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スペインは、イタリア、フランスに次ぐ世界第3位のワイン生産国。世界3大酒精強化ワインのシェリー酒が特に有名だ。
リオハやリベラ・デル・ドゥエロといった地方の良質な赤ワイン、カタルーニャ地方の発泡ワインのカヴァなどが知られている。
ヨーロッパのワイン大国だが、21世紀に入ってから急速にワインの品質を向上させてきている国でもある。新世代のつくり手たちが最新の醸造技術を採り入れたワインづくりに着手。「スーパースパニッシュ」「モダンスパニッシュ」と呼ばれる従来のイメージを一新するスペインワインを生み出している。
日本への輸出は、2012年時点で世界4位。2012年時点のぶどう作付面積は約102万haで世界第1位だが、他の作物と一緒に植えられる場合が多い。
おすすめのスペインワイン
スペインワインを語る上で、どんなワインを飲んでおくべきだろうか。おすすめのワイン銘柄、ワインの産地、ワインのタイプについて取り上げていこう。
ウニコ
「唯一」という意味があるスペインの最高級赤ワイン「ウニコ」。ベガ・シシリアが、テンプラニーリョにカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドしてつくり上げる。
自社畑で高品質のぶどうが収穫できた年にだけ醸造され、大樽で1年、新樽で2年、古樽で4年、さらにボトルに詰めてから3年ほどと約10年の熟成を経て提供される。
ウニコの価格は1本当たり5万円前後となるが、それだけの価値を秘めた最高級ワインだ。
王様の涙
こちらは逆に1本500円前後で買えてしまうデイリーワイン。スペイン国内での販売数量トップのブランドだ。
道に迷って困っていた王様が、農家を見つけて立ち寄ったところ、ワインを供された。そのワインのおいしさと民のもてなしに感動した王様が思わず涙した――というのが名前の由来だ。
カタルーニャのラ・マンチャで育てられたぶどうを使用。若飲みタイプで柔らかな果実味を感じられる。
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リオハ
フランスとの国境から程近いスペイン北東の内陸部、エブロ川沿いに広がるワインの産地だ。スペインで最高峰のワイン生産地であることを示すDOCaとしては、リオハが同国内で初めて認定された。
リオハワインの特徴は、テンプラニーリョを使った赤ワイン中心で、低価格でありながらその味わいに複雑味と広がりを感じられるところ。長期の熟成に向いている。
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プリオラート
同国内でリオハに次いで2番目にDOCaとして認められたのがプリオラート。こちらもフランスとの国境付近、スペイン北東部にあるワイン産地。カタルーニャ州に属し、20~30kmほど行けば、地中海に出ることができる。
こちらも赤ワインが有名。ただ、主に使用するぶどう品種は、スペインで主流のテンプラニーリョ種ではなく、ガルナッチャ種。他にもカリニェナ種やフランス系の品種を組み合わせて醸造する。
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リベラ・デル・ドゥエロ
スペイン北西部にあるカスティーリャ・イ・レオン州にあるワイン産地、リベラ・デル・ドゥエロ。寒暖差が激しく、凝縮した味わいのぶどうが育つ。
テンプラニーリョ種を使用した赤ワインが特徴。前述の「ユニコ」はリベラ・デル・ドゥエロでつくられる赤ワインだ。
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リアス・バイシャス
赤ワイン中心のスペインの中で、「スペインで最も上質な白ワインの産地」として知られる土地。スペイン北西部の大西洋沿岸部にあり、アルバリーニョ種を使った辛口の高級白ワインがつくられている。
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シェリー酒
スペインの白ワインと言ったら、世界3大フォーティファイドワインの1つであるシェリー酒も有名だ。シェリー酒は醸造時に産膜酵母の白い膜「フロール」を発生させる。フロールがシェリー酒に独特の風味をもたらしてくれる。
カヴァ
スペイン・カタルーニャ地方で、シャンパーニュと同じ瓶内2次発酵方式によってつくられたスパークリングワインの総称。シャンパンは仕上げに加糖(ドサージュ)することで味を決めるが、カヴァは十分な糖を含むぶどうを使ってつくられるため加糖されない。辛口で1500円前後から入手できる手頃さが魅力。
グラン・レセルバ、レセルバ
熟成期間によって許される名称表示が異なるスペインワイン。赤ワインなら、18カ月以上の樽熟成と、樽熟成期間を含めて60カ月以上の熟成を経ると「グラン・レセルバ」、12カ月以上の樽熟成と、樽熟成期間を含めて36カ月以上熟成させると「レセルバ」と名乗れるようになる。
スペインには長期熟成に向いた赤ワインが多いので、スペインワインのことを知るために、飲んでおきたいワインタイプだ。
サングリア
