貴腐ワインは、ボトリティス・シネレアという貴腐菌がついた白ワイン用ブドウ品種から造ったワイン。極甘口で芳香豊かなので、デザートワインや食前酒として珍重されている。
ボトリティス・シネレア菌は世界中に分布する病原菌で、農作物に悪影響を与え「灰色カビ病」の原因となる。未熟なブドウ果につくと腐敗を起こすが、完熟したセミヨン、リースリングなどのブドウ果についた場合は好影響をもたらす。
感染により果皮の表面のロウ質が溶けて果粒中の水分の蒸発が促され、果汁の濃縮効果が得られることで糖分が30%~40%のブドウジュースができ、独特の芳香となるのである。この現象を貴腐といい、貴腐化したブドウを貴腐ブドウと呼び、これを利用して造られるのが貴腐ワインである。貴腐とは腐敗したかのように見える外観からは想像がつかないような気高い芳香と風味のワインが造られることからそう呼ばれ、「高貴なる腐敗」を意味するハンガリー語、フランス語、ドイツ語を直訳した呼び名である。
そもそもは1650年頃にハンガリーのトカイ地方で収穫が遅れたブドウから偶然造られたものであるとされる。またドイツでも1775年に収穫が遅れたブドウが貴腐化していたものから偶然造られたとされる。フランスのルイ14世が「ワインの王にして王のワイン」と称賛したことでも知られる。
“Tokaji Aszu” by Beemwej – Praca własna.. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons.
代表的なものはフランスのボルドー地方のソーテルヌ・ワイン、ドイツはラインヘッセン地方のトロッケンベーレンアウスレーゼ、ハンガリーのトカイ地方のトカイアスーで、それらを合わせ世界3大貴腐ワインと呼ぶこともある。特にフランスのソルテーヌ村のシャトー・ディケムは世界最高の貴腐ワインとして知られている。
“A glass of Tokaji” by Charles Haynes – originally posted to Flickr as Wine. Licensed under CC BY-SA 2.0 via Wikimedia Commons.
日本でも1975年にサントリーが山梨県の自社ワイナリーで生産に成功して以降、長野県や北海道などでも貴腐ワインが造られている