ミュスカデは、産地名ではなくムロン・ド・ブルゴーニュ種から造られるワインの名前で、ロワール河下流に位置するナント市を中心にした地域でこのワインが造られていることからこの地域のAOC名にもなっている。
ロワール下流域のワイン産地は、ナント周辺地区とアンジュー地区に大きく分けられ、河口寄りの西側がナント周辺地区、東側がアンジュー地区である。その境界線は現在の県境であるが、歴史的にはブルターニュとアンジューという2つの国の境界線でもあった。その社会・経済的背景が栽培品種の違いとなって現れ、それが2つの地区を分けている。
西側のナント周辺地区は、ロワール河口から約60Km遡った所にあるブルターニュ南部最大の町ナントを中心に広がっており、AOCミュスカデはこのナント周辺地区にある。
ナント周辺地区では酸味のある爽やかな若飲みタイプの辛口白のミュスカデが造られており、この名前がAOC名となっている。
ミュスカデはムロン・ド・ブルゴーニュ種の単一品種から造られるが、この品種は18世紀の大寒波によってブドウ畑が全滅した際に、ブルゴーニュから寒さに強い品種として移植されたものである。これが第二次世界大戦中この地方に疎開したパリの人々が目をつけ、世界各国で愛飲されるようになった。
ナント周辺地区は、テロワールの違いで4つのAOCに分けられている。そのひとつがAOCミュスカデで、主にナント市の南部、ロワール河口の南側の地域がこれにあたり、1937年にAOC認定された。他の3つは、ミュスカデ・ド・セーヴル・エ・メーヌ、ミュスカデ・デ・コート・ド・ラ・ロワール、ミュスカデ・デ・コ-ト・ド・グランリューである。これらは当初はAOCミュスカデとして一つであったが、その後に4つのAOCとしてテロワールごとに区別されるようになった。
“Galissonni?re Muscadet 2007” by Tomas er – Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons.
土壌は、カルシウムとマンガンを含む砂混じりの粘土質で、畑は大西洋の影響を強く受ける斜面と平地にある。
淡く青白い金色の色調で、果実香に富み、爽やかでフレッシュな酸味が特徴で、AOCミュスカデのワインは、ミュスカデを最もシンプルに味わうことができるとされる。発酵の途中で発生する澱を取り除かずに樽やタンクで寝かせるシュール・リー製法を用いて造られたミュスカデのラベルには、産地を表すAOC名の後に醸造方法が表示される。