ドイツ

ドイツワインの特徴とは ~おすすめワイン、ぶどう品種、当たり年ヴィンテージなど基本の基礎知識~

   

特徴

ドイツで生産されるワインは、圧倒的に白が多い。世界的に見ても、ドイツは最高峰の白ワインを生み出している国だ。

ドイツのワイン生産量は900万hl(ヘクトリットル)弱(2016年)。ヨーロッパ有数のワイン生産国であるイタリアフランスと比べると、5分の1程度に過ぎない。それでも生産国ランキングでは10位にランクインし、1985年ごろまで、日本において国別輸入量トップだったのがドイツワインだ。

白ワインが生産量の半数以上を占めるドイツは、世界でも稀なスタイルのワイン生産国だとも言える。

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ドイツはさまざまなぶどう品種が栽培されているが、ほとんどブレンドすることなく、単一品種のワインがつくられている。貴腐ワインをはじめとする高級白ワインはほとんどがリースリングで、リースリング100%のワインはラベルに明記されていることが多い。

他のぶどう品種としては、白ワインではミュラー・トゥルガウ、シルヴァーナー、ケルナーなどがある。赤ワインでは、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワールのドイツ語名)などがあるが、その生産量は多くない。

ドイツの白ワインといえば「甘口」というイメージが強いが、最近では辛口の白ワインも注目を集め、生産量の半分ほどは辛口だ。ただ、ドイツ産の辛口白ワインをドイツの外で見掛けることは少ない。また、甘口白ワインのタイプは非常に多彩で、世界でも類を見ないほどだ。

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ドイツワインの特徴は、フルーティで繊細な味わい、豊かなと残糖の絶妙なバランスであると言える。冷涼な気候の影響でぶどう果実は比較的ゆっくり成熟し、果実の酸がゆっくり分解されるため、ワインには独特の果実酸が残されるのだ。

ドイツワインの名醸地として知られているのは、モーゼル地方だ。ライン川の支流・モーゼル川、ザール川、ルーヴァー川の流域一帯が該当し、リースリングの産地として知られている。最大傾斜70度近くある畑もあり、土壌の性質と相まって、味に張りのあるワインが多い。

Blick auf den historischen Stadtteil Ahrweiler im Ahrtal

おすすめのドイツワイン

ドイツワインの特徴を押さえる上で、どんなワインを飲んでおくべきなのだろうか。いくつか特徴がわかりやすい、おすすめのドイツワイン/ワインジャンルを紹介しよう。

・プレディカーツヴァイン
地理的表示のあるワインの中でも、特に素晴らしい13産地からつくられた最も品質の優れているクラスのドイツワインを指す。

補糖が禁止され、A.P.Nr(公的検査合格番号)のラベル表記が義務付けされる。この番号の中には瓶詰め人の認識番号や年号等が含まれ、ワインのルーツをトレースすることが可能だ。さらにぶどう果汁の糖度により、6段階に区別される。

・Q.b.A(クー・ベー・アー)
地理的表示のあるワインの中で、特に素晴らしい13産地から作られ、ぶどう配合のバランスなどの厳しい規定をクリアしたワイン。プレディカーツヴァインと同様に、A.P.Nrの表記が必要とされる。

・ラインガウ・リースリング
ラインガウは辛口白ワインの銘醸地で、生産量の8割が辛口だ。しかし、甘口の貴腐ワインの産地としても有名で、黄金色のシュペートレーゼやアウスレーゼなどの品質が非常に高い。リースリングの栽培面積が多い。

・モーゼル・リースリング
白ワインの比率が最も高い産地。多彩な味わいのワインをつくっているが、ラインガウと並び、高級な甘口貴腐ワインがとても有名だ。急傾斜の斜面にぶどう畑が広がり、ぶどうの収穫などに手間が掛かる。

・ラインヘッセン
ドイツ国内で最大のワイン生産量を誇り、ぶどうの栽培面積も最も大きい。白ワインも多くつくられるが、最近では辛口の赤ワインの産地としても知られている。

