シェリー酒とは
シェリー酒とは、スペイン・アンダルシア州の南西部でつくられる酒精強化ワイン(フォーティファイド・ワイン)のこと。ワインの発酵の途中でグレープスピリッツを添加して、アルコール度数を高めている。
醸造方法によってさまざまな色合いや味わいになるが、原料は白ぶどう品種のみ。
シェリー酒の産地
アンダルシア州カディス県の都市、「ヘレス・デ・ラ・フロンテラ」「サンルーカル・デ・バラメダ」「エル・プエルト・デ・サンタ・マリア」の3点を結んだ地域一帯は「シェリーの三角地帯」と呼ばれている。この3都市で熟成されたシェリーだけが、原産地呼称を名乗ることを認められている。
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一帯は、アルバリサ土壌と呼ばれる、炭酸カルシウムを多く含む白亜質土壌。アルバリサはスポンジのように水分を保留するため、灌漑が禁止されているエリアにとってはありがたい性質を持つ土壌といえる。
また、この辺りはかつて海だった場所であり、塩分とミネラルも豊富だ。
シェリー酒の原料となるぶどう品種
シェリー酒に使用される白ぶどうは、パロミノ、モスカテル、ペドロ・ヒメネスの3種類。約95%がパロミノで辛口に用いられ、モスカテルとペドロ・ヒメネスはごく甘口用に使われる。
ヘレス・セレス・シェリー・マンサニーリャ・サンルーカル・デ・バラメーダの意味、由来
ヘレス・セレス・シェリー・マンサニーリャ・サンルーカル・デ・バラメーダ(Jerez-Xeres-Sherry y Manzanilla-Sanlucar de Barrameda)とは、シェリー酒の正式名称。シェリーは英語であり、スペイン語ではヘレスと呼ばれている。
シェリーは、スペインのヘレス・デ・ラ・フロンテラとその周辺地域でつくられる。中世にアラブ人がこの地を「シェリシュ」と称し、その後シェリシュでつくられるワインがイギリスに輸出されるようになったことで、シェリシュが転訛した英語の「シェリー」がワイン名として定着した。
一方、スペイン人にとってはシェリシュのShの発音が困難なため、ヘラが派生した「ヘレス」が用いられ、やがてJerez(ヘレス)と表記されるようになった。
フランス語では「セレス」となり、その結果、原産地呼称産地名が、スペイン語とフランス語、英語などのシェリー酒の名称を連続させた、ヘレス・セレス・シェリー・マンサニーリャ・サンルーカル・デ・バラメーダとなった。
シェリー酒のつくり方
シェリー酒の醸造方法
パロミノを使った辛口ワインは、まず除梗破砕して果汁を搾り、22~26℃で発酵させて辛口の白ワインをつくる。11月末以降まで澱(おり)を沈ませるために貯蔵している間に、ワインの表面はフロール(産膜酵母)という酵母の膜で覆われるので、空気と触れることがなく、酸化が抑えられる。
その後、フロール(産膜酵母)で酸化を抑えながら熟成させるか、酸化させながら熟成させるかによって、フィノ、オロロソ、アモンティリャードなどの異なるタイプのシェリー酒が出来上がる。
ごく甘口のシェリー酒の原料となるモスカテルとペドロ・ヒメネスは、糖度を上げるために、干しぶどう状態になったものを収穫。収穫後に1~2週間は天日干しをして、水分量の40%を失わせることで、糖度を高める。
果汁を発酵させると糖分がアルコールに変わるので、糖分の高い果汁を最後まで発酵させると、アルコール度数の高い辛口ワインになる。ごく甘口のシェリー酒では、途中で酒精強化をして発酵を止めるので、果汁に十分な甘さが残ったワインとなる。
シェリー酒の熟成方法
600リットルのアメリカンオーク樽で熟成が行われる。新樽は使われない。樽の中に500リットルのワインを入れると、上部にワインが空気に触れる空間ができる。その空間がフロール(産膜酵母)が繁殖するスペースとなる。
シェリー酒をつくる伝統的な熟成方法は、「クリアデラとソレラのシステム(Sistema de Criaderas y Solera)」と呼ばれている。一番新しいワインが最上段になるようにワインの樽を積み重ね、一番下にある古い樽からボトリングしていく。
減った分は下から2段目の樽から継ぎ足し、その目減り分をさらに上の樽から継ぎ足していく。一番下の樽をソレラと呼び、その上に重ねられた樽が第一クリアデラ、さらにその上の樽が第二クリアデラと呼ばれる。ソレラから年間で出荷できる量は40%未満までで、それ以上は出荷できない。
このシステムによって年式の異なるワインがブレンドされ、長年熟成されたワインと新しいワインが混ざり合う。長い年月にわたって安定した品質と伝統的な味わいを保つことができるという点がメリットだ。このようなシステムでつくられるため、シェリー酒は基本的にヴィンテージを記載しない。