女性を対象としたあるアンケート調査で、「好きなワインカクテル」1位に輝いたサングリア。フレーバードワインの一種で、赤ワインに果物と甘味料を加えて、しばらく寝かせばサングリアが出来上がる。
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スペインワイン、注目のワイナリー
トーレス
バルセロナ近郊でワインをつくる世界最大規模の家族経営ワイナリー。2002年には『デキャンタ』によって、ミゲル・トーレス氏が「マン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、2006年には『ワイン・エンスージアスト』から「ヨーロピアン・ワイナリーオブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、世界的に名前が知られている。
140年以上の歴史を持ちながら、いち早くワインづくりにステンレスタンクを導入し、土着以外のぶどう品種を採り入れた。“新世界”のチリにも欧州のワイナリーとして初めて進出し、チリでワインづくりを広げるなど、ワイン業界を牽引する存在だ。
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マルケス・デ・リスカル
リオハを代表する名門ワイナリー。スペイン王室御用達ワインのつくり手だ。2013年には『ワイン・エンスージアスト』から欧州最高のワイナリーとして表彰されるなど、国内外で高い評価を得ている。
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ゴンザレス・ビアス
世界約100カ国で年間1000万本以上を販売するドライシェリー「ティオ・ペペ(ペペおじさん の意味)」の生産者。こちらもスペイン王室御用達のワインを手掛けている。2016年には「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」において、「ベスト・フォーティファイド・ワインメーカー」と「ベスト・スパニッシュ・ワインメーカー」を受賞した。
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フレシネ
スペインのスパークリングワイン「カヴァ」のつくり手。カステル・ブランチなどのグループ会社も含めると、年間1億2500万本ものカヴァを生産し、世界約150カ国に出荷している。カヴァに限定せずとも、スパークリングワインの生産者としても世界最大規模のメーカーだ。
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プロトス
スペイン王室御用達のワイナリー。プロトスはギリシャ語でNO.1を意味している。1927年に、11のぶどう生産者が集って組合を設立したことに端を発して創設された。スペイン中北部にあるペニャフィエル城の地下に、広大な地下セラーを2kmに渡って所有している。
ボデガス・トラディシオン
シェリーの産地として有名なヘレスに1998年に設立された。創業以来、長期熟成を経た特別なシェリーのみを販売している。ヘレスのシェリーは同地独自の製法でつくられていて、塾生から瓶詰めまでの工程が全て手作業。ボデガス・トラディシオンは、その伝統的な製法を維持する数少ないワイナリーの一つだ。
スペインワインに使われる主なぶどう品種
多様で理想的な気候風土の下、スペインでは各地方で、独自のぶどう品種から良質なワインがつくられている。
北部エブロ川流域のリオハでは、赤ワインの主品種としてテンプラニーリョ、マスエロ、ガルナーチャ・ティンタ(グルナッシュ)、グラシアーノの4品種が使用されている。
テンプラリーニョ
スペイン2大赤ワイン用ぶどう品種の一つ。赤ワイン用の黒ぶどうとしては世界一の生産量を誇る。スペイン語で「早熟な」という意味で、他の黒ぶどう品種よりも早めに収穫期がやってくることからそう名付けられた。高価なスペイン産ワインによく使われている。
グルナッシュ
テンプラリーニョに次いでスペインを代表する赤ワイン用ぶどう品種。グルナッシュはフランス語で、スペイン語ではガルナーチャ・ティンタと呼ばれている。世界でつくられるぶどう品種の中で最も生産量が多く、日本での流通量も多い。
グラシアーノ
高級ワインに補助的に使用されるぶどう品種で、テンプラニーリョとブレンドされることが多い。脇役的な役回りの品種だが、実は非常に希少で高価。気候の影響を受けやすく、栽培に手間がかかるため、その栽培量は少ない。
マスエロ
アラゴン州のカリニェナ原産。そのため、カリニェナと呼ばれることもある。フランス語ではカリニャンと呼ばれ、フランスでも広く栽培されている。ガルナッチャ・ティンタやテンプラニーリョとブレンドされることが多い。
南部アンダルシア地方のシェリーの主要品種はパロミノ。白ワイン用品種ではカタルーニャ地方のカヴァの主要品種であるビウラの他、ガルナーチャ・ブランカ(ホワイトグルナッシュ)などが生産されている。
パロミノ
酒精強化ワインのシェリーの主要品種だ。スペインや南アフリカなどで主に栽培されている。酸味や甘みがないため、スティルワインには使われない。パロミノ・フィノ、パロミノ・バスト、パロミノ・デ・ヘレスの3種類に分けられ、シェリーに使われるのはパロミノ・フィノだ。