・フランケン
辛口のワインで有名な産地。「ボックスボイテル」という扁平型の瓶が非常に特徴的だ。引き締まった力強い味わいで、土の風味がする。

・リープフラウミルヒ
「聖母の乳」を意味する軽い飲み口の甘口白ワイン。ラインヘッセンやプファルツ州で多くつくられ、一時はQbAワインの半分近くを占めていた。

日本でも有名な「マドンナ」という銘柄をはじめ、よく売れたワインだ。

・ゼクト
上級のスパークリングワインで、3.5気圧以上のものを指す。アルコール度数は10度以上で辛口、料理に合わせやすいものも多い。

・ロートリング
有名なロゼワイン。白ぶどうと黒ぶどうを混ぜて醸造するという珍しい手法でつくる。スパークリングワインも醸造される。

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ドイツの注目のワイナリー

・ゲオルグ・ブロイヤー
ラインガウのリューデスハイム村でワインを醸造する生産者。辛口のリースリングが得意で、近年の評価はうなぎのぼりだ。食事に合わせることをテーマとしたワインづくりを実践する。

ケラー
ラインヘッセンで品質を重視したワインづくりを信念深く続け、ゴー・ミヨーのドイツワインガイドにおいて、10年間も「最優秀醸造所」に選ばれるという快挙を達成している。

中でも最高のリースリングと言われるG-MAXは入手が難しいほどの人気ぶりだ。ピノ・ノワールの赤ワインも評判が高い。

・エゴン・ミュラー
モーゼルの醸造所の中でも代表的な生産者。創業は1797年と古く、モーゼルで最高の畑を所有する。
醸造するのは甘口リースリングのみだが、その歴史を生かし、古樹を上手く利用している。また、化学薬品をほとんど使わない有機栽培を貫く。

・フォン・ウィニング
ラインラント=プファルツ州ダイデスハイムのつくり手。1849年設立という老舗でありながら、相続などの分割やオーナー変更などを経て、2007年に再び統合されたワイナリーだ。

土地の個性を最大限に表現することを大切にしており、ゴー・ミヨーやファルスタッフといった専門誌で高い評価を得ている。

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ドイツワインの主なぶどう品種

・リースリング(白ワイン用/約2万ha)
ドイツを代表するぶどう品種。ドイツ国内のぶどう栽培量の23%を占める。
ぶどうの完熟が10月以降と遅く、ゆっくりとバランスの良い味わいになる。モーゼル産のリースリングは寿命が長く高品質なことから、値段が高騰することも。フランス・アルザス地方を代表する品種でもある。

・ミュラー・トゥルガウ(白ワイン用/約1万ha)
ドイツ全土の生産量の13%を占めるぶどう品種。リースリングとは対照的に9月には完熟する。
白い花やマスカットのような香りが特徴的で、その香りを生かしたライトなワインが醸造される場合が多い。

・シルヴァーナー(白ワイン用)
全栽培量の5%を占める。フランケン地方でよく使われ、またアイスヴァインにも使われる。フレッシュな風味が特徴で、フランス・アルザスでも栽培される。

・シュペートブングルダー(ピノ・ノワール)(赤ワイン用/約1万ha)
黒ぶどうの中では最も多く栽培されるのがピノ・ノワールだ。主な産地としては、バーデンやアール、ラインガウ、ラインヘッセンなどとなる。

近年の辛口赤ワインの生産量増加に伴い、ドイツワインの中でも重要な立ち位置となってきた。

・ドルンフェルダー(赤ワイン用)
ほんのり甘さを感じる優しい赤ワインに仕立てられる黒ぶどう品種。渋みも少ないため人気がある。こちらも近年、栽培面瀬が増加している。

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Dr Loosen and Robert Weil wine bottles” by Tomas erOwn work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons.

