南アフリカ共和国では新世界としては比較的古く17世紀半ばからワイン生産が行われてきた。1994年のネルソン・マンデラ政権下でワイン輸出市場が開放された後、世界的の主要ワイン生産国となった。アフリカ大陸の最南端、西ケープの喜望峰周辺でぶどうの栽培が行われている。
2015年現在、ワイン生産量は世界8位。この20年間でワインの海外輸出量が20倍にも増えている。主な輸出先は、ヨーロッパ、ロシア、アメリカなどだ。
ぶどう畑の総面積は約10ha。そのうち55%が白ワイン用のぶどうで、45%が赤ワイン用のぶどうだ。
特徴的な点は、環境に配慮したワインづくりを行っているところだ。1998年より減農薬や減酸化防止剤、リサイクル方法などを定めたガイドラインを制定。20年ほどたった現在では、95%以上のワイナリーがこのガイドラインに沿ったワインづくりをしている。
品質保証とトレーサビリティシステムに加え、2010年からはサステイナビリティを保証するシールを採用し、土地を大切にし、生物の多様性を保護する試みを続けている。
代表的な栽培品種は白のシュナン・ブランで、かつてから「スティーン」というシノニムで親しまれ、辛口から甘口、スパークリング・ワインまで幅広く使われてきた。生産量第2位はコロンバールであり、温暖な地域を中心に多く栽培される。
近年では国際的な競合を視野に入れてヨーロッパ優良品種、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランの人気が高まりつつある。また、以前は白ワインが生産の8割以上を占めていたが、近年では赤ワインの生産が増えつつあり、現状55%が白、45%が赤といったバランスだ。
黒品種ではカベルネ・ソーヴィニヨンや、ピノ・ノワールとエルミタージュを交配して開発された南アフリカ独自のピノタージュ、他にシラー、メルローなどが広く栽培されている。
ワインの特色としては、単一品種のワインとともにブレンドも多くつくられている。ブレンドについては、赤白ともにボルドースタイルのブレンドが主流で、赤についてはその他にローヌスタイルのブレンドもつくられる。
スパークリングは、従来のシュナン・ブランのほかに、シャンパーニュスタイルを取り入れシャルドネとピノ・ノワールを使うつくり手も増えた。醸造方法も、瓶内二次発酵を取り入れた「キャップ・クラシック」が広まっている。
気候は地中海性気候で、ブドウの発育が良好である。海からの風と陽光に恵まれた気候、良質の水や湿度の少ない土壌は、南フランスにも似てブドウ栽培に適している。ワイン生産の中心地は西ケープ州で、よく知られる産地はステレンボッシュとパールで、ワインランドとも呼ばれる。「ケープ・ドクター」と呼ばれる南東からの乾燥した風は、ブドウの腐敗とウドンコ病を防ぎ、防虫剤等の使用を最小限に抑えることができる。
南アフリカの主なワイン産地
南アフリカのワイン産地は、比較的冷涼で四季のある西ケープ州に多い。西ケープ州はコースタル・リージョン地域、ケープ・サウス・コースト地域、ブレード・リヴァー・ヴァレー地域などで構成されているが、これらの中でも特にコースタル・リージョン地域とケープ・サウス・コースト地域に集中している。
●コースタル・リージョン地域
・ステレンボッシュ
17世紀半ばからワインの生産地として大きく振興してきた土地で、ステレンボッシュ大学ではワイン醸造についての専門知識を学べる。
カベルネ・ソーヴィニョンを中心に、赤ワインの生産が半分以上。ワイン・ツーリズムの先駆けとしても有名な場所だ。
・パール
歴史的にフランス人が多く入植していたことから、優れたワイン産地として有名。かつての協同組合KWV(現在は私企業)のお膝元として知られ、高品質なシャルドネやシラーを生み出す。
・ティルバッハ
山々に囲まれたミクロクリマが発生し、多様な土壌を持つ面白い地域であることから、意欲的な小規模生産者が多い土地だ。地形が独特の冷却効果を持ち、今後の発展が楽しみな場所だ。現在はシュナン・ブランの生産が中心。
・フランシュック
フランス系の移民が多く、フランス文化が色濃く残る街だ。ヨーロッパ系の品種が多く植えられ、スパークリング・ワイン「キャップ・クラシック」の名産地として有名だ。
・スワートランド
西ケープ州最大の地区。かつて土地が安かったため、ワイン業界と一線を画す独立志向のワインメーカーが集まっている。スワートランド・インディペンデント(S.I.P)という組織が立ち上げられ、伝統や慣習にとらわれないワインづくりに励んでいる。
