ボージョレーの中でも、北部の限られた10地区、のべ22の村で生産されるワインのみが、クリュ・ボージョレーを名乗ることができる。地区ごとに特徴的な土壌や気候をもつため、それぞれに個性的なワインを生み出し、その品質はおしなべてボージョレー・ヴィラージュよりも高いとされる。

限られた10地区とは、中心となる村から名づけられたサン・タムール、ジュリエナ、シェナ、フルーリ、シルーブル、モルゴン、レニエの7つ、山の名に由来するブルイィとコート・ド・ブルイィ、そして風車から名前が採られたムーラン・ナ・ヴァンだ。

ワインはガメ種100%による赤ワインがメインで、この点においてはボージョレー中部や南部と差はない。しかし、この地の土壌が、ガメ種の風味を活かせる花崗岩質であることが、ワインの仕上がりに差を生む。

なお、クリュ・ボージョレーではボージョレー・ヌーボーの製造は行われていない。同じガメ種でも、クリュ・ボージョレーでは長期熟成に耐える生産方法でワインがつくられている。そのため、新酒(=ヌーボー)はクリュ・ボージョレーでは生産されないのだ。

【クリュ・ボージョレー地区の主な生産地】

<サン・タムール>
クリュ・ボージョレーの中では北に位置する赤ワインの村名AOC。ソーヌ・エ・ロワール県に畑を持つのはここのみ。特に自然条件に恵まれた12のクリマ(区画)のみ、クリマ名併記が許可されている。

なお、ここでは白ワインもつくられているがAOCサン・タムールを名乗らず、北に接するマコネ地区のサン・ヴェランAOCとして扱われる。

<ジュリエナ>
サン・タムールの西側にある。クリュ・ボージョレーの中で最北に位置し、マコネ地区のサン・ヴェランと接している。ボージョレーの中では最もボディのあるワインを産み出す。AOC名はかつてのローマ帝ジュリアス・シーザーに由来。

<ムーラン・ナ・ヴァン>
シェナの南に位置する。町のシンボルとなっている風車からAOCが名づけられ、ワインも「風車村ワイン」の愛称で親しまれる。フルボディに近い、しっかりとしたタンニンとストラクチャーを備えた力強いワインがつくられる。畑としてはクロ・デ・ロッシュグレが有名。

<シェナ>
村名は、樫を意味するフランス語から。モヴェーズ川に沿って広がる村名AOC。その赤ワインは「野バラの香り」と評される。西の斜面からは長期熟成タイプのワインがつくられるのに対し、東側のソーヌ川に向かう傾斜地のものは柔らかい若飲みタイプだ。

<フルーリ>
咲き誇る花、という意味を持つAOC。クリュ・ボージョレーの中ではブルイィ、モルゴンに次いで3番目に大きい産地となる。ムーラン・ナ・ヴァンに比べると華やかで優美なワインとなる。アメリカでも人気がある。

<シルーブル>
フルーリとモルゴンに挟まれた西側の奥の山側、遠くにモンブランを望む見晴らしのよいAOC。標高が高く他地区よりもやや冷涼なため、収穫はその分遅い。柔らかな味わいをもつ、若飲みタイプのワインは「ボージョレーのシンデレラ」とも評される。

<モルゴン>
生産量はAOCブルイィに次いで多い。片岩と花崗岩からなる土壌により、タンニンが強く堅固で厚みのある味わいのワインが特徴。コート・ド・ピと呼ばれる丘があり、ここでも力強い芳醇なワインがつくられる。

<レニエ>
1988年昇格。クリュ・ボージョレーの中では最も新しいAOC。西の奥にはボージョレーの由来となったボージョの村落があるため、ここがボージョレーにおいて最も古い畑との伝承もある。長期熟成には向かず、5年以内に飲まれるワインが多い。

<ブルイィ>
クリュ・ボージョレーの生産地の中では最南に位置する。クリュ・ボージョレーの地区の中でももっとも生産量が多い。
ガメ種100%のワインが多い中、このAOCだけは、ガメ種にシャルドネやアリゴテなど白ぶどうを混醸することが特例的に認められている。

なお、中心部にあるブルイィ山周辺の4ヶ村は独立してAOCコート・ド・ブルイィを名乗る。コートとはフランス語で「丘」という意味。晩夏に開催されるワイン・フェスティバルは世界的に有名。