ドイツワインの当たり年/ヴィンテージ

ロバート・パーカーヴィンテージチャート によると、90点以上を獲得した当たり年のヴィンテージは次のとおり。

モーゼル >  2015年、2011年、2009年、2007年、2006年、2005年、2004年、2003年、2002年、2001年、1998年、1996年、1995年、1994年、1993年、1990年
ラインヘッセン > リースリング 2015年、2012年、2011年、2009年、2007年、2005年、2004年、2003年、2002年、2001年、1998年、1996年、1990年

ロバート・パーカー氏のドイツワインに対する評価は概ね厳しい。パーカー氏はドイツワイン全般について苦手とされており、彼の著書である「パーカーズ・ワイン・バイヤーズ・ガイド」においてドイツワインに割かれたページは非常に少ない。ただし、リースリングと一部の優良生産者については高評価をしている。

Oppenheimer Kr?tenbrunnen 1977 (Rhine)

ドイツワインの格付け

ドイツは原産地制度とともに、果汁糖度に基づく独自の等級制度を確立している。

上級の格付けワインがほとんどを占め、他国に比べて上級クラス志向と言える。13の指定地域でつくられる上級ワインにはプレディカーツヴァイン(Q.m.P)とクヴァリテーツヴァイン(Q.b.A)がある。プレディカーツヴァインはクヴァリテーツヴァインよりも果汁糖度が高いぶどうを使用しており、その位置付けはドイツにおける最高ランクだ。

後者は補糖が認められたもので、前者はぶどうの糖度によって6種類に細分化される。

糖度が低い方から、カビネット、シュペートレーゼ(遅摘み)、アウスレーゼ(房選り甘口)、さらに糖度が高く開栓後も冷蔵保存可能なベーレンアウスレーゼ(粒選り甘口)、トロッケンベーレンアウスレーゼ(世界三大貴腐ワインのひとつ)、アイスヴァイン(アイスワイン)と分類される。糖度が高いものほど醸造に手間がかかるため高価になる。

プレディカーツヴァインもクヴァリテーツヴァインも、13の特定生産地域のどれか1つの地域内のぶどうを100%使用することが定められている。

これら以外には、地酒に相当するラントヴァイン、テーブルワインに相当するターフェルヴァインなどもある。

また、冬季にはシナモンなどスパイスを利かせたホットワイン、グリューワインが飲まれる。

A nice wine

ドイツワインの主な産地

・ラインガウ
ワインづくりの若手を育てるガイゼンハイム大学が位置する地域。フルンクフルとの近郊にあり、ドイツ5大畑のうち4つを要する。リースリングの栽培面積が最も広い地域であり、全生産量の90%を占めている。

・モーゼル
ドイツ最古のワイン産地で、ドイツきっての銘醸地。斜度30%を超える世界随一の断崖絶壁のぶどう畑「テラッセンモーゼル」で知られている。標高が高く、気候は冷涼。完熟や貴腐菌によって糖度が凝縮されたリースリングが生産されている。

・ラインヘッセン
栽培総面積が2万6600haに及ぶドイツ最大のワイン生産地。「ライン川のひざ」と呼ばれる蛇行地帯に接しており、そのなだらかな地形は「千の丘陵地」という名で有名だ。リースリングのほかにも、さまざまなぶどう品種が栽培されている。

・フランケン
ドイツワイン生産地域の中で最も東に位置する地域。ドイツでは甘口のワインをつくることが多いが、フランケンでは長らく辛口にこだわっている。古代ローマ時代から伝わる丸い形をしたボトルデザインのワインがつくられている。かの著名な文豪ゲーテは、フランケンのワインをこよなく愛していたそうだ。

・ナーエ
ナーエ川の流域にある中規模のワイン産地。栽培されているぶどうの75%が白ワイン用品種だ。現在ではリースリングの生産が主流だが、かつてはミュラー・トゥルガウやドルンフェルダーなどの交配品種が多く生産されていた。

・ミッテルライン
ラインガウの西に位置するドイツで2番目に小さな生産地。険しい岩場で構成される細い渓谷の急斜面にぶどう畑がある。この地域一帯は文化的にも価値が高く、2002年にユネスコ文化遺産に登録されている。ここでは伝統品種が主に栽培されている。

・ファルツ
ラインヘッセンに次ぐ、ドイツで2番目に大きなワイン産地。ぶどう畑の総面積は2万3600haに及ぶ。ドイツで購入されているワイン3分の1はファルツのものだという。リースリングの生産が主だが、赤ワイン用品種も多く栽培されており、その3分の1をドルンフェルダーが占めている。

・バーデン
ドイツ最南部のワイン生産地。ぶどう畑の総面積は約1万5800ヘクタールにも及び、3番目に栽培面積の広大な地域である。気候も土壌も多様なので、さまざまなぶどう品種が栽培されている。

・アール
ドイツ西部における最北のぶどう栽培地。赤ワインの産地として知られ、畑の84%で赤ワイン用ぶどう品種が栽培されている。そのうち62%以上がシュペートブルグンダーであり、一番多い。

・ヴュルテンベルク
バーデンと並ぶドイツ最南のワイン生産地。さまざまな品種の赤ワイン用ぶどうが栽培されており、主要栽培品種はトロリンガーだ。

・ザクセン
ドイツ最小のワイン生産地で、ドイツ北部に位置している。ザクセンのワインは日本ではほとんど出回らないので非常に希少。リースリングの交配種の一種であるゴルトリースリング(ゴールドリースリング)がここでだけ栽培されており、名産品となっている。

・ザーレ・ウンストルート
ドイツのワイン生産地としては最北に位置する地域。伝統的に辛口ワインを生産している。

・へシッシェ・ベルクシュトラッセ
ドイツの春の園と称される温暖な土地。ぶどう畑のある山々の頂上には、古城がちらほら見受けられ景観に趣がある。

ドイツワインの歴史

ドイツのワインづくりの歴史は、紀元前100年ほどにまでさかのぼる。古代ローマ人がドイツを征服し、ぶどうの栽培が始まった。ライン川やモーゼル川には野生のぶどうが育っていて、それを原料にワインづくりが始まったという。この当時育っていたぶどうは、後にリースリングに改良されるヴィティス・シルヴェストリス種だと伝えられている。

1〜2世紀になると、ヴィティス・ヴィニフェラ系のぶどうをドイツに持ち込み、本格的なワイン生産がスタートする。このぶどうが持ち込まれ、ドイツではじめてぶどう畑がつくられたのは、モーゼルの地だとされている。

その後3世紀には、ワイン皇帝とも呼ばれるローマ皇帝プロブスがワインづくりを推奨したのに従い、モーゼル川からライン川沿いまで、ぶどう畑が広がることになる。

4〜6世紀の約200年間、ドイツワインは低迷期を迎える。ゲルマン民族大移動の時代に入り、食糧を求めるゲルマン民族によってぶどう畑は荒れ果ててしまった。ゲルマン民族の手で西ローマ帝国が崩壊したこともあって、ワイン文化自体が衰退していく。

ワイン文化が復興するのは8世紀のこと。フランク王国のカール大帝が西ヨーロッパを統一し、荒廃したぶどう畑の統一に着手したのだ。カール大帝はドイツにもぶどうの樹を植えることを命じ、ドイツワイン復興の礎となった。

12世紀になると、ドイツのワイン畑はオーストリアの近くまで拡大していき、14世紀にはイギリスへワインを輸出するほどにまで成長した。だが、17世紀前半、30年戦争が勃発し、ドイツ全土が荒廃。それに伴い、ドイツでのワインづくりはまたもや停滞していった。

18世紀に入ると、修道院などの尽力もあってドイツのワインづくりは順調に回復。18世紀後半には、ヨハニスベルク城にてぶどうの遅摘み法(シュペートレーゼ)が発見され、その後アウスレーゼ手法も開発され、ドイツでは独自にワインが発展することとなった。

19世紀後半にはドイツで最初のワイン法が施行される。20世紀初めにはドイツ高級ワイン生産者連盟が設立。質の良いワインづくりを国が早い段階から奨励することで、ワイン文化が守られてきた。

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