フランス東部ブルゴーニュ地方のワイン産地で、コート・ド・ニュイ地区の中南部に位置する赤ワインの村名AOC。1936年にAOC認定を受けたこの地区のワインは、ピノ・ノワール種を最高の形で表現しているともされ、世界に名高い銘醸ワインである。
ヴォーヌ・ロマネの気候、風土
ヴォーヌ・ロマネは世界で1～2を争うほどの銘醸地である。その成果はもちろんつくり手たちの熱い情熱による面もあるが、それ以外の理由として、この地が気候、土壌、日照条件のすべてにおいて、ぶどう栽培に適していることが挙げられる。
まず気温だが、全体を通じて寒暖差の偏りがなく、昼夜の寒暖差は大きいがピノ・ノワールの栽培に最適な気温、平均14～16℃を保つことができる。次に、産地全体が東南を向いており、標高230～300mの斜面に広がる畑は日照量が十分に確保できる。
土壌は、石灰層の岩石の上に粘土混じりの石灰質土壌が広がる。この粘土質と石灰質のバランスにより、実に複雑で奥ゆかしい味わいのワインが生み出される。
これらの条件に恵まれたヴォーヌ・ロマネは、その完璧とも言えるテロワールから「神に愛される村」と称される。
ヴォーヌ・ロマネの特徴
AOC名となっているヴォーヌ・ロマネ（Vosne-Romanee）村は、コート・ドールの王冠と呼ばれる。
ワインは壮麗で力強さと柔らかさが精妙、他に並ぶものがないとされる。まばゆい宝石のような6つのグラン・クリュ（特級畑）を有し、これらはブルゴーニュで最高の産地とされ、この地のワインは非常に熟成に向いている。
中でも1.6ha程の小さな畑のロマネ・コンティは年間6000本しか造られない希少で最高品質のワインとして世界的に有名である。
ブルゴーニュでは通常、グラン・クリュといっても複数のつくり手が所有しているが、この村のグラン・クリュはドメーヌ・ラ・ロマネ・コンティが単独で所有している。よって、ロマネ・コンティの畑のものではなくとも、一流のつくり手であるロマネ・コンティ社がつくる他のグラン・クリュやプルミエ・クリュ（1級畑）のワインも、本物のブルゴーニュの醍醐味が味わえると言える。
使用品種はピノ・ノワールで、色調はルビーから黒いチューリップまで多様だが、濃い色が多い。
スパイスを基調に、イチゴやキイチゴにカシスなどの熟した果実香が加わる。複雑で洗練されたアロマが溶け合い、熟成とともに煮詰めた果実やなめし革などの香りが現れる。
ビロードの様な舌触りと品のある口当たりで、タンニンは豊か。格調高いピノ・ノワールの真髄が感じられる。瓶内での長期熟成を経ることでオイリー感と立体感が増し、コクのある官能的なワインに仕上がる。
AOCヴォーヌ・ロマネは、行政区画上ではヴォーヌ・ロマネ村とその北に隣接するフラジェイ・エシェゾー村で構成されている。フラジェイ・エシェゾー村には2つのグラン・ クリュと3つのプルミエ・クリュがあるが、村として独自にAOCを持たないため、畑名を名乗るグラン・クリュ以外のプルミエ・クリュと村名格付け畑のワインは「ヴォーヌ・ロマネ」を名乗っている。フラジェイ・エシェゾーのワインは、見分けるのが困難なほどに、ヴァージョのワインと性質が似ているとされる。
2つの村をまたぎ、ラ・グラン・リュ、ラ・ターシュ、リシュブール、ラ・ロマネ、ロマネ・サン・ヴィヴィアン、ロマネ・コンティ、エシェゾー、グラン・エシェゾーの合計8つのグラン・クリュと15のプルミエ・クリュがある。これを除いた畑のワインが村名AOCヴォーヌ・ロマネを名乗る。他の村名ワインに比べて長命で、十分に時間をかけて成熟させる必要がある。ぶどう耕作面積はグラン・クリュがヴォーヌ・ロマネ村は約26ha、フラジェイ・エシェゾー村は約42haである。プルミエ・クリュは2村合計で56ha、村名AOCは97ha程である。
一押しのワイナリー／当たり年
フランスきっての高級ワイン産地ヴォーヌ・ロマネには、数々の有名なつくり手が軒を連ねる。
まず、ロマネ・コンティとラ・ターシュの2つのグランクリュ畑を単独所有するドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ。ラ・グラン・リュを単独所有するフランソワ・ラマルシュ。ラ・ロマネを所有するコント・リジェ・ベレール。プルミエ・クリュで人気のワインをつくるメオ・カミュゼ、エマニュエル・ルジェ、ニコラ・ボテル、ドメーヌ・フォレ、ドメーヌ・マーシャル・ド・グラモンなどが挙げられる。
その他、アラン・ユドロ・ノエラ、ビゾ、カティアール・モリニエ、ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール、ジャン・グロ、ペルナン・ロサン、ルネ・アンジェル、シルヴァン・カティアールなどがしのぎを削っている。
ヴォーヌ・ロマネのワインについては、当たり年が2010年、2009年、2005年、2003年、1999年、1990年と言われ、価格が高騰する傾向がある。ロマネ・コンティのつくった「偉大な年」のワインは数百万円の値が付くものも多く、愛好家の熱狂を呼んでいる。
エピソード
一口にヴォーヌ・ロマネといっても区画ごとに細かな特徴がある。
エシェゾーの標高の高いところでつくられるワインはミネラル感があり、低いところは果実味豊か。グラン・エシェゾーは力強い味わい。リシュブールは濃密で華麗なスタイル、ラ・ロマネは引き締まったボディが特徴。ロマネ・コンティは透明感のある華やかな味わい、ロマネ・サン・ヴィヴァンは花の香りと酸のしっかりしたバランス。ラ・グラン・リュはタンニンに裏打ちされた骨格のあるワイン、ラ・ターシュはたくましく力強いボディだ。
これらは土壌・標高・日照量など、さまざまな条件の違いにより異なるものだが、いずれも人々を魅了する素晴らしいワインであることに間違いはない。