・コンスタンシア
西ケープ州で最古のワイン産地。ナポレオンが愛飲した「レ・ヴァン・ド・コンスタンス」というデザートワインがつくられた地区として、その名が知られている。南アフリカで最も冷涼な地域なので、それを生かしてシャルドネやソーヴィニヨン・ブランが栽培されている。
・ウェリントン
ヘイウークワ山脈沿いに斜面を利用してぶどうの樹が栽培されており、南アフリカに植えられるぶどうの苗木の85%を提供している。
●ケープ・サウス・コースト地域
・エルギン
平均気温が低く、フランスのブルゴーニュと同じくらい冷涼な土地柄で、良質なぶどうがゆっくり育つ。シャルドネやリースリング、ソーヴィニヨン・ブランなどが栽培され、受賞ワインを数多く排出している。
・ウォーカー・ベイ
南アメリカの高級ワインの産地と言えば、ここだ。南アフリカで最も冷涼な気候のため、シュナン・ブランやピノタージュが多く栽培されている。土壌に粘土質が多く含まれるため、シャルドネやピノ・ノワールも栽培されている。ワイン以外では、ホエール・ウォッチングが有名。
●ブレード・リヴァー・ヴァレー地域
・ロバートソン
ブレード川沿いに広がるブレード・リヴァー・ヴァレーの産地の1つで、栽培はコロンバールがメインだが、最近シャルドネに定評がある産地。カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーも多く、また以前から酒精強化ワインも有名。
・ウスター
ぶどうの栽培面積は南アフリカ全体の20%。生産量は27%で、南アフリカで最大級。
注目のワイナリー
・KWV協同組合として発足したKWV。今では完全に私企業となったが、株主は4500にものぼる農家だ。昔も今も南アフリカのワイン産業において最重要なポジションを占めている。
世界的にも広く輸出され、そのクオリティの高いワインは南アフリカワインのスポークスマン的な役割を担う。
・ポール・クルーヴァー
冷涼な地、エルギンにて家族経営でワイナリーを運営。南アフリカで急速に伸びているワイナリーとして、近年大変高い評価を得ている。
ワインの利益によりその地域住民の生活向上を目指すプロジェクトが成功を収めている。
・セダーバーグ
セダーバーグ地区で5世代にわたって農業に従事。ここ近年のワインの出来栄えは素晴らしく、同社のシラーが「2014シラー・ドゥ・モンド」にて世界一、また同社のブリュットが「2016年版プラッターズガイド」にて最高評価の5つ星を獲得している。
・ニュートン・ジョンソン
最高品質のワインをリーズナブルに提供することをモットーに、その言葉のとおり「クオリティの高いデイリーワイン」として愛されるワイナリー。都会派なイメージのエレガントな味わいが特徴。
・カノンコップ
シモンズバーグ山脈のふもとでワインづくりを続ける、現在4代目の老舗ワイナリー。南アフリカ固有のピノタージュに強いこだわりを持ち、また南アフリカワインの実力を世界に知らしめた立役者ともいえる。
・マン・ヴィントナーズ
コストパフォーマンスに徹底的にこだわるワイナリー。パール地方やステレンボッシュで栽培されたカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネ、ピノタージュなどを使用しており、ヨーロッパでかなり人気が高い実力派ワイナリーだ。
主なぶどう品種
シュナン・ブランやコロンバール、ピノタージュなど、他の国や地域ではあまり見られないぶどう品種が栽培されている。
・シュナン・ブラン(白ワイン用/約1.8万ha)
南アフリカの国宝とも言われるぶどう品種。1655年にフランスから持ち込まれ、南アフリカが世界1位の栽培面積を誇る。その味わいは気候や土壌などのテロワールの影響を受けやすく、南アフリカのものはバナナ、グアバ、パイナップルなどの南国の果実香を持つワインに仕上がる。若いうちに飲むのに適している。
・コロンバール(白ワイン用/約1.2万ha)
シュナン・ブランに次いで南アフリカで多くつくられている白ぶどう品種。単一品種で辛口ワインがつくられることもあるが、シュナン・ブランやシャルドネなどとブレンドされることが多い。リンゴやナツメグなどの甘い香りの中にフレッシュな酸味があり、軽く爽やかな味わいとなる。