ピウラ
スペインで2番目に生産量の多い白ぶどう用品種。確証はないが、スペインか小アジアが原産地とされている。現在の栽培地は主にスペインの北部。カタルーニャ州ではカヴァの原料となるが、リオハでは小樽発酵の白ワインに使用される。
ガルナーチャ・ブランカ
グルナッシュが突然変異して誕生したとされている。スペイン原産で、栽培地は北部に広がっている。高いアルコール度数と低い酸味が特徴で、ワインは黄色味がかった色合いに仕上がる。
他にも土着の品種なども多く、品種の数は数百にのぼる。スペイン産のワインの80%は、その中の数十種類からつくられている。
スペインワインのワイン産地
スペインはその全土において、気候や環境がぶどうの栽培に適している。
北部は比較的降水量が多く、夏に涼しく冬は温暖な海洋性の気候だ。一方、中央部は寒暖差がやや激しく、夏は暑く冬は寒いという大陸性気候。東部と南部は1年中温暖で乾燥した地中海性の気候となる。
土壌も石灰石や粘土質が多く、ぶどうの栽培には理想的だ。
スペインワインのテロワール
スペインのテロワールを語る上で特に重要なのが、中央にある標高約500~800メートルとやや高い巨大な高原だ。ここはメセタと呼ばれ、そこから地中海と大西洋の方向に向かって、何本かの主要な川が流れている。それらの川の近辺は環境に恵まれており、スペインの主要なワイン産地を形成している。
例えば、メセタから東の方角にエブロ川が流れているのだが、その流域にはDOCaのリオハがある。また、西に向かって流れるドゥエロ川の周辺にはリベラ・デル・ドゥエロ、同じく西に流れるタホ川の周辺にはラ・マンチャがある。そして、南部に流れるグアダルキビール川流域にはシェリーの主産地が位置している。
スペインワインの当たり年ヴィンテージ
スペインワインの当たり年は何年のヴィンテージになるのだろうか。
ロバート・パーカーによるヴィンテージチャートの評価は次のとおり。96点以上(類い希な出来栄え)の年をピックアップした。
リオハ 該当なし(2010年、2004年は95点)
カスティーリャ・イ・レオン > リベラ・デル・ドゥエロ 2010年
カタルーニャ > プリオラート 2013年
ガルシア 該当なし
スペインワインの当たり年については、2001年以降のヴィンテージならハズレが少なそうだ。評価が低めの年は、2002年、2003年、2006年、2007年、2011年。このあたり、特に2002年のヴィンテージを避ければ、アタリのワインに出会える確率は上がるはずだ。
スペインワインの格付け
原産地呼称制度はフランスの制度を模している。DOはスペインの高級ワインの中核的な分類で、60以上の指定地区で栽培された認可品種を原料として厳しい基準に基づき生産される。
カヴァは地域ではなく製法による分類だが特別DOとされている。
DOの中から更に厳しい基準でDOC(特選原産地呼称ワイン)に昇格するが、現在認められているのはリオハとプリオラートのみだ。
VCIG(地域名称付き)は比較的新しい分類で、特定地域のブドウ一定量以上を原料とし、その地域性を表現する。地酒にあたるヴィノ・デ・ラ・ティエラは今後VCIGに昇格予定である。他に、日常消費用のヴィノ・デ・メサ(テーブルワイン)がある。
スペインの格付けにおいて最も個性的なのは、「ヴィノ・デ・パゴ」という高品質なカリスマワイン。ある特定の村で他とは際立った違いのあるテロワールを持つ畑から生産されるものに限定して使える名称だ。認定は国の機関ではなく州政府と自治体だが、品質管理はDOCに準じる。
スペインでは品質による等級以外に、熟成度による分類もよく用いられている。長期熟成のものから順に、グラン・レセルバ、レセルバ、クリアンサ、ホーベンまたはシン・クリアンサとなる。
スペインワインの歴史
スペインもまた、フランスやイタリア同様、紀元前からワイン造りが行われてきたとされる。紀元前1100年から紀元前500年にかけて、スペイン東海岸全域に古代ギリシャ人やフェニキア人が入植し、ぶどうの樹とワインの醸造技術をもたらしたという。
紀元前100年ごろには、イベリア半島はローマ帝国により征服された。このころ、ワインの生産はすでに地域の産業として栄えていたが、ヴェニスやジェノヴァの商人によって商圏は拡大。スペイン産のワインは帝国全土に流通していった。
一方、7世紀ごろのイスラム支配時代にワイン醸造は衰退した。飲酒を禁ずる戒律を持つムーア人がイベリア半島を侵略した際、ほとんどのぶどう園が破壊されたのだ。
その後、キリスト教徒によるレコンキスタと呼ばれる国土回復運動がおき、キリスト教徒の再植民に伴ってぶどう畑も再興した。スペインでのワインの生産は、キリスト教徒の権力復活とともに13世紀ごろには再び盛んになった。
レコンキスタの終了とともに、大航海時代が幕を開ける。その時代、コロンブスがアメリカ大陸を発見したことで、スペインワインに広大な市場が切り開かれた。そのおかげで、特に南東部の沿岸都市はワイン貿易で大いに繁栄したという。
スペインワインが今のような形になるまでには、このような長い歴史を経ている。その昔、スペインワインは酸味が強かったと言われ、大衆文化として炭酸やジュースで割る飲み方が残っている。このひとつが果実やジュースを混ぜるサングリアだ。