを醸造している。このワインは、黒いベリー系の果実香と甘いスパイスのニュアンスに、凝縮感のある果実味、熟成由来のスモーキーさが特徴。洗練されていて、かつ厳格さもありフィネスを感じられる。