・ピノタージュ(赤ワイン用/約0.7万ha)
1925年に南アフリカで誕生した黒ぶどう品種。ピノ・ノワールとサンソー(エルミタージュ)の交配によって生まれたため、双方の名の一部をとってピノタージュと名付けられた。鼻にツンとくるスモーキーな香りの中に、フルーティーな果実香が潜んでいる。味わいは酸味が強く、タンニンがしっかりしている。ブレンドに使われることが多く、ピノタージュが30〜70%ブレンドされているワインのことをケープブレンドという。
他にも、カベルネ・ソーヴィニョン(赤ワイン用/約1.1万ha)やシラー(赤ワイン用/約1万ha)といった国際品種も栽培されている。白ワインについては、ソーヴィニヨン・ブラン(白ワイン用/約0.9万ha)やシャルドネ(白ワイン用/約0.7万ha)への改植が進んでいるという。
当たり年ヴィンテージ
ロバート・パーカーのヴィンテージチャート によると、96点以上(まれに見る出来栄え)を獲得した当たり年のヴィンテージは次のとおり。
南アフリカ > 南アフリカ全域 2015年
(総評)
ロバート・パーカーが南アフリカにおけるヴィンテージ別スコアを発表しだしたのは2005年と比較的最近のことであるが、すべての年が80点台後半以上という高めのスコアとなっており、安定した品質であることがうかがえる。中でも2015年については96点という大変優れた点数がつけられた。
格付け
南アフリカワインは、アメリカに先立ち1973年に制定された原産地呼称制度(WO/Wine of Origin)により管理・規定され、WOワインには品種名と収穫年をラベル表示することと、瓶内二次発酵の発泡酒には「CAP CLASSIQUE」と表示することが定められている。
WOを表記するには、その産地のぶどうを100%使用することが求められる。また、ぶどう品種やヴィンテージを表記するには85%以上使用していることが要求される。
WOには、リージョン(地方)と呼ばれる最も大きい原産地区分の中にディストリクト(地域)があり、その中にワード(地区)がある。リージョンに属さないディストリクトやワード、リージョンとディストリクトに属さないワードもある。原産地は順次認定されている。
リージョンは4つあり、コースタル、ブレーダ・リバー・バレー、オリファンツ・リバー、クライン・カルーである。4つのリージョンとその周辺の原産地は西ケープ州に含まれる。リージョンに属さないいくつかの原産地は北ケープ州にある。その他、東部クワズール・ナタール州で生産される。
なお、自然環境の保護に配慮してつくられたワインには「サステナビリティ認定保証シール」が貼付される。
ワインの歴史
17世紀にオランダ人入植者が南アフリカで最初にワインを造り、その後フランス人入植者が醸造技術をもたらした。南アフリカで初めてぶどうの栽培が始まったのが1655年のことで、その4年後の1659年に南アフリカ初のワインづくりがスタートした。
1761年には甘口ワインがヨーロッパへ輸出されるようになり、フランスやイギリスの王族に好んで飲まれるようになった。
19世紀前半、ナポレオン戦争によりイギリスとフランスとが戦争状態に陥ったことで、フランスのワインがイギリスへ輸出できなくなったため、当時ケープタウンがイギリスの植民地となっていた南アフリカのワインは多くイギリスで飲まれるようになった。その結果、南アフリカワインの生産量はかつての10倍になったと伝えられている。
1886年フィロキセラにより大きな被害を被ったが、1900年に入るとフィロキセラによる害も落ち着きを見せ、ぶどうの生産が過剰となる時期に突入する。これを押し留めるために1918年、「南アフリカぶどう栽培者協同組合」(KWV)が発足し、需給調整機能が働くようになる。
1925年、南アフリカを代表するぶどう「ピノタージュ」が生まれる。ステレンボッシュ大学でぶどう栽培学の最初の教授だったアブラハム・アイザック・ペロード教授が、大学の敷地内にある自宅の庭に植えたのがその始まりとされている。
その後、1960年前後に国内ワイン消費量が爆発的に増加し、シュナン・ブランを使った半甘口ワインが大量に作られた。
1980年代、南アフリカはアパルトヘイト政策への経済的制裁を受け、ワインの輸出が低迷する。
1994年、ネルソン・マンデラ大統領によるアパルトヘイト撤廃に伴い、国際市場を視野に入れた質の向上が行われ、輸出が盛んとなった。