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シェリー酒の種類
シェリー酒の種類は辛口が5タイプ、中間の甘さが4タイプ、ごく甘口が2タイプある。
辛口:フィノ(Fino)
画像:ティオ・ペペ
フィノはフロール(産膜酵母)のもとで、酸化を抑えて熟成させたタイプ。残糖は1リットル当たり5グラム未満で、最も辛口の酒精強化ワインと呼ばれている。アルコール度は15~18%。
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辛口:マンサニーリャ(Manzanilla)
マンサニーリャはサンルーカル・デ・バラメダで熟成させたもの。フロール(産膜酵母)のもとで、酸化を抑えて熟成させるのはフィノと同じだが、湿度が高く温暖な気候のサンルーカルで熟成させると、特性の異なるシェリー酒が出来上がる。アルコール度は15~19%。熟成期間の長いタイプは、マンサニーリャ・パサダと呼ばれる。
辛口:オロロソ(Oloroso)
画像:アルフォンソ
オロロソは、酒精強化の際に17度までアルコール度数を上げることで酵母を消滅させ、フロール(産膜酵母)が発生しない状態にして、酸化を進めながら熟成させたもの。アルコール度は17~22%。
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辛口:アモンティリャード(Amontillado)
画像:デル・デューク
アモンティリャードは、フロール(産膜酵母)のもとで熟成したのちに、フロールが自然消滅(または再度酒精強化)して酸化熟成させたもの。アルコール度は16~22%。
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辛口:パロ・コルタド(Palo Cortado)
画像:レオノール
パロ・コルタドは、ごく短期間フロール(産膜酵母)のもとで熟成させたのちに、特別な個性があると判断したシェリーについて、再度の酒精強化によりフロールを消滅させて酸化熟成させたもの。シェリー酒の中では希少なタイプだ。アルコール度は17~22%。
中間の甘さ:ドライ(Dry)
フロールのもとで熟成したフィノに、ごく甘口タイプのワインまたは、濃縮精留果汁(MCR)を添加したもの。アルコール度は15~22%、残糖は1リットル当たり5~45グラム。
中間の甘さ:ペイル・クリーム(Pale Cream)
こちらもフロールのもとで熟成したワインに、ごく甘口タイプのワインまたは、濃縮精留果汁(MCR)を添加したもの。アルコール度は15.5~22%、残糖は1リットル当たり45~115グラム。
中間の甘さ:ミディアム(Midium)
画像:クリスティーナ
辛口のアモンティリャードをベースに、ごく甘口のペドロ・ヒメネスを添加したもの。アルコール度は15.5~22%、残糖は1リットル当たり5~115グラム。
中間の甘さ:クリーム(Cream)
画像:ソレラ1847
辛口のオロロソに、ペドロ・ヒメネスを添加したもの。アルコール度は15.5~22%、残糖は1リットル当たり115~140グラム。
ごく甘口:モスカテル(Moscatel)
モスカテル種のぶどうを85%以上使用したもの。アルコール度は15~22%、残糖は1リットル当たり160グラム以上。
ごく甘口:ベドロ・ヒメネス(Pedro Ximenez)
画像:ノエ
ペドロ・ヒメネス種のぶどうを85%以上使用したもの。アルコール度は15~22%、残糖は1リットル当たり212グラム以上。
その他
シェリー酒には他にも、平均熟成期間20年以上のVOS(Very Old Sherry)や30年以上のVORS(Very Old Rare Sherry)といった「熟成期間認定シェリー」、平均熟成期間が12年または15年の「熟成年数表示シェリー」、クリアデラとソレラのシステムを使わず、単一収穫年のぶどうのみを使用した「アニャダ」といったカテゴリーがある。
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シェリー酒の主な生産者
ゴンザレス・ビアス(Gonzalez Byass)
世界でも有名なスペイン王室ご用達のシェリーメーカー。トップブランドはフィノタイプの「ティオ・ペペ」。
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ウィリアム・ハンバート(Williams&Humbert)
スペイン最大のワイン醸造所を持つシェリーメーカー。「ウィリアム・ハンバート・コレクション ドン・ソイロ」シリーズから、フィノ、アモンティリャード、クリームが日本でも購入可能だ。
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