イタリア北東部のマルケ州は、アドリア海に面する風光明媚な地域だ。エビなどの海産物をはじめとした、食の宝庫として知られる。こうした郷土料理に欠かせないのがワインだ。この地域では、古代ローマ帝国の昔からワインがつくられている。

主なワインの生産地は、海岸の州都・アンコーナ南方に広がるコーネロ、南部のアペニン山脈近くの都市セッラペトローナでつくられるヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ、内陸部のイエージやマテリカなどがある。

イタリアには数多くの固有品種ぶどうがあるが、この地域も例外ではない。ヴェルナッチャ・ネーラ、ヴェルディッキョ、パッセリーナ、ペコリーノといった品種はマルケ州でのみ栽培され、それぞれに独自色の強いワインの原料となる。
中でも、ヴェルディッキョによる白、コーネロによる赤は世界的に有名。2年熟成タイプのリゼルヴァワインが、独自にD.O.C.G.指定されている地域も多い。

【マルケ地区の生産地区分】

<コーネロ>
マルケ州の州都・アンコーナの南方にあるコーネロ山の丘陵地帯。モンテプルチアーノ種を主原料とする辛口の赤がメイン。なお、この地域がモンテプルチアーノ種の栽培の北限となる。リゼルヴァはD.O.C.G.に昇格しているが、長熟以外のワインもつくられている。

<セッラペトローナ(ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ)>
マルケ州中央部、マチェラータ県のセッラペトローナやベルフォルテ・デル・キエンティなどを含む地域。固有品種ヴェルナッチャ・ネーラによる赤のスプマンテ(発泡ワイン)、辛口のセッコ、甘口のドルチェ両方がつくられている。

<イエージ(ヴェルディッキョ・ディ・カステッリ・ディ・イエージ)>
アンコーナから20kmほど内陸、イエージからクープラモンターナの街にわたる平野部。固有品種ヴェルディッキョによる白は、同じくヴェルディッキョによるワイン生産が盛んなマテリカと比べると、いくぶん柔らかな味わい。
南部のアピロ、プラモンターナではより上質なワイン(クラッシコ)がつくられる。

<マテリカ(ヴェルディッキョ・ディ・マテリカ)>
中央部、ウンブリア州に近いマチェラータ県の山岳地帯にある。イエージと同じくヴェルディッキョ種を主原料とする辛口の白だが、こちらはミネラルが豊富に含まれ長熟が可能なタイプ。

<アスコリ・ピチェーノ(ロッソ・ピチェーノ)>
マルケ州南端。モンテプルチャーノ種またはサンジョヴェーゼ種を主原料とする辛口の赤。
サンジョヴェーゼ種によるものは、ロッソ・ピチェーノ・サンジョヴェーゼと呼ばれる。コーネロとはモンテプルチャーノ種が使われる割合が異なる。

<オッフィーダ(テッレ・ディ・オッフィーダ)>
南部のオッフィーダやリパトランソーネなどの一部。2011年にD.O.C.G.に昇格した。
モンテプルチャーノ種を主原料とした辛口の赤、固有品種パッセリーナやペコリーノによる辛口の白がある。