アメリカは広い面積にしてはワインの生産量は少ないが、カリフォルニアを筆頭に良質なワインを生産していることで有名だ。その他、オレゴンやワシントン、ニューヨークなどで良質なワインが作られており、カリフォルニア以外の産地でも今後さらにさまざまな試みがされていく可能性が高い。

カリフォルニア・ノースコーストは、ぶどう栽培に適した気候を持ち、世界的にもプレミアムワインの生産地としてその名を轟かせている。中には愛好家が熱狂する数万円から数十万円のワインを産出するワイナリーも多い。ナパ・バレー、ロシアン・リバー・バレーなど優良な産地がある。

気候は、低地では海風の影響を受け霧が立ち込める冷涼な地帯が多く、シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールなどが栽培される。一方、山間部に広がる畑では霧の影響を受けにくく、日照量も確保できる。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、ジンファンデル、シラーなどが栽培される。一帯はかつて海底火山だったため、火山性土壌により、水はけが良い。

【ノース・コーストの主な生産地】

<アトラス・ピーク>
アトラス・ピークはナパの北東に位置するAVAであり、太平洋からの霧が届かない高地の斜面でぶどうが栽培されている。昼夜の寒暖差があるため良質なぶどうが育つ。かつてはジンファンデルで有名な場所だったが、現在はカベルネ・ソーヴィニヨンを中心に栽培しており、全体の半分以上を占めている。

<アレクサンダー・バレー>
アレクサンダー・バレーはソノマ・カウンティにある生産地。海から離れており、丘に囲まれ温暖な気候だ。土壌の水はけはよく、良質なぶどうが育つ。
谷底ではカベルネ・ソーヴィニヨン、山沿い斜面ではシャルドネが多く栽培されている。濃厚でしっかりした赤ワインと、果実味豊かなフレッシュな白ワインを生産する。

<アンダーソン・バレー>
アンダーソン・バレーはメンドシーノ・カウンティにあるAVA。気候は年間を通して冷涼だ。
その気候を生かし、ピノ・ノワール、シャルドネ、ゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、リースリングなどを栽培している。ワインについては、ピノ・ノワールの赤とスパークリングワインが有名で、フランスのロデレール社が進出している。

<ウィロー・クリーク>
ウィロー・クリークはハンボルト・カウンティにある小さなAVA。地中海性気候の影響で夏は猛暑となるが、谷を通って海から風が吹き込み夜は冷える。
シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワールといったぶどうが栽培されるが、地区内にワイナリーはなく、ぶどうはオレゴン州のワイナリーなどに提供される。

<オーク・ノール・ディストリクト・オブ・ナパ・ヴァレー>
オーク・ノール・ディストリクト・オブ・ナパ・ヴァレーは、ナパの町の北に位置するAVA。栽培地は3300haにも達する。近隣の町と比べると、海風の影響を受け気候が冷涼だ。
白ぶどうのリースリングやシャルドネ、黒ぶどうのカベルネ・ソーヴィニヨンなどが栽培され、赤白ともに良質のワインを作っている。

<オークヴィル>
オークヴィルはナパ・バレーのほぼ中央に位置する産地。湾からはやや離れているが、それでも海風により発生する霧がぶどう栽培に影響を与える。
栽培されるのはカベルネ・ソーヴィニヨンが中心で、オークヴィルのワインはナパ・バレーの中でも特に評判が良い。代表的なものでは、スクリーミング・イーグルが挙げられる。

<クリア・レイク>
クリア・レイクAVAは、クリア湖を囲むように広がる生産地。レイク・カウンティのサブリージョンにあたる。湖のおかげで周辺に比べて冷涼な気候であり、昼夜の寒暖差がある。
カベルネ・ソーヴィニヨン、マスカット、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ジンファンデルなどが栽培され、赤白ともに上質なワインを生産している。

<ゲノック・バレー>
ゲノック・バレーはナパ・バレーのすぐ北に位置する。岩山に囲まれ暑く乾燥した地帯で、良質のぶどうが栽培できる場所はごく一部だ。
この地でワインを生産するのはラングトリー・エステートのみ。プティ・シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンを使用した赤ワインが有名だ。

<コール・ランチ>
コール・ランチはメンドシーノ・カウンティのAVA。付近にはアンダーソン川とロシアン川が流れている。リースリングやピノ・ノワール、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどが栽培されている。
リースリングによる白ワイン、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローによる赤ワインが代表的だ。コール・ランチ全体がエスターリナ・ワイナリーの所有となっている。

<コヴェッロ>
コヴェッロはメンドシーノ・カウンティに属する大変小さなAVA。フランスのローヌ北部と近い気候区分を持ち、シラーやサンジョヴェーゼなどが栽培されている。
現状ではワイナリーはなく、ぶどうの栽培についても試行錯誤の段階だ。

<スイスン・バレー>
スイスン・バレーはソラノ郡のワイン産地。ハウエル・マウンテンとヴァカ山脈の間に位置する。夏は温暖で乾燥するため、プタ・サウス運河から灌漑用水を引いている。
この地ではバーベラやカベルネ・ソーヴィニヨンをはじめ、20種類以上のぶどうが栽培されているが、ほとんどはノース・コーストAVAのワイナリーに売られる。

<スタッグス・リープ・ディストリクト>
スタッグス・リープ・ディストリクトはナパ・ヴァレーのAVA。ナパの町の北方に位置する。周辺の地域と比べてあまり暑くならないのが特徴だ。
栽培されるのはカベルネ・ソーヴィニヨンがほとんどで、同種を利用した赤ワインが多いが、少量だが白ワインも生産されている。シェーファー・ヴィンヤードが有名だ。

<スプリング・マウンテン・ディストリクト>
スプリング・マウンテン・ディストリクトはマヤカマス山脈の斜面に位置する。低地では霧の影響を受けるが、畑の大多数は400m以上にあるため、霧の影響は少なく日照時間が確保できる。
カベルネ・ソーヴィニヨンのワインが中心で、他にはメルローを使用するものも作られる。

<ソノマ・コースト>
ソノマ・コーストはカリフォルニア州北のソノマ・カウンティにある。ソノマ・カウンティは広大な面積の中で山や谷を有し、複雑な地形がミクロクリマを生む。海風の影響を受け、ソノマ・カウンティ内で最も冷涼な気候だ。
この気候と岩だらけの土地でぶどう栽培にはあまり向かないとされてきたが、最近は評価の高いピノ・ノワールを多く生産している。

<ソノマ・バレー>
ソノマ・バレーはソノマ・カウンティにある生産地。南にあるサン・バブロ湾から流れ込む霧により、冬は暖かく夏は涼しくなる。
低地ではシャルドネとピノ・ノワール、高地ではカベルネ・ソーヴィニヨンやジンファンデルが栽培されている。

<ソノマ・マウンテン>
ソノマ・マウンテンはソノマ・カウンティの中、ソノマ山の山間にある生産地。標高700m以上の高地でぶどうが栽培されている。
山間の複雑な地形がミクロクリマを生み出し、それぞれ場所に合ったさまざまなぶどうが栽培されている。土壌も白亜質の火山性土壌をベースに、さまざまだ。

<ソラノ・カウンティ・グリーン・バレー>
ソラノ・カウンティ・グリーン・バレーは、州都サクラメントの南西の丘陵地に位置している。穏やかな海洋気候で、日中は温暖だが夕方には霧が発生し、夜は冷涼になる。
生産されるワインは赤ワインが中心で、カベルネ・ソーヴィニヨンやシラー、メルローなどが使われる。

<ダイヤモンド・マウンテン・ディストリクト>
ダイヤモンド・マウンテン・ディストリクトはカリフォルニア北部のAVA。マヤカマス山脈の山間部に位置する。標高は200mほどで、他の生産地と違いあまり霧の影響を受けない。豊富な日照時間と寒暖差の影響を受け、果実味豊かで端正な味わいのぶどうが育つ。
カベルネ・ソーヴィニヨンによる赤ワインが多く、引き締まった味わいで熟成にも耐える。

<チョーク・ヒル>
チョーク・ヒルはソノマ・バレーのAVA。ロシアン・リバー・バレーの東、山間部に位置する。フランシスカン・アッセンブラージという混合土壌が特徴。
日当たりの良い山間部ではソーヴィニヨン・ブランやカベルネ・ソーヴィニヨン、ロシアン川沿いの低地ではシャルドネなどが栽培されている。

<チリズ・バレー>
チリズ・バレーはナパ・バレーのサブリージョン。ヴァカ山脈の山間部にぶどう畑があるが、30haほどで大きくはない。標高が高いため霧の影響はあまり受けず、果実味と酸味のあるぶどうが育つ。
ジンファンデルやカベルネ・ソーヴィニヨンがメインに使われ、赤ワインが多い。ブラウン・エステートが有名だ。

<ドス・リオス>
ドス・リオスはメンドシーノ・カウンティのAVA。コヴェロとともにラルフ・カーター氏によりAVA申請された。同氏によるとこの2つの場所は、将来的に良質のワインを生み出せる大きな可能性を秘めているという。
現在メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンに加え、ピエモンテ原産のシャルボノも栽培されている。

<ドライ・クリーク・バレー>
ドライ・クリーク・バレーはソノマ・バレーのAVA。区域の南部は海風の影響を受け冷涼だが、北部は温暖だ。
ジンファンデルの一大産地として知られるが、プティ・シラーとの混醸や、カベルネ・ソーヴィニヨンによるものもある。南部ではソーヴィニヨン・ブランやシャルドネを使い白ワインがつくられる。

<トリニティ・レイクス>
トリニティ・レイクスはトリニティ・カウンティに属する。冷涼な気候と水はけの良い土壌は品質の良い白ぶどうの栽培を可能にしている。またピノ・ノワールを使った上質な赤ワインも醸造される。
生産量は少なく、ほとんど輸出されない。

<ナイツ・バレー>
ナイツ・バレーはソノマ・バレーのAVA。丘陵部と平野部で気候や土壌が違い、それぞれの特徴に合わせたワインを生産している。
生産量の大半はボルドー品種を使った赤ワインが占めるが、白ワインの評価も高く、ピーター・マイケルの手掛けるソーヴィニヨン・ブランが有名だ。

<ナパ・バレー>
ナパ・バレーはサンフランシスコ北側の生産地で、世界的なプレミアムワイン産地として有名だ。東西を山に囲まれた渓谷地帯には、さまざまなミクロクリマが発生し、つくられるワインをより繊細に、個性的にする。南部と北部で気候が異なり、北部はより温暖、南部は冷涼だ。
カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ピノ・ノワール、メルロー、シラー、ジンファンデルなどを中心に、幅広い品種の栽培が試みられている。

<ノーザン・ソノマ>
ノーザン・ソノマはロシアンリバーやアレクサンダー・バレーなどを含む広域AVAだ。
低地では冷涼な気候で朝夕には霧が立ち込め、このあたりではシャルドネやピノ・ノワールといったブルゴーニュ品種が育つ。一方山間部では、日照量を生かし、カベルネ・ソーヴィニヨンやジンファンデルを栽培している。

<ハイ・バレー>
ナパ市クリア湖の北東岸に位置する、レイク・カウンティのサブリージョン。標高500m以上の高地でぶどうが栽培され、昼と夜の気温差が激しい。優良とされる畑がいくつかあり、洗練されたワインが生産される。
特にプティ・シラー、シラー、グルナッシュから作られる赤ワインが有名だ。

<ベネット・バレー>
ベネット・バレーは、ソノマ山、テイラー山、ベネット山に囲まれる狭い地域。北側は平地に向いており、太平洋からの風が通る。
冷涼な気候のため、シャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、メルローが多く栽培される。爽やかな白ワインと香り豊かな赤ワインを生産する。

<ベンモア・バレー>
ベンモア・バレーはレイク・カウンティのサブリージョンにあたり、クリア湖の南西部に位置する。小さな栽培地であり、生産者は1つのみ。またこの地区にワイナリーはない。作られたぶどうはエリア外にあるワイナリーに供給されている。

<ポッター・バレー>
ポッター・バレーはメンドシーノ・カウンティにあるAVA。やや冷涼な気候で、アルザス系やドイツ系の品種を栽培するのに向いている。
カリフォルニア内で最も品質の良いリースリングを栽培する地域とされ、貴腐ワインや甘口ワインも作られる。

<マウント・ヴィーダー>
マウント・ヴィーダーはナパ・バレーのサブリージョン。マヤカマス山脈の最高峰、ヴィーダー山付近の丘陵地帯。ぶどう畑は急斜面に広がる。高度があるため霧の影響をあまり受けず、凝縮感のあるぶどうが育つ。
手作業の収穫によるため収量は少ないが、主にカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、ジンファンデルを使った赤ワインを生産する。

<マクドウェル・バレー>
マクドウェル・バレーはマヤカマス山脈の裾野、クリア湖の西に位置する。水はけの良い砂質ローム層の土壌を持ち、ロシアン川の影響を受けやや冷涼な気候だ。
シラー、グルナッシュなどローヌ地方と同じようなぶどう品種が栽培される。

<メンドシーノ>
メンドシーノは広域AVAで、アンダーソン・バレーやヨークヴィルなどのAVAを擁する。場所により温暖な生産地と冷涼な生産地があり、その気候に合わせピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・シラー、シャルドネ、リースリングなどが栽培される。
ピノ・ノワールを使用した赤ワイン、シャルドネなどを使用する白ワインが作られる。

<メンドシーノ・リッジ>
メンドシーノ・リッジは太平洋岸に展開する山岳地域だ。海風による霧は標高の高いこの場所では影響せず、豊富な日照量に恵まれる。
ジンファンデル、ピノ・ノワール、シラー、シャルドネなどが栽培され、主に赤ワインを生産している。ナパやソノマに供給されるぶどうも多い。

<ヨークヴィル・ハイランズ>
ヨークヴィル・ハイランズは、メンドシーノ・カウンティにあり生産地。森林や山が多い地域で、冷たい海風が流れ込む冷涼な栽培地だ。そのため害虫の被害が少なく、有機栽培を実践する作り手も多い。
ピノ・ノワール、シャルドネ、リースリングなどが栽培される。

<ヨーントヴィル>
ヨーントヴィルはナパ・バレーのほぼ中心に位置する。ぶどう畑は平野部にあり。サン・パブロ湾からの冷風が霧を引き起こすため、夏は夜間が涼しくなる。
カベルネ・ソーヴィニヨンによる赤ワインが多く、一部ソーヴィニヨン・ブランを使った白ワインも作られる。

<ラザフォード>
ラザフォードはナパ・バレーの中央、オークヴィルの北に位置する。ナパ・ヴァレーの中では多少暑く、夏の気温は30度ほどに達する。土壌は水はけの良い砂質のローム層。
カベルネ・ソーヴィニヨンが中心で、華やかな良質のワインを生産する。フランシス・フォード・コッポラによるルビコン・エステートなどが有名だ。

<レッド・ヒルズ・レイク・カウンティ>
レッド・ヒルズ・レイク・カウンティはクリア・レイクのサブリージョン。ぶどうは500m以上の高地で栽培され、十分な日照量がある。
フランスのローヌやボルドーと気候が似ており、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランなどが栽培されている。パワフルな赤ワインが多い。

<レッドウッド・バレー>
レッドウッド・バレーはメンドシーノ・カウンティの生産地。丘陵地帯で標高が900mに達する場所もある。乾燥しており病気や害虫の被害が少ないので、有機認証されている畑が多い。
シャルドネやピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンなどが栽培され、穏やかな味わいのワインが作られている。

<ロシアン・リバー・バレー>
ロシアン・リバー・バレーはソノマ・カウンティに位置し、カリフォルニアを代表する産地の1つだ。サン・パブロ湾から吹き込む霧の影響を強く受け、冷涼な地域である。
そういった気候を生かし、ピノ・ノワールやシャルドネなどが栽培され、複雑な味わいと奥行きのあるぶどうが収穫できる。

<ロス・カーネロス>
ロス・カーネロスはソノマ・カウンティとナパ・カウンティにまたがる栽培地で、サン・パブロ湾に近い。
真夏でもあまり気温が上がらず冷涼な気候であり、ピノ・ノワールやシャルドネが栽培されている。スティルワインの他、高品質のスパークリングワインも作られている。

<ロックパイル>
ロックパイルはドライ・クリーク・バレーのサブリージョンであり、ソノマ湖のすぐ北に位置する。南東や北東向きの斜面では十分な日照量を得られ、乾燥した土地は粒が小さく凝縮したぶどうを育む。
ジンファンデルがメインだが、カベルネ・ソーヴィニヨンやプティ・シラーなども栽培される。

<ワイルド・ホース・バレー>
ワイルド・ホース・バレーはナパ・バレーの東部。標高は400mと高めで、平地で受けるような霧の影響はあまりない。
カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワール、シャルドネなどが作られる。有名なケンゾー・エステート・ワイナリーの本拠地